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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第陸章・導魔の烙印・まにあったもの編

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巨人、再び

 クオンの弓の修練とスキルの確認が済んだ、その日の午後。


 晴れわたる陽の下で小気味よく石畳を鳴らす靴音があった。


「ふん、ふふーん。……外の風が、気持ちいいのです。」


 街並みの雑踏が響く石畳の上で、クオンが鼻歌を口ずさみながらスキップをするように歩いていた。


 晴天の下で、クオンのスキップに合わせて緑のロングスカートがひらひらと揺れる。


 黒薔薇の眼帯をばっちりと決め、カーディガンの右袖もクオンのご機嫌さを表すようにはためいているようだった。


「……あんまはしゃいでると、逸れちまうぞ。クオン。」


 クオンの傍を歩くレクスが、小さく口元を上げて声をかける。


 呆れたような口調だが、その目元は穏やかに下がっていた。


 今にもその場で回り出しそうに跳ねるクオン。


 少しでも躓けば転んでしまいそうではあった。


 だが、クオンは上機嫌で、道行く人々もクオンの姿を奇異の視線で見つめようがお構いなしと言わんばかりだった。


 眼帯をつけている事や、スキルの詳細が分かったことで、クオンは自信がついたのかもしれない、と。


 レクスは勝手に考察していた。


(……しっかし、クオンのスキルの原動力は「俺」か。まさかそんなスキルがあるとは、俺も知らなかったな。……変なもんだ。)


 街道を笑顔で進むクオンを目で追いながら、レクスは苦笑を溢す。


 あの後、レクスはクオンが持つ「|久遠の果てへ、愛と共に射抜け《エターナルアロー》」の詳細を、レクスとクオンはサマンから聞き及んでいた。


『おそらく、クオンさんの持つ固有スキルは、レクスくんを想うことでその真価を発揮するものでしょう。「レクスくんの下へ駆け出したい」という想いがクオンさんに瞬間移動をさせ、レクスくんの敵と認識した相手に弓矢を炸裂させたのもその一片でしょうな。レクスくんの場所限定の瞬間移動と、感情の昂ぶりによって炸裂する弓矢。既存のスキルとは、全く異なりますな。……だからこそ、レクスくんの責任は重大なものになりますぞ。それをゆめゆめ、忘れないことですな。』


『当然だ。貴様の言動がクオンを左右するということになる。……もしもクオンを唆し、悪事を働かせてみろ。私が全力をもって貴様を挽肉にしてやる。覚悟しておけ。』


 サマンとアリーがレクスにかけた声が、レクスの頭に響いていた。


(……分かってるさ。サマン先生、アリー先生。……クオンが笑顔で居てくれることが、俺にとってもいいんだからよ。)


