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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第陸章・導魔の烙印・まにあったもの編

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驚愕する実力

 カレンとレクスが舞踏の練習をしている修練場。


 それから一週間後の残暑がいまだに残り続ける昼間、汗ばむような陽射しが照りつけるそこに立っている、二人の影があった。


 二人の視線の先には、木で作られた簡素な案山子が立っており、正面には同心円が描かれている紙がぺたりと貼られていた。


 緩やかな風の中に立つ二人は、背の高い男性とかなり小柄な少女の二人。


 アリーと、クオンだった。


 アリーは薄衣を重ねたような薄緑の着物を着て、クオンの様子を鋭い目付きで眺めていた。


 一方のクオンは学生服なのは変わりがない。


 だが黒薔薇の眼帯を右目に着け、黒い革の胸当てを身に纏っている。


 クオンは左手に弓を握り、矢を番えて姿勢を保っていた。


 引いた弓が孤にしなり、弦もピンと張っている。


 弦がぎりぎりと鳴るが、それを支えているのはクオンの左奥歯の咬合だ。


 弦に小さな紐が結わえてあり、その紐を噛み締めて弓弦を歯で引いているのだ。


 僅かにぷるぷると震えながら、クオンは目の前の案山子に狙いを定めていた。


 瞬間。


 クオンが歯を緩める。


 紐が、クオンの歯を離れた。


 弦が引き伸び、矢を前に押し出す。


 びゅん、と。


 風を切る音が響き、クオンの髪が揺れた。


 一瞬の後。


 パン、と、破裂音。


 案山子に貼られた紙に、矢が突き立っていた。


 同心円の中央ではないが、それよりも少し左に逸れて案山子の胴へと命中している。


 ふぅ、と小さく溜息を溢しながら、クオンは力を脱いて弓を下ろす。


 その光景を目の当たりにしたアリーは、ごくり、と息を飲んでわずかに目を見張っていた。


(……これは、凄まじいな。弓聖……とは、これほどのものか。)


 アリーはクオンの実力を、少々見誤っていた節があった。


 クオンの元々のスキルである「弓聖」の効果は、まともに引けないと発動しない、と。


 そう思っていたからだ。


 だからこそ、「口に咥えて矢を放つ」という方法は普段使われない方法であり、アリー自身引き方は知っていたものの「実際に狙いをつけ、放つことができるのか。」ということに関しては半信半疑だった。


 弓を引いている際にかかる、咬合力と張力の釣り合い分は、クオンの身体にとってはかなりの負担を強いていることになる。


 しかし、クオンの弓型はアリーから見ても非常に整っているように見えていた。


 先週から数度教えただけでこの形に持っていけるクオンの技量は、アリーから見ても度肝を抜かれるものであった。


 的となった案山子を見据えながら、クオンは大きく息を吐き出す。


 そんなクオンの姿を見ながら、アリーはわずかに口元を下げた。


(……だからこそ、惜しいな。腕を使えれば、クオンは更に磨き抜けていただろう。少なくとも、歴史に名を残す射手の一人にはなれたはずだ。……だが、腕を磨くきっかけがそれ、だ。……もしもの話をしたところで、クオンには、酷か。それに「弓聖」のスキルの効果だとすれば、何もおかしくはない、か。)


 仮に両手を使えていたら、と。


 そう思う気持ちもアリーに無かったと言えば嘘になるだろう。


 アリーは腕を組みながら、クオンに目を向けて歩み寄った。


 その表情はまだ厳しいままであったが。


「……見事、だ。その射形で命中させるものはそうそういまい。だが、「弓聖」がお前のスキルだったな。「弓聖」のおかげで、その射形でも弓が楽に引けているのか?」


 クオンの前に立ったアリーが、クオンを見下ろしながら問いかける。


 アリーにとっても、「弓聖」のスキルの効果がクオンの射形にどう映っているのかが、少し気になっていた。


 だが、弓を抱えたクオンはゆっくりと首を振った。


「……違う、のです。わたしのスキルは、「弓聖」じゃ、なくなったのです。」


 クオンの言葉に、アリーは僅かに眉を潜めた。


「「弓聖」ではない? ……どういう事だ?」


 「スキル」は純粋なエルフであるアリーは持っていない。


 それを授かれるのは、「人間」の血が入ったサキュバス以外のものだけだからだ。


 しかし、そんな「スキル」に詳しくないアリーでさえも、「スキル」が消失したり、変わったりするなど聞いた事も無かったのだ。


 訝しむアリーに、クオンは続ける。


「「|久遠の果てへ、愛と共に射抜け《エターナルアロー》」、それが、わたしのスキルなのです。鑑定水晶でもそう出てきたのです。……間違い、ないのです。」


 クオンの表情を、アリーは真実だと断定した。


 エルフは、嘘を嫌うからだ。


 ハーフエルフも含め、エルフは僅かな表情の乱れから嘘を見抜く芸当に長けている。


 嘘の度合いにもよるだろうが、少なくともクオンの表情に陰は見られなかった。


「……そうか。詳しくは聞くまい。……だが、そのスキルは「弓聖」と、どう異なる? 全く同じ、というわけではあるまい。」


「……弓が、すごく引きにくくなったのです。」


「それは、お前が口で引いているからだ。……やはり、腕を使わなければ、真価は発揮できない、と。そう考えるのが自然……。」


「違う、のです。……《《身体が勝手に動かない》》のです。いつもなら、《《身体が勝手に動いていた》》のです。でも、今は《《ちょっとだけ》》、狙うことに苦労するのです。さっきも、真ん中に中てるつもりだったのに、逸れちゃったのです。」


