ガチ勢による聖騎士育成論
「どれくらい強いのかですって? はっ」
アケボシがマエリスの疑問を鼻で笑う。そして愉悦を表情に浮かべて早口で語りだした。
「最強になる一歩手前ってところね。私は火力極特化で先制殲滅派なんだけど『信念:家族』、『所属:故郷』、『幸福度:プラス』だから守りに特化した素質なのよ。本当はダンジョン巡って装備を集めたいところだけどアカデミー入学してないから自由行動はできないのよね。だからステータスを中心に鍛えまくって、受ける『聖務』を選んで身体強化一本でレベルを上げまくったわ。故郷が滅んでないから魔法の成長が早いのはラッキーだったわね。経験値ブースト系アイテムがないからこれ以上の成長は難しいけど、本編が始まって装備が集まればラスボスの大技を素で受けてもピンピンしてる騎士様が完成するわ」
「え、あ、そ、そうなんだ」
「身体作りも怠ってないわ。成長期の基礎ステータス底上げのために食事の栄養学から鍛錬と休憩の最適サイクル、乱数まで加味した計画は完璧に進行中よ。条件設定の緩い隠しイベントとか『聖痕』のイベントも順調だし、ぶっちゃけRTAの理想チャートを超える勢いね」
「う、うん」
「もちろん状態異常も忘れてないわ。『空腹』『疲労』『欠乏』『気絶』『出血』『脆弱』『阻害』『混乱』『火傷』『腐食』『石化』『窒息』『失明』『凍結』『中毒』『感電』。上げられる耐性はカンストまで上げきったはずだもの。特殊耐性はさすがに本編開始しないと難しいし『貫通耐性』のアイテムがないと完全無効化にはならないけど、これなら二年目の終わりまでは心配無用よ」
(その耐性ってどうやって上げたのかな? まさか、非人道的なことを……?)
「惜しむらくはステータス画面が確認できないことよね。討伐までの時間とか攻撃回数とかである程度の成長は推測できるし経験値テーブルは覚えてるけれど、やっぱりステータスやスキルレベルは数字で見たいのよね。正確な進捗確認という意味でも達成感って意味でも。ねえあんた魔道具の研究してるんでしょ? 作りなさいよ」
「作りなさいと言われても」
(完全に推しを語る限界オタクの早口だ)
怒涛の勢いに終始押されっぱなしで相槌しか打てないマエリス。
辛うじて返せたのは、しょうもない感想だけ。
「ガチ勢だったんだね」
「これでもシーズンランキングでは毎回アンリミ帯にいたわよ。そういうあんたは? 良くてゴールド帯とか?」
「いや、ランキング? 『巡礼の騎士』は完全個人向けのゲームだったはずだけど」
その発言にアケボシは目を見開いて叫んだ。
「信じらんない! あんたオンライン版やってないの!? あの四天王グループがバックについてたのに!? 人生の十二割損してるわよ!?」
「損が今世にまで食い込んでるじゃん」
「え、何? あんた前世は仙人でもやってたの? 俗世との関わりを捨てて山の中で暮らしてたとか?」
「いや、普通に会社勤めのエンジニアやってたよ」
「猶更あり得ないじゃん。四天王グループが初めてVRゲームに進出するってんで界隈が話題になってたらしいけど?」
「そもそも四天王グループって何さ? 常識のように言ってるけど、有名なグループなの? 随分と名前が中二っぽいけど」
「……あんた、マジで前世はどういう生活してたの? そもそもホモ・サピエンスだった?」
「そこから疑われるの!?」
異様に細部が嚙み合わない会話。アケボシが幽霊や珍獣を見るような目でマエリスを凝視している中、ある仮説が浮かび上がった。
「……もしかして、前世が違う?」
「は?」
「一般常識に差異はないから、時代とか世界線とかは近そうだけど、それでも別の世界から転生してきたんじゃないかな」
「あー、並行正解ってやつ?」
さすがオタク、その概念に理解があるのか詰まらなさそうにアケボシが言う。
「あるいは、君の前世の方がボクよりも未来だった可能性もあるけど」
「ふーん。まあどうでもいいけど。あ、良くないわ。そっちの世界にも『騎士シリーズ』があったってことでしょ? どこまで行ったの? 第四部出た?」
どこまで行っても興味がそこにしかないのか、嫌悪感はどこへやら、ズイと身を乗り出して訊いてくるアケボシ。
「いや、ボクが『巡礼の騎士』を知ったのはちょっと特殊な経緯で、前世で見聞きした覚えはないなぁ」
「なんだ、使えないわね」
「ていうか、シリーズものなの? 続編があるの?」
「あるわよ。『巡礼の騎士』、『告解の騎士』、『葬送の騎士』──第四部は制作決定しただけだったから、それを見ずに死んだのが後悔だったのよね」
「その続編、オンライン版に登場してきたり?」
「するわよ。大体原作が公開されてから一年くらいで組み込まれる感じかしらね。ま、私は永遠に『巡騎士』一択だけど」
(想像以上にスケールが大きな話になってきたな……)
続編があるということは、それぞれに主人公とボスがいるということで。
新しいシステム、未知の要素が追加されるということで。
アケボシの語る育成では足りない可能性があるということ。
(それに、転生者がボクとアケボシだけと考えるのは楽観が過ぎる。皆がマノンに好意的だとも限らない)
もしも、アケボシレベルの知識を持つ転生者がマノンに敵対的だったら?
アケボシも知らない続編の知識を持って強くなっていたら?
想像するだけでも恐ろしい。
(……足りない。何もかもが足りない。目覚めてゴールじゃない。目覚めて漸く、周回遅れのスタートを切っただけなんだ)
『左の生命樹』と『右の邪悪樹』。
神々も知らなかったこの力はマエリス固有のものだと信じる。
その上で、最善を尽くしても尚足りないことを想定して足掻かなければならない。
(……結局、ボクは変われないんだ。ごめんね、マノン)
「──お待たせ! 何だか盛り上がってたみたいだね」
「──ぁぅ、騎士様、ぉ疲れだとぃぅのに、すみません……」
「ありがと、マノン。うん、シルフとは仲良くなれたと思うよ」
アケボシが主人格を明け渡して引っ込み、一転して縮こまったシルフ。
それを見ながらマエリスがマノンに笑いかけると、マノンは安心したように笑顔になった。
(チートでも、グリッチでも、何をしてでも、お姉ちゃんが守ってあげるから)
その決意は、心の中に留められた。
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