 二人とも、レクスとクオンの身を案じては居るのだろう。


 アリーも言葉は刺々しいが、レクスとクオンの二人に気をかけてくれる程には、心配をしているということなのだろう。


 ご機嫌に跳ねるクオンの姿を見るレクスの隣。


 レクスの傍で歩いていた零氷の瞳を持つ、伊達眼鏡をかけた流れるようなプラチナブロンドの少女も、クオンを見ながら柔らかな微笑みを携えていた。


「ふふっ。楽しそうですわね。クオンさんのあんなにご機嫌なお顔、わたくし、初めて見たかもしれませんわ。」


「そうか? ……まあ、最近は俺もクオンのはしゃいだ表情は見てなかったけどよ。」


「…うん。…クオンはすごく嬉しそう。…最近、よく笑うようになった。…先月までとは、かなり違う。」


 レクスの傍からにゅっと首を覗かせたのは、アオイだった。


 アオイは髪と同じ色でお気に入りだという浴衣を纏い、手首から赤い巾着袋を下げて歩いている。


 同じ部屋のアオイがそう口に出す程なのだ。


 間違いなく、その表情は違っているのだろう。


 クオンは喜んだ思いを表現するかのように、レクスたちの少し前を歩いている。


 その動きには、片目と片手を喪っているという悲壮感などは微塵も感じられなかった。


「……そうなのか。……まぁ、クオンが喜んでるのが一番だからな。」


「ほんと、クオンちゃんよく笑うようになったよねー! ダンジョンで見かけたときとは大違いだよー。」


「そうです。あちしから見ても、クオンはすごく様変わりしてるです。まるで、枷から解き放たれたようです。」


 レクスの肩に載るキューの声に、レインもこくこくと肯いていた。


「あれが、本来のクオンちゃんなんだよね。……良かった。学園にもちゃんと復帰できそうだもん。学園で辛い思いをして、辞めちゃうなんてわたしも悲しいし。」


「ビッ!」


 マリエナも安堵したように優しい声で呟き、マリエナの頭の上で角を掴んでいたビッくんも嬉しそうに頷いている。


 そんな一同に向け、レクスはちらりと振り返ると、苦笑いをうかべて口を開いた。


「……悪ぃな、皆。クオンの衣装合わせに付き合って貰っちまってよ。」


 そんなレクスの声に、カルティアたち四人は笑顔で首を振った。


「お安い御用ですわ。レクスさんの頼みですもの。」


「…うん。…うちも丁度手が空いたから、良かった。」


「あちしたちの妹であるクオンの晴れ姿です! ちゃんとしたものを購入してあげるです。」


「そうそう。クオンちゃんが初めて買うドレスなんでしょ? なら、わたしたちに任せてね、レクスくん。せっかくだから、可愛いの買わなきゃ。」


「ああ。ありがとな、皆。……男の俺だと、どうしてもクオンに何を買っていいのかわかんねぇからよ。」


 カルティアたちに目を遣りながら、レクスは照れくさいように頭を掻いた。


 今日、レクスがカルティアたちと出かけているのは、ほかでもないクオンの為だった。


 学園の舞踏祭はまだ先ではあるのだが、クオンは舞踏祭に出るための衣装など持ち合わせていなかった。


 そもそもがアルス村でドレスなど着ることなど早々あるはずもなく、ドレスを買う程のお金も持ち合わせていなかったのだ。


 持っていなかったのは、当然とも言えるだろう。


 加えて、女性のドレスは男性の燕尾服よりも替えが利かない。


 一人として同じ衣装の大きさはないのだ。


 大まかな大きさは一緒であっても、胸の大きさや肩幅、背丈などの微調整が必要不可欠といって良いだろう。


 レクスが以前、コーラルに燕尾服を借りた時のようなことは、基本的に出来ないと言ってよかった。


 だからこそ、夏季休暇中の今のうちに、クオンの衣装の注文を済ませておく必要があるのだ。


 そんなクオンの衣装をレクスが注文しようにも、レクスは貴族でもなければ、その勝手すらわからなかった。


 そこで、レクスはカルティアたちに協力を仰いだという訳だった。


 幸いなことに、レクスはダンジョンの攻略によって報償金が出ており、クオンの衣装代を賄うことができる。


 カルティアたちに衣装合わせを頼むことで、その衣装を注文しようと思っていたレクスだった。


 レクスは前に振り返り、上機嫌に跳ねるクオンへ目を戻す。


 クオンは相変わらず跳ね回っており、転びそうな様子もなかった。


 ふと、レクスは何気なく青空を見上げる。


 青空には呑気に流れる雲が浮かび、柔らかく吹き抜ける夏の終わりを告げるような涼しい風がレクスの頬を掠めた。


 暑さも落ち着いている穏やかな陽射しに、レクスは欠伸をつきそうになった。


 その瞬間。


「……!?」


 ぞくり、と。


 背筋を伝う鳥肌に、レクスは足を止めた。


「……レクスさん? どうしましたの?」


「…レクス?」


 急に立ち止まったレクスに、カルティアたちが不思議そうに首を傾げた。


 どうやら、カルティアたちは何も感じていないらしかった。


 眉を寄せ、レクスの目つきが変わった。


 クオンの先を見据えるように、レクスは遠くを見つめようと目を凝らす。


(……気の、所為か? いや、こりゃ……。)


「……? 兄さん? どうかしたのです?」


 レクスの視線に気が付いたクオンが、足を止めて振り向く。


 きょとんとレクスを見つめ返していた。


 クオンも、何も感じていないらしかった。


 だが、レクスはこの感覚を気の所為だとは思えなかった。


 それはダンジョンで感じた危険と、同じような予感だったからだ。


 無意識に、レクスの頬を冷や汗が伝う。


「……ねぇ、レッくん。……魔力の流れが、なんか変だよ。」


 レクスの肩に乗っていたキューも呟く。


 いつものおちゃらけたような口調ではなかった。


 キューも明らかに何かを感じ取っているのだろう。


 レクスと同じように、じぃっと前を見据えていた。


 そして、それは直ぐに起こった。


「き……きゃああああああああああああああ!?」


「た、助けてぇええええええええええええ!」


「ば、化物ぉ! 化物ぉぉぉぉぉ!」


 突如上がった悲鳴。


 レクスはごくりと息を呑む。


 叫び声が上がった瞬間、前から多くの通行人が、我先にと急ぐような駆け足で、レクスたちの前から向かって来ていた。


「……邪魔だ! 退いてくれ!」


「きゃっ……!?」


 前から駆けてきた通行人の男性に、クオンが手で押しのけられる。


 唐突に身体を押され、クオンは地面に倒れ込みそうになっていた。


「クオン!」


 バランスを崩したクオンに向け、レクスは駆けた。


 倒れこむ寸前に、その小さな体躯を抱え込む。


 抱え込まれたクオンは、ゆっくりと顔を上げてレクスを見上げた。


「……に、兄さん……。ありがとうなのです。」


「ああ、気にすんな。……一体何が起こってんだ……?」


 クオンを抱えながら、レクスはおもむろに顔を上げる。


 眼前に広がっていた光景は、嘘のような映像をレクスの赤い瞳に映し出していた。


「……嘘だろ、おい……!」


 眉を寄せて顔を顰めたレクスに駆け寄るアオイたちも、目を見開いていた。


「…なに、あれ。」


「何が起こってるの……!?」


「……あれは、何です?」


 やはり目の前のものが何なのか、理解出来なかったのだろう。


「……あれは……。」


 冷青の瞳で、カルティアも目の前の現実を見据えていた。


 レクスたちの目の前にいたもの。


 それは。


「「「「がぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」」


 春にカルティアを襲った巨人。


 それが四体。


 街の広場で、暴れ回っている光景だった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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