 アリーの言葉を、クオンが遮る。


 その言葉の内容に、アリーは大きく目を見張った。


 アリーにとって、クオンの言葉は信じられないものであったことに他ならないからだ。


(何だと……!? ならば……先ほどの射形は、クオン独自のものということか!? あれは、ほぼ完璧に近い射形と言っていい。教えてたったの一週間だぞ……!?)


 口で弓を引く、ということ自体は十分に異常な引き方だ。


 クオンの口ぶりから、「弓聖」というスキルは身体が勝手に弓を引く動作に移行するものなのだろう、とアリーは理解した。


 だが、今のクオンは。


「弓聖」とは別のスキルに変わり、身体が勝手に弓を引かないということになる。


 それは即ち、「今、案山子に矢を中てたのは純粋なクオン自身の実力に他ならない」、と。


 アリーはそう、結論づけるしかなかった。


(……これは、話が変わるぞ。……クオンはある意味「スキル」に身体を使われていたに過ぎない、ということだ。それが、別のスキルに変わった事で、「枷」が外れた……。これは……。)


 翡翠の目を光らせて、アリーはクオンに見開いた瞳を向けた。


 クオンは「せ、先生? どうしたのです?」と戸惑ったように首を傾げているだけだった。


(……元から、化物だったということか。……シルフィの仔なわけだ。)


 ふっ、とアリーは小さく笑うように溜息を吐いた。


 アリーからすれば、このあどけない印象の少女は、その小さい躰の中に間違いなく才能を持っている。


 それもスキルが「枷」となっていたとすれば、相応に珍しいパターンといえるだろう。


 アリーはこほん、と咳払いを挟んだ。


「……いや、物覚えが早いと思っただけだ。……クオン、貴様の射形は非常に良かった。それを続けていけば、身体も慣れて覚えていく筈だ。……もう少し、見ておいてやる。最後まで、気を抜くな。」


「はい、なのです! アリー先生!」


「「はい」、で止めろ。……やはりお前も、「兄」同様に言葉が直らん様だな。」


 褒められて嬉しいように笑顔を向けるクオンに、アリーはやれやれと苦言を呈した。


 だが、クオンが自身の「姪」だと分かると、その心境は少々複雑なものであったことは、アリーにとっては間違いなかった。


 クオンの射形をもう少し見るため、アリーは少しクオンから歩いて離れる。


 クオンも再び矢を番えようと、口に矢を咥えた瞬間だった。


 アリーの視線の先。


 修練場の出入り口に、一人の人影が見えていた。


 否。正確に言えば一人だけではない。


 その肩に、何か羽虫のような翅を持った小さな人影もふよふよと浮かんでいた。


「……おーい、クオン!」


「クオンちゃーん! 調子どうかなー!」


 聞こえた声に、クオンはぱっ、と振り返る。


 すぐにその表情が明るいものに変わった事を、アリーは見逃さなかった。


「……やれやれ。今は修練中だというのにな。」


 アリーは溜息混じりに頭を掻いた。


 出入り口にいた人物はクオンの義兄にして婚約者のレクスと、その使役魔獣であるキューだ。


(……あれが、妖精。……面妖なものだな。)


 アリーはレクスから「キューを学園に連れて来ても良いか」と聞かれて、その存在は知っていた。


 レクスの問いに、「授業に支障が出ないなら好きにしろ」と返したアリーだったが、はっきりと目の当たりにしたのはこれが初めてであった。


「兄さん! キューさん!」


 クオンがにぱっと頬を綻ばせ、返事を返した瞬間だった。


「……!?」


 アリーは瞬時に目を見開いた。


 アリーの目の前で、クオンの姿が一瞬のうちに消え失せたのだから。


 そして、それに驚愕したのはレクスたちも一緒であったのだろう。


「兄さん! キューさん! 来てくれたのです!?」


「お……おう!?」


「え……クオンちゃん、今……?」


 レクスとキューは、信じられないとばかりに目を丸くして《《クオン》》を見ていた。


 それもそうだろう。


 クオンが一瞬のうちに。


 修練場のど真ん中から煙のように消え去ったかと思えば、レクスの眼前に「すでにいたか」のように。


 音も無く現れたのだから。


お読みいただき、ありがとうございます。

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