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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第陸章・導魔の烙印・まにあったもの編

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役立った修練

 カルティアたちに声をかけたレクスは、駆け足で真っ先に広場へとたどり着いた。


 そんなレクスの目に映った光景は、見るも無残なものだった。


 壊れて散乱した屋台の残骸に、散らばった商品の数々。


 割れたり、千切れたりしたその品々に、レクスは目を吊り上げながら口の端を下げる。


 異形の巨人に蹂躙された屋台の惨状を目にしながら、四体の巨人が向かう先に、レクスは駆けていた。


 四体の巨人は、修道服を着込んだ少女の元へゆっくりとその足を進めている。


 瓦礫を踏もうとお構いなしだ。


 カルティアたちと同じくらいの年頃に見える修道服を着た少女は、小さな子供をその身に抱え込んでいた。


 小さな子供は男の子で、びくびくと身体をふるわせている。


 おそらく逃げ遅れた男の子を庇っているのだろう。

 少女の身体も、小刻みに震えていた。


 巨人がその少女に向かって、大きな拳を振り上げる。


 打ち下ろされれば、その場に紅い血の大輪が咲き誇るだろう。


(……いけねぇ!)


 それを目の前で見過ごすことは、レクスにはできなかった。


 腿を只管に回し、大地を思い切り蹴り抜く。


 自身の持てる全速力で、少女と拳の間にレクスは滑り込んだ。


 少女は男の子を抱え込んで、男の子を堅く護るように蹲っていた。


「……助けてぇ……誰かぁ……。」


 小さく、少女の声が聞こえた。


 何かに縋り付くような、か細い声。


「……ああ。もちろんだ。」


 何処かで聞いたことのあるような少女の声に、レクスはちらりと視線を向けて呟いた。


 レクスの声に驚いたのか、少女がゆっくりと顔を上げる。


 だがその表情を、レクスが見ることはなかった。


 おもむろに巨人の腕に向き直る。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 身体を捻りあげながら。


 思い切り、向かってくる巨人の拳を蹴り上げた。


 ◆

「……レクス。直線的な攻撃には、どうやって対処すれば良いと思う?」


 少し前のとある日に、レクスが傭兵ギルドの修練場でクロウと模擬戦をした後の事。


 自身の木剣を仕舞いながら、唐突にクロウがレクスに顔を向けて口を開いた。


「直線的な攻撃? そりゃあ……剣で受け止めたり、逸らしたりするもんだろ?」


「ああ。だけど、いつも武器や盾を持っているとは限らないだろう? 武器で攻撃を逸らすのは武器を持っている時だけだ。……何も持っていない時に、受け止めきれないような直線的攻撃が来たら、どうする?」


「どうするって、そりゃ……避けるしかねぇだろ?」


 きょとんとしながら答えるレクスに、クロウはゆっくりと肯く。


「ああ。普通はそうだろうな。……でも、もう一つの選択肢があるんだ。多分、レクスなら出来ると思ってな。今のうちに教えておこうか。」


 小さく笑いながら語るクロウに、レクスは首を傾げていた。


「もう一つの選択肢? 受け止めきれないなら、避けるんじゃねぇのか?」


「普通は、な。でも、後ろに人がいたりすれば避けられない状況も出てくるだろう。……その時は、相手の攻撃を、思い切り横から蹴るんだ。そうすれば、自身の身体で攻撃を逸らすことができる。」


「横から蹴る? そんなこと、出来るのかよ。」


 怪訝そうに眉を寄せるレクスに、クロウは修練をする時の得物である、木製ナイフを取り出してくるりと回してみせた。


 にっ、と眦を下げる。


「ああ。もちろんだとも。タイミングさえ掴めば、自ずと身体で反応出来るようになる……って言っても、過信は禁物だけどな。基本的にはレクスのさっきの言った通り、武器を持っているならそれに越したことはないし、自身を守る為にも避けることが大事になるはずだ。……だが、レクス。どんなことがあるかわからないのが、傭兵って仕事だ。覚えといて損はない。……少し、練習してみようか?」


 不敵に笑うクロウに、レクスは少々むっとしたように唇を曲げた。


 師匠といえど、何処かその得意げな表情が癪に障ったのだ。


「……わかったぜ、クロウ師匠。やってやんよ。」


「その意気だ。……手加減はしないぜ? レクス。」


「言ってろ、師匠。……ぜってぇ超えてやる。」


「そりゃ、楽しみだな。……行くぞ?」


 そんな会話をしながら、レクスは攻撃を見切る修練をアルス村に帰る前、クロウと行なっていた。


 ダンジョンではついぞ使うことのなかった技法。


 しかし、それは日常で起こった非日常に対処するため、その陽の目を浴びる事となる。


 ◆


(……今だ! 上手くいってくれよ!)


