決着と合否
マノンの手の中に眩い光の塊が出現し、徐々に剣の形をとっていく。
それに呼応するようにマノンの額に光り輝く紋章が浮かび上がった。
「長くはもたないから、すぐに決めるよ」
『聖痕』、そして『聖剣スペード』。マノンを聖騎士たらしめる二つの象徴が今、ミシェルへと向けられる。
互いが様子を見ることで生まれた、ほんの一瞬の凪。
その瞬間にマノンは駆け、天に二つ目の太陽が生まれた。
(速い! でも、負荷はさっきよりは楽?)
聖騎士としての力を解放したお陰か、身を圧し潰さんとするGが軽くなったことで、これ幸いとマエリスは周囲の観察と魔法の解析を続ける。
進路を塞ぐように突き立つ光線は、アトラクションの障害物に過ぎず。
その身を砲弾とし、距離を無意味と嗤う速度は、一回、二回、四回、八回、ミシェルの陽炎を突き抜け、埋め火の罠を置き去りにする。
マノンに足場にされたり、太陽の熱を受け自然発火したりで、周囲の森は見るも無残な有様だ。
「どこにもいない?」
「いや、居るよ」
周囲の空をあらかた抉り、徹底的に陽炎の発生地点を潰し終え、それでもミシェルを見つけられなかったマノンの困惑に、マエリスが真上を──迫りくる太陽を指さす。
「あの向こう側がゴールだ」
「うーん、お父様がやりそうなことだね」
「今のマノンなら、迂回もできるんじゃない?」
「多分それだと合格くれないと思うなぁ」
「だよね──それじゃあ」
「うん──お姉ちゃん」
マノンが姿勢を僅かに低くし、足に筋力と魔力を集中させる。地面が小刻みに揺れ始め、瓦礫が崩れ宙に浮く。
「好きにやりな!」
「合わせて!」
轟音。反作用で大地を陥没させたその跳躍は、破砕音を超えて太陽へと肉薄する。
直視すら困難なそれ。瞼を閉じてさえも見える光目掛けて、マノンは聖剣を振るった。
一閃。
魔法の核を真っ二つにされることで、その膨大な熱と光と魔力を空気へ還元していく残骸を突き抜けて、その裏にいたミシェルへ一直線にマノンは飛翔する。
振りぬいた聖剣を逆袈裟に振り上げるマノン。その切っ先をミシェルは見つめ──
その直前、マエリスの腕に触れた陽炎が、潜んでいた罠ごと存在を破綻させる。
「──っとと、危ない危ない」
「捕まえましたよ、お父様」
聖剣が陽炎の後ろにいた本物のミシェルを切り裂く前にマノンは聖痕を解除し、マエリス諸共父親に抱き着いた。
「この距離ならさすがのお父様も、打つ手はありませんよね?」
「……参った。降参だ」
娘たちからの宣告に、ミシェルは大人しく白旗を上げるのだった。
「──お待たせ、お姉ちゃん」
「長かったね。ブレイクさん怒ってた?」
「ブチギレだったよ。黒い顔を真っ赤にしてさー」
「魔力の衝突による余波がギルドにまで届いていたそうだよ」
帰りの馬車。途中で寄ったギルドから戻ってきたマノンとミシェルが苦笑しながら様子を話す。
「まあ、あれだけの破壊があればね……」
戦場となった森はすっかり焼き尽くされ、隣接する区画まで炭化してしまっていた。
森の外にまで影響があっても不思議はないとマエリスは遠い目をしていると、マノンが口を尖らせる。
「お父様強過ぎだよ。この前の聖務で出くわした『魔王の影』並みだったよ。意味わからない」
「歴代最速の成長と謡われる聖騎士を相手にするんだ、出し惜しみなんてしていられないさ」
「お父様はあれで限界だったの? 私はまだもう少し余裕はあったけど?」
「まさか。私もまだ余力はあったさ」
「二人とも負けず嫌いじゃん」
言い争う二人に呆れるマエリス。このままだと長引きそうだったため、マエリスは棚上げにされている話題を持ち出した。
「それで? 結局ボクらは合格でいいの?」
「あ、そうだ! お父様、私たちはリフィを探しに行っていいの?」
「せっかちだね……やれやれ」
身を乗り出して聞いてくるマノンから、ミシェルはソファの背もたれに逃れる。
「結論から言うと、マノンは合格だ。だがマエリス、君についてはまだ悩んでいる」
「何で!? お姉ちゃんも頑張ったじゃん!」
「落ち着いてマノン」
マエリスは憤慨するマノンを宥めた。
「お父様の判断も仕方ないよ。結局ボクは腕が少し動くようになっただけなんだから」
「でもお父様の魔法を、無効化? するのはすごいことでしょ?」
「そこが問題だ。私の方で簡単に検証をさせてもらったが、結果は全て無効化。しかし今後無効化できない魔法があるかもしれない」
「そもそも、何で無効化できたかも仮説段階だし」
「えー……機能があるならそれでいいじゃん」
「いいわけないじゃん」
マノンの研究者らしからぬ発言にマエリスが即座にツッコむ。
「自分の武器になるんだよ? ちゃんと理解してないと事故につながるよ」
「聖剣はなんとなくでも大丈夫なのに……」
「ボクのは聖剣じゃないから」
なんとなくで扱われる聖剣を哀れに感じながら、マエリスはやんわりと否定した後ミシェルの顔を覗き込む。
「でもボクも行きたいんです。どう条件を付ければオーケー出してくれますか?」
「ふむ……」
珍しく長考するミシェルと、それをじっと待つマエリスとマノン。
その静寂を破ったのはその誰かではなく、御者席のミカだった。
「旦那様、お客様のようです」
「うん?」
敷地が目前というところで馬車は止まる。
ミシェルとマノンが下車し、件の来訪客を視認したところでマノンが声を上げた。
「あ、シルフ!」
「ぁぅ、騎士様、ご無事で、ょ、ょかった、です……」
「アムレート様の聖痕が輝いて何事かと思いましたよ。ご無事なようで何よりです、インヴァネス様」
「むう。ユリにもマノンって呼んでほしいっていつも言ってるのに……」
「マノン?」
車内に取り残されたマエリスがマノンを呼ぶ。自分も外に出ていいのかと尋ねると、マノンは顔を輝かせた。
「お姉ちゃん、紹介するね! 私のお友達のシルフと、お付きのユリだよ!」
マノンに抱えられながら顔を合わせたのは、とても見覚えのある七色の髪の少女と、身体全体をローブで隠した女性だった。
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