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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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迷宮の救命


「……行くか。」


 レクスの声に、アオイとレインは静かに肯く。


 土で出来た規則正しい階段を、一歩一歩、レクスたちは踏みしめるように上がっていった。


 土くれを踏み、僅かに沈みこんだような感触が、レクスの足の裏へ明瞭に伝わる。


 ダンジョンの中は硬い岩盤のようであり、全く異なる土くれの感触によって、ダンジョンから出たという実感がうっすらと湧き上がっていた。


 射し込む光は、階段を登るごとにだんだんと強く、光を増していく。


 そして。


 階段の最後の一段を登りきり、レクスたちは陽の下に出る寸前まで歩を進めた。


 あともうほんの少しだけ進めば、光射す出口から外に踏み出す事が出来るだろう。


 久しぶりの陽の下の空気に、レクスは少し、心を躍らせていた。


 だが、同時にしめやかな気持ちも湧き上がる。


 原因は、はっきりとわかっていた。


「……お別れ、だね。」


 耳元で、ぽつりと声が響いた。


 何処かしんみりとした、落ち着いた口調。


 いつも騒ぎ立てる彼女にしては、似合わないとすら思えた。


「……そう、だな。さよならは言わねぇぞ。」


「うん。またね、レッくん。クオンちゃんも。」


「ああ。またな、キュー。」


「……また、なのです。キュー、さん。」


 クオンも少しだけ、声を震わせながら返した。


 顔を伏せ、その表情は見えない。


 だが、クオンもキューに対して、言いようもない思いが溢れているようでもあった。


 レクスとクオンの声と同時に、キューがレクスの眼前に飛び出した。


 にこにこと笑ってはいるが、何処となく玉蜀黍色の瞳を潤ませて、眦が光っているようにも見えた。


「……だから、これは約束とお礼。レッくん。ぼくのこと、ちゃんと覚えててね?」


 ぱちん、とウインクを飛ばしたキューはレクスの口元に近寄った。


 目を閉じて、顔を寄せる。


「……ん。」


 レクスの口元に、唇を落とした。


 ほんの僅かに感じた、柔らかい感触と熱。


 だが、それも一瞬のことだった。


 すぐに沸騰したように真っ赤な表情で、レクスから飛び退くように離れた。


 突然のキス。


 レクスは唖然とした表情で、呆けたようにキューを見つめる。


「キュー、お前……。」


「……覚えてないけど、多分ぼくの初めてのキスだから。……絶対に、忘れないでよ? 忘れたら、恨んでやるからね。」


「……忘れたくても、忘れられるかよ。キュー。」


「……そっか。ありがとね、レッくん。」


 最後ににこりと微笑んで、キューはレクスとすれ違う様に背後へ飛んだ。


 後ろ髪を引かれる気持ちも、ない事はない。


 だが、せっかくキューが笑顔で送り出してくれているのだ。


 振り向く事は、なかった。


 キューの想いを、無碍にしてしまうような気がしたからだ。


 ふりふりと手を振るキューを背に、レクスたちは光の先へ一歩。


 陽光の導く先へ踏み出した。


 レクスたちを出迎えたのは、真夏の光だった。


 蒸し暑いが、ダンジョンの中と比べて風もあり、非常に心地よい。


 洞窟の外は、羊雲が数匹泳ぐ青空が広がっていた。

 青空の下は、広大な荒野。


 かなり先ではあるが、目の端にはちらりと白亜の姿を晒した、王都の城壁が顔を見せている。


 ひんやりと涼やかな風が、レクスの頬を撫でながら汗を奪い取っていく。


 小さく尖った砂利が、レクスの足を靴越しにつついている。


 ダンジョンの中にはなかった、青臭いような緑の匂いが、レクスには何処か新鮮に感じてしまっていた。


 レクスにとって、久しぶりの地上だった。


「……ようやく、帰って……これたのか。」


「出られ……たのです……?」


「…ふぅ。…暑かった。」


「本当です。あちしはシャワーでも浴びたい気分です。」


 胸を撫で下ろしたレクスの声に、傍の二人も安堵したのか。


 ふぅ、と溜息を溢していた。


 そんなレクスたちの前には、数人の人だかりがあった。


 全員、似たようなジャケットを羽織っている。


 黒い制服のジャケットを着ているのは、ダンジョンに入る時もその場所にいた人物たち。


 憲兵隊だった。


 目を丸くして化け物を見たかのように指を指しているのは、レクスもよく知る人物。


 帽子を被りなおし、おそるおそるレクスたちに近寄って来ていた。


「お、オメェら……帰って来たのか……!?」


「ああ。ただいま。……しっかりと帰ってきたぜ。マルクスのおっさん。」


「…ただいま。」


「ただいま帰ったです。」


 憲兵隊長のマルクスが、これ以上ないほどに驚愕した顔をレクスたちに向けていた。


「……偽物じゃねえよな?」


「……なにいってんだ? マルクスのおっさん。」


 眦をぴくりと動かすレクスに、マルクスはふぅぅと長い溜息を零していた。


「まさか……オメェが無事だったとは……。嬢ちゃんたちはともかく、レクス。オメェは勇者のガキが帰って来てから、三日も経ってんだ。悪いが、とっくに死んだもんかと思っちまったぜ。」


