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オーダーメイド 〜魔道具の祖は主人公な妹と共依存になるようで〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第一部 四章 Order:凪を拒む夜会

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賢者の試練

「随分と発展したんだね」


馬車の窓から流れていく街並みを眺めていたマエリスが呟く。


元々は『魔の森』に隣接した街であり、魔法研究が盛んで爆発の絶えなかった街であるマギカ領は、大通りの道幅がさらに広がり、明るい雰囲気へと変わっていた。


同時に、爆発でなく人の流れによって暑く騒がしくなっている。拡張された大通りだが、それでも込み具合は十年前を超えていた。


「ガラスの質も、大分良くなってるし」

「今は大陸で二つ目の港町として機能している。外見こそ目まぐるしい成長だが、その内部は未だ混沌としているよ。十年前から手付かずの区画も多い。課題は山積みさ。

 ガラスはラホープ公爵家から特別に頂いたものだ。近年はかの領も産業の発達が目覚ましいようで。誰のお陰だろうね」


マエリスの疑問に、ミシェルが揶揄うように言う。マエリスを膝に乗せたマノンが自慢げに胸を張った。


「リケ君が感謝してたよ、お姉ちゃん」

「ボクは関係ないでしょ。ずっと眠ってたんだから」

「お姉ちゃんの無茶ぶりがなかったら、この発展はあり得なかったとも言ってた」

「それ、感謝なのかな……?」


マエリスの記憶には、顕微鏡を作るようせっついたぐらいしかないのだが……まあ感想は人それぞれだろう。


マエリスは意識を景色に戻し、話題を変える。


「港町は、既にブルー侯爵領がありましたよね? それでもこんなに栄えるものですか?」

「『世界三大魔海域』を知っているかな?」

「? はい、知ってますけど」

「その場所は?」

「えっと……確かペーラ・ウルト大陸の北西にもありましたよね」


唐突なミシェルの問題に、ほとんど使うことのなかった知識を脳の奥底から引っ張り出して回答するマエリス。

瞬時に名前が出てこなかったが、既に大陸の外へ行ったことのあるマノンが補足した。


「『レムリア魔海域』だよ、お姉ちゃん。私たちがアカデミーに行くときにも関係するんだけど、ペーラ・ウルト大陸はその魔海域と、南の『吹雪の海』に挟まれてるから航路は西に行くしかなかったの。西のアンド・エルゼ大陸はまだしも、東のスポソ・イーア大陸とか、北のメルへ・グリム大陸に行くには星をぐるっと回って行かないとダメだったんだよ」

「厳密に言えば、すぐ隣のナザーリムとは小舟程度での交易は存在するが、東部海岸は砂丘地帯な上に天候が安定しないため、港に適さず大きな船が使えない。

 だがブルー侯爵領からレムリア魔海域を挟んだ我が領の港ならば、直接東へ航路をとることができる」

「ああ、なるほど。住みわけができてるんですね」


前世にも存在した、大航海時代。その賑わいが目の前にあると考えれば、この喧噪も納得できるとマエリスは頷く。


「──ああミカ。止めてくれ。ブレイクに一言伝えてくる」


御者席にいるミカへそう告げたミシェルは、馬車が止まると扉を開けて下車する。

一瞬見えた景色から、今冒険者ギルドの前で止まっていることが分かったマエリス。その外観は記憶通りに、そして予想通りに古びており、どこか安心を覚えた。




ミシェルが乗り込み、再出発した馬車はそのまま北上を続け、樹々が規則正しく並べられた箇所に差し掛かった辺りで横に逸れた。


更に揺られること数分。ミシェルに降りるよう告げられた場所は、樹々の生い茂る森の中だった。


「安心したまえ。魔物は湧かない。ここは『魔の森』の跡地で、開拓予定地さ」


マエリスが一瞬体を硬くしたのを見て、ミシェルが説明する。

その間、マノンとミシェルは互いから離れるように、しかし目線は逸らさないように距離を取っていく。


「冒険者も来ない。ブレイクに確認したからね」

「わざわざここまで来たのは、それだけ周囲に被害が出かねないからですか?」

「分かりきったことを訊くものではないよ、マエリス」


いつの間にか、馬車とミカの姿はなくなっていた。


「ではルール確認だ」


十分な距離が出来たところで、ミシェルの身体からユラリと魔力が溢れ始める。

それに合わせて、マノンはマエリスを抱えたまま、反対の手で抜剣し構えた。


「相手に不可逆的な損傷を与えることのみを禁ずる。それ以外は自由だ。マノンとマエリス。君たちが私を納得させられるかどうかを試す。勝敗は関係ない」

「分かってるよ。お姉ちゃんを守りながらでも、お父様に勝ってみせる」

「……まあいいだろう。開始の合図はマノン、君が好きに始めたまえ」


その言葉に、マノンは眉を顰める。

ミシェルは純粋な魔法使い──後衛だ。対してマノンは魔法も使うが主体は剣士──前衛である。

片腕を縛る程度はハンデとも言えず、まして主導権まで譲られるとなると、それは侮辱にも等しい驕りに聞こえることだろう。


だが、相手は『賢者』だ。スタンピードの一部を殲滅し続け、その濁流を一人でもある程度抑えきれる魔法使いだ。


(ボクも戦えれば良かったんだけどね)


炎銀の傀儡塊(メタフラマタ)』の魔法陣が使えれば良かったのだが……マエリスの腕に触れさせても魔法陣が起動しなかったのだ。というよりも、魔力が上手く動かせない。よって魔法陣に魔力を流せなかった。


まあ、仮に『炎銀の傀儡塊(メタフラマタ)』に乗っていたとして、二人の戦いに割り込めるかは別の問題なわけだが。


「……いくよ」

「掛け声は不要だ。来たま──」


瞬きの間。コマ送りのようにミシェルの眼前に身体強化をしたマノンが迫る。

振るわれる剣。刃ではなく腹が向けられたそれが、ミシェルの身体に命中し──


刹那、ミシェルの身体が陽炎のように揺らめき、その体内から凄まじい光量と熱が放たれる。

その直後、マノンの上下前後左右斜め──全方位に眩い点が現れ、光線が殺到した。


轟音、粉塵。逸れた攻撃がもたらした破壊の痕を、マノンが突き破って後退する。

その身体には軽度ながらもいくつか火傷を負っていた。


「ふむ。さすがに十年前の弱点は克服しているようだね」


土煙を貫き光線が伸びる。寸でのところでマノンは回避する。


「では別の弱点が克服されているかどうか、試させてもらおう」

「! お父様、空を飛んで──」


宙に浮かび陽光を遮る影から、光の雨が降り注いだ。

お読みいただききありがとうございます。


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