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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第陸章・導魔の烙印・まにあったもの編

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少女の献身

「……ぱ、ぱぱぁ……。」


 逃げ遅れた男の子がいたということに気が付き、ネリーは走りながら口元を下げた。


 異形の巨人によって露店が壊され、散乱した瓦礫の中。


 ネリーはその男の子を放って置くわけにはいかなかった。


「……待っててねぇ! おねーちゃんが行くからぁー!」


 男の子に向け、ネリーは叫んだ。


 踵を返し、ネリーは男の子の方へ身体を向け直す。


 異形に囲まれた泣きじゃくる男の子はいつ、異形に潰されてしまってもおかしくはないのだ。


 だが、ネリーの声に四体の異形も反応してしまっていた。


 異形の巨人も、ネリーの声によって気が付いたのか。


 泣きじゃくりながら座り込む男の子に向け、その無機質な眼窩の光を男の子に向けていた。


 どしん、どしんと大地に地響きを鳴らしながら。


 異形の巨人たちはその大木の如き足を動かして、男の子に迫りよっていた。


 しかし、ネリーはそれでも男の子の元へと駆ける。


 瓦礫を気にせず、ネリーはその男の子だけを見つめていた。


 焦りが冷や汗となって浮かぶその額に、紫水晶のような瞳が輝いている。


(……見捨て、られないよねぇー。)


 唇を噛み締め、ネリーは慣れない走りをしながら、息を切らしていた。


 ネリーは、元々孤児院にいた。


 レインのように元々両親がいたという訳でも無かった。


 物心付いたそのときから、ネリーは孤児院にいることが当たり前だった。


 この世界を作り、魔王と戦いを繰り広げた女神に感謝を伝えて崇めるという宗教「女神教」。


 その神父たちの手で作られた孤児院が、ネリーの居場所であり、「家」だった。


 自分の面倒を見てくれるのも、孤児院にいる優しい神父や、そこに仕える修道女の女性だった。


 親代わりである神父や修道女の女性が、ネリーにとっては「親」であったのだ。


 だからこそ、「両親」というものをネリーは知らなかった。


 そんな「両親」というものに憧れを持つネリーだが、目の前の男の子が「両親」を求めて泣きじゃくっている姿を、見過ごせる筈もなかった。


「両親」はネリーにとっての神父や修道女たちと同じ存在であり、ネリーのことを非常に心配してくれた記憶もある。


 冒険者になると報告した際には、孤児院中が大騒ぎになりもした。


 ネリーのところとは全く関係ない孤児院が、奴隷商の温床になっていたとの知らせが王都を走った時には、ネリーもその孤児院に対して相当に憤っていた程だ。


 相変わらず泣きじゃくっている男の子へ、ネリーはその足を止めずに進む。


(……この子のおとーさんとぉ、おかーさんも心配してるはずぅ……。絶対ぃ、助けてあげるからぁ!)


 この喧騒の中で逸れてしまった男の子の両親も、男の子のことを心配しているはずだろう、と。


 そう思うと、ネリーの胸はきりきりと痛んでいた。


「……はぁ、はぁ、もう、少しぃ……!」


 男の子と、ネリーの距離が縮まっていく。


 異形の巨人はかなり大きく、鈍重な筈だ、と。


 そうネリーは判断していた。


 泣きじゃくっている男の子に、手を伸ばす。


 あと僅かな距離に、ネリーは倒れ込むかのように飛びこむと、男の子の前でかがみ込んだ。


 突如現れたネリーの姿に、男の子は顔を上げてネリーを見る。


 涙と鼻水に塗れた顔に、ネリーは視線を合わせた。


「助けに、きたよぉ。 もう、安心だからねぇ。」


 心配させないように、ネリーはにっこりと微笑む。


「……おねー……ちゃん? だれぇ……?」


「冒険者だよぉー。……さぁ、早くここからぁ……。」


 男の子の手を取って、駆け出そうとネリーは後ろを振り向いた。


「……うっそ、ぉ……!?」


 ネリーは驚愕に顔を染めて、目を見開いた。


 動きが鈍重な筈の巨人のうち、一体がすぐ傍にいたのだ。


 ネリーと男の子を見下ろすように、その気味の悪い目線を向けていた。


 にぃ、と。


 笑顔を浮かべない筈の巨人が、笑ったように見えた。


 ネリーの脳裏には、スキルの影響で恐怖心がうず高く積み上がっていた。


 頭のなかで只管鳴り響くスキルの警報と、恐怖心。

 この場から急いで逃げ出したい気持ちでネリーのなかはいっぱいになっていた。


 だが、ネリーは。


 ぎゅっと、男の子の手を握り込んだ。


 成長しきっていない柔らかさと、高い体温をその手に感じ取る。


「おねー、ちゃん……。」


「だいじょーぶ、だよぉ。……おねーちゃん、つよいからぁー。」


 不安そうに目元を下げる男の子に、ネリーは強がるように笑いかける。


 嘘だ。


 ネリー自身に、戦う術はないのだ。


 異形の巨人に、ネリーは勇敢に立ち向かえるような攻撃もできない。


 それでも、ネリーはそうする他に考えはなかった。


 小さな命を、不安にさせてはいけないのだ、と。


 それこそが、ネリーの思う「両親」のあり方なのだと思っていたからに他ならなかった。


 ぐいん、と巨人が拳を作った腕を振り上げる。


 ビキビキとした筋骨隆々な拳は、直撃すればネリーも男の子もひとたまりもないだろう。


 走り出そうとしたが、無理だった。


 男の子の足が、竦んでいる。


 得体もしれない異形の巨人に、恐怖しているのだろう。


 ぶるり、と。


 ネリーの身体が震えた。


 ごう、と。


 巨大な鉄球にも似た拳が、風切音と共に振り下ろされた。


 今走って逃げても、間に合わない。


 ネリーは巨人に背を向けて、男の子を咄嗟にその胸に抱え込んだ。


(……怖いぃ……。怖いよぉ……。でもぉ……。)


「おねー……ちゃん?」


「……だいじょーぶ、だからねぇ。」


 男の子に、ネリーは声をかけた。


 小さな頭をつつみこんで守るように固く抱きしめる。


 頭の中の危険信号は、すでに真っ赤だ。


 巨人の拳など、止めようがない。


「死」という文字が、ネリーの頭を掠めた。


(……せめて、この子だけはぁー。)


 目元から、意思とは勝手に雫が落ちた。


 迫る恐怖の中、ぽつりと呟く。


「……助けてぇ……誰かぁ……。」


 遂に恐怖に負けたネリーが、小さく声を出した瞬間。


「……ああ。もちろんだ。」


 《《誰か》》の声。


 その聞き覚えのある声に、ネリーは顔を上げて首を回した。


 真っ先に目に飛び込んできたのは、鮮やかな橙色の髪。


 薄手の藍色をしたジャケットを着た、自身と同じくらいの少年の背中が、そこにあった。


 ネリーは目を見張る。


 その声は、ダンジョンで聞いた少年のものに間違いなかったからだ。


 迫り来る巨人の拳に、竦んだ様子もなかった。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 威勢のいい掛け声と共に、少年は足を蹴り上げる。


 振り下ろされた拳と、少年の蹴りがかち合った。


 瞬間。


 《《異形の巨人の拳が》》、鈍い音を立てて弾け飛んだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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