 レクスが一瞬のタイミングを見計らった直後、蹴撃は放たれた。


 足を大きく捻り上げ、回し蹴る。


 拳の側面。打ち据えた。


 もしも今失敗すれば、レクスは後ろの少女と男の子を道連れに潰されてしまうだろう。


 だが、レクスは。


 そのタイミングは完璧であり、上手くいったという実感があったのだ。


 そして、打ち据えた途端。


 どしゃん、と鈍い音が響く。


 レクスは、驚きに目を見開いていた。


(……は!?)


 レクスの蹴撃が打ち据えた瞬間、異形の拳が弾け飛んだのだ。


 もちろん、レクスは思い切り蹴り抜いたつもりだが、異形の巨人の拳を破壊する程の威力があるとは思っていなかった。


 むしろ、「思い切り蹴り抜けば反らせる」くらいに思っていたのだ。


 片腕をもがれた巨人は仰け反り、二、三歩後ろに後退する。


 巨人に痛覚はあるのか無いのか、レクスにはわからなかった。


 だが、少なくとも一体の巨人が痛手を負い、膝をついたのは事実だ。


 ちらり、と。


 レクスは自身が履いているツヤツヤとした黒い革靴に目を遣った。


(……もしかして、こいつのせいか?)


 この靴は、ダンジョンでレクスが宝箱から拾ったものだ。


 たまたま今日の外出に履いていこうか、と。


 ただそれだけの理由で履いてきたこの靴だが、どうやら何か秘密があるらしかった。


 レクスの脚力だけでは、絶対にそんな力を出せるはずはないのだから。


(……まあ、それは後だ。今は……。)


 レクスはくるりと少女へ振り向き、視線を合わせた。


「あんた、大丈夫か!? ……ってネリー!?」


 修道服の隙間から覗く黒い髪と、うるうると恐怖心のせいか潤んだ薄紫の瞳。


 レクスはダンジョンで出会った少女……ネリーの事をしっかりと覚えていた。


「レクスさぁーん! 怖かったよぉー!」


「……ネリー、とりあえずこっから離れろ! ここは俺たちが何とかするから!」


「わ、わかったぁー。……さあ、早くぅー!」


「……う、うん……!」


 ネリーはレクスの言う通り、男の子を抱え込んで駆けだした。


 そんなレクスの後ろから、ごう、と風切り音が聞こえていた。


 振り下ろされる拳の音。


 レクスはすでに、それを察知していた。


 身体を捻りながら、足を蹴り抜く。


 迫る拳に振り向いた、その途端。


「「ダークネスバースト! フォルテ!」」


 黒い二つの闇の光球が炸裂し、レクスに迫る拳を押し退けた。


 ふわり、と。


 蝙蝠の翼を羽ばたかせ、紫の髪をした少女が舞うようにレクスの前へ降りたつ。


 紫のチュニックが風を受け、フリルのついたミニスカートがはためいていた。


「……レクスくんに、手出しはさせないよ!」


 腕を前に出し、掌を構えたマリエナが巨人を睨んでいた。


 そして。


「おねーちゃんの敵、ですね。……ぶっ倒しちゃいますか。」


 もう一人の見慣れない少女が、マリエナと同時に織り立っていた。


 ショッキングピンクの髪色に、色っぽい紫紺の瞳。


 纏っているのは、漆黒のドレスを纏った美少女だった。


 否。


 レクスが見慣れない、は不適当であった。


 レクスは、その少女の姿《《そのもの》》は見覚えがあったからだ。


 なぜなら。


 少女は髪色と瞳の色、服を除いた全てが。


 マリエナと、《《瓜二つ》》だったのだから。

お読みいただきありがとうございます。

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