「勝手に殺すんじゃねぇよ。おっさん……。」


「……まあ、生きてて何よりだ。……これで俺も、ヴィオナの野郎にどやされなくて済む。」


「婆さんにも心配かせさせちまったな……。」


「いいや? アイツは「レクスが死ぬ訳ないだろう?」と高笑いしてやがった。……全く、心配する俺の気にもなれってんだ。」


「……悪ぃな。マルクスのおっさん。」


「でも、ま、結局はヴィオナの野郎の言う通り、オメェは帰って来れたんだ。胸を張れ。勇者の野郎が仲間を連れても出来なかった事を、オメェがやったんだ。……ようやく、俺たちも元の仕事に戻れそうだぜ。」


 帽子に手をかけ、ふぅと肩の荷を下ろしたようにマルクスは息を吐く。


 ぽん、と、マルクスがレクスの肩を叩いた。


 にやり、と口元を上げたマルクスに、レクスもにやっと笑いを返した。


 その瞬間。


 レクスたちの立っている地面が、ぐらぐらと大きく揺れ始める。


「……な、何だ!?」


「こりゃ……地面が揺れてんのか!? ……全員伏せろ!」


「…地震?」


「な、何が起こってるです!?」


 震え始めた地面に、レクスは脚を拡げ、クオンを抱く腕の力を強めた。


 クオンは目を閉じ、ぎゅっとレクスの服を握っていた。


 憲兵隊の面々はというと、すぐさましゃがみ込んで転ばないように耐えていた。


 アオイとレインも憲兵隊と同じ様に姿勢を低くしている。


「…!?…レクス、後ろ!」


 ちらと後ろを見たアオイの声に、レクスは首を後ろに回した。


 がらがらがらと、先程までレクスが入っていた岩山が、中心を沈めていくように窪んでいく。


 地響きを鳴らして、崩壊していっているのだ。


 転がり落ちる岩の欠片と、地を這う砂煙がレクスたちに這い寄る。


(本当、碌でもねぇ場所だったな……。)


 何人もの冒険者の命を踏み躙ったダンジョンの最期を、レクスは難しい顔で眺めていた。


 ばらばらに崩れ落ちながら形を失っていくその最期は、あまりにも呆気ないとすら思えた。


(……キュー。)


 崩落する岩山に取り残した仲間を、レクスは思った。


 出会いこそは唐突だったが、レクスと共にダンジョンを連れ添い、確かな信頼がそこにはあった。


 騒ぎ立てる事やうるさいような仕草もあったが、レクスにとってはキューの存在が非常に心強いものであった事は間違いなかった。


 短い間ではあったが、仲間としてずっと連れ添ったような気すらしていた。


 浅葱の髪を揺らし、少々煩い位の彼女を思うと、何処か虚しいような気持ちすら湧いてくる。


 眦が、自然と下がった。


 少しだけ、唇を噛み締める。


 無意識だったが、声が口から漏れ出た。


「……ごめんな。キュー。」












「……え? なんで謝られたの、ぼく? ……あのさー、謝りたいのは、ぼくのほうなんだけど……。」











「………………は?」


 聞こえる筈のない、さっきまで共にいた声が響く。


 あり得ない声に、レクスは眉を顰めた。


 声が聞こえた途端、理解が追いつかなかった。


 声のした頭上に、レクスは目を遣る。


 そこには。


 ふよふよ、ふよふよと。


 透き通る翅を羽ばたかせ、輝く鱗粉が舞い踊っている。


 浅葱色の髪を踊らせ、くりくりとした玉蜀黍色の眼を輝かせながら。


 別れた筈の妖精が、眩い陽の下で浮かんでいた。


 あり得ない姿を空中に見つけ、鳩が豆鉄砲を喰ったようにレクスは目をぱちぱちと開閉した。


「ダンジョンから出ることは出来ない」。


 そう言った筈のキューの姿が目の前にあることに、レクスは理解が追いつかなかった。


 キューも、「あはは……。」と気不味そうに苦笑を浮かべながら、人差し指で頬をぽりぽりと掻いていた。


お読みいただき、ありがとうございます。

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