第217話 雷神ゼウス、残業ゼロ
雷神ゼウスの一日は、規則正しい。
――というより、
人間より労働環境が良すぎる。
「今日の稼働予定は以上です」
ウェスタの報告が終わる。
雷神ゼウスは、うん、と素直に頷いた。
「じゃあ、今日も下界に雷を流してくるね」
それだけだ。
戦争はない。
災害も少ない。
魔力網と電力網は安定。
つまり――
やることが少ない。
「……これで勤務時間、どれくらいだ?」
統括が確認する。
「本日の稼働は三十分です」
ウェスタが即答する。
「短っ」
「しかも自動化が進んでいますので、
実働は十七分です」
「短っっ」
雷神ゼウスは、もう上着を脱いでいた。
「じゃあ、行ってくるね」
「待て待て」
統括が呼び止める。
「もう行くのか?」
「うん。
今日、街の発電効率がちょっと良くなったから、
雷を一回軽く調整するだけ」
「それだけ?」
「それだけ」
―――
下界。
空は晴れている。
なのに、
ピカッ、と一度だけ雷が走る。
人々は誰も気にしない。
「あ、電圧安定した」
「さすが雷」
それだけだ。
祈りもない。
感謝もない。
雷神ゼウスは、雲の上で満足そうに頷いた。
「うん、きれいに流れてる」
――仕事終了。
―――
天界。
雷神ゼウスが戻ってくる。
「おかえり」
ウェスタが言う。
「ただいま」
「問題は?」
「特にないよ。
人間、もう雷の使い方うまいね」
統括が腕を組む。
「……神の仕事、奪われてないか?」
「奪われてるね」
ゼウスは即答した。
「でも、楽しいよ?」
「どこがだ」
「人が工夫して、
勝手に便利になってくれるところ」
「神としての誇りは?」
「誇り?
あー……雷が止まったら困るでしょ?」
「まあな」
「だから止めない。
それで十分」
―――
そこへ、ケルちゃんが来る。
「ゼウスー!」
「今日も仕事早いね!」
「うん!」
ゼウスはにこにこしている。
「じゃあ、あと何するの?」
「特に決まってない」
「……え?」
「散歩しよっかな。
下界の街、最近おしゃれなんだよ」
「神が観光気分かよ」
統括がツッコむ。
「いいじゃん」
ゼウスは笑った。
「神が暇って、
世界がうまくいってる証拠でしょ?」
統括は、言葉に詰まった。
確かに。
雷神は働いている。
だが、
必死ではない。
必要な分だけ。
余計なことはしない。
「……超ホワイトだな」
「でしょ?」
ゼウスは胸を張る。
「残業ゼロ。
クレームゼロ。
祈り対応ゼロ」
「神の職場として、理想すぎるだろ……」
―――
その日の夕方。
雷神ゼウスは定時で仕事を終え、
雲に寝転んで空を見ていた。
下界は光っている。
雷は、道具になった。
それでも――
止まらない。
誰にも知られず。
誰にも祈られず。
「……まあ、いいか」
雷神は、そう呟いた。
神が目立たない世界。
それは、
神が一番楽な世界だった。




