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オーダーメイド 〜魔道具の祖は主人公な妹と共依存になるようで〜  作者: 中安・ユージーン・風真
第一部 四章 Order:凪を拒む夜会

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無自覚な

「──うん、その辺りは抵抗値に関する記述だから全カットでいいよ。光の屈折に関する記述は、そうだなぁ……光の速さの変化で起きる現象だから、風属性の記述でも入れてみる?」

「えっと、風属性の……このルーン文字?」

「あー、いや、それは『気体』を意味するルーンだから違うよ。『速度』のルーンは確か……ああ右上のそれ。それを入れて」

「そうなると……こんな感じ?」

「そうそう、それで──あ、ちょっと待って。これだと属性を規定するパーツと近すぎるかな。位置をもう少し円周側に……でもそうなると文字の密度がなぁ……一旦そこは置いておいて、光の投射位置に関するパーツを弄ろう。そこを圧縮できれば、空いたスペースに入れられるかも」

「う、うん」


マエリスの指示を受けて、マノンが何度も羊皮紙上の陣を描き直す。その間、マノンの内心はずっと一つの感情が支配していた。


(やっぱり、お姉ちゃんはスゴイ!)


聖騎士の任務の傍らではあるが、それでも十年間マノンは姉の研究資料を解読し、独自の研究をしていた。


そんな彼女でも姉の指示に付いて行くので精一杯だった。否、そんな彼女だから、姉の指示に付いて行くことができた。


同じ土俵に立ったからこそわかる、姉の居る高み。知識の深さ、応用力の高さ、エラーへの対処速度──いずれもマノンでは敵わない。


色素の薄い肌は興奮を隠すことなく頬を紅潮させる。

ただ漠然と憧れる時期は過ぎ、今のマノンの胸中は尊敬の念で埋め尽くされていた。


されど、彼女は──


(あ、でも──)


「お姉ちゃん。ここは魔法陣を重ねればなんとかなるんじゃない?」

「重ねる……? ああ、立体魔法陣の理論か。でも密度が高くて抵抗が強くならない?」

「横の密度はシビアでも、縦の密度は意外と余裕ありそうだよ」

「なるほど……基盤をマルチレイヤーにして処理を分散させてるのか……それじゃあマノンの言う通りにしてみようか」


(やった!)


されど彼女は十年研究していたのだ。その一点──現時点なら立体魔法陣についてだけならばマエリスよりも知識がある。

自分の意見が姉に採用されたことで、マノンの心は歓喜に満ちた。


しかし対照的に、マエリスは苦い顔をする。

それはマノンに意見された悔しさなどでは断じてなく。


「……ねえ、マノン」

「なに? お姉ちゃん」

「やっぱり、過去十年の論文からボクの名前は消すべきだ。マノンは立派に一研究者としての知識を持ってる」


その瞬間、マノンの時が止まった。

そう錯覚してしまうように、ピタリとマノンの手が魔法陣の途中で固まる。


突然の停止に、マエリスが心配そうに声をかけると──


「マノン?」

「……どうしてそんなこと言うの?」

「え?」


ゾクリ

背筋が一瞬で粟立つような、身体の芯が冷え込むような感覚にマエリスは襲われる。


それは平坦な声だった。抑揚に乏しく、声量にも乏しい。感情が見えない小さな声でしかない、はずだった。


「い、いや、その、その方が健全だし、それに──」


何とかマエリスは声を絞り出し、昨日ミシェルにも語った理屈をマノンにも語る。


「──てなわけで、ボクはそう思うんだけど、皆は違うみたいで。リフィにも拒否されたし……」

「リフィにも言ったの?」

「え、う、うん」

「なのに私にも訊くの?」

「そりゃ、皆の意見は聞くべきだし……」


そこでマノンが黙りこくる。マエリスも声をかけづらく、気まずい空気が数秒、あるいは数分? 数時間? 

マエリスの体感では永遠に続くかと思われた。


「……お姉ちゃんの、馬鹿」


ポツリとマノンがそう零して、描きかけの魔法陣をそのままに立ち上がる。


「あ、マノン──」

「自分を大事にしないお姉ちゃんなんて嫌い。反省して」


マエリスの呼びかけを無視してマノンは部屋を出ていく。


パタン


扉の閉まる音が、やけに響いた。




(お姉ちゃんは何も変わってない。死ぬような目に遭っても……いや、死んでも変わらないんだろうなぁ……)


どうもあの姉は自分の価値を低く見積もり過ぎている。

姉の人物評はマノンも信頼している。良過ぎず、悪過ぎず、正確にその人となりを評価する。

なのにそれが自分のこととなると……


(どうしてだろう……私の知らないところで大失敗でもした……? ああやっぱり、私が守ってあげないと……)


「リフィ!」


マノンはリフィの居室の扉を勢いよく開ける。しかしそこには誰もおらず、ガランと物寂しい空間だけがあった。


「あれ? この時間ならいると思ったのに……」

「マノンお嬢様、お帰りなさいませ。いつの間にいらしたので?」

「あ、ミカ」


そこへちょうど廊下の掃除をしていたミカが角から現れ、マノンへと声をかける。


「ねえ、リフィがどこにいるか知らない? お姉ちゃんがまた無自覚に変なこと言っててさ。あ、お姉ちゃんのことは分かる? 昨日目が覚めたみたいなんだけど──」

「存じております。本日よりリフィ様からマエリスお嬢様の専属メイドの業務を引き継がせていただいておりますので」

「……え?」

「それとリフィ様の行方ですが、私には分かりません。リフィ様は昨日退職され屋敷を出ていかれましたので」

「え……?」


マノンがリフィの不在を知った時だった。

お読みいただききありがとうございます。


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