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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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妖精の対面

 レクスはクオンを抱えたまましゃがみ込み、赤い箱の中に収まっていた靴を眺める。


 外見を一望しただけでは、普通の靴にしか見えない。


 ヒールも無く、男性もののようだ。


 黒を基調としただけの、後はごく普通の革で出来た靴だ。


 爪先は半円形に近く、履きやすそうではある。


 靴そのものの厚さは割と薄めといったところだろうか。


 デザインそのものは、至ってシンプルなものに見えた。


 見てくれは紐や金具なども特に見当たらない。


「……靴、ねぇ……。何処にでもありそうなもんに見えちまうけどよ……。」


「これが、ダンジョンのお宝です? 思ってたのと、ちょっと違うです……。」


 宝箱の中身を見たレインと、思わず顔を合わせた。


 どうやらレインも思っていたものと全く違っていたらしく、残念そうに目元を下げていた。


 一般的にダンジョンのお宝と聞いて想像するものは、金銀財宝や斬れ味の鋭い名剣、または全ての病を治す秘薬の類や人智の及ばない意味不明な道具が想像されるだろう。


 それは、冒険者でも一般人でも変わりない。


 だが、レクスたちの目の前に現れたのは。


 少し値は張るかもしれないが、何処から見てもごく普通に売られていそうな革製の靴だ。


 予想外の品物を目にした一同は、目を点にして首を傾げていた。


「……これが、財宝……にゃ、見えねぇよなぁ……。」


「あちしもこれには吃驚したです。」


「どー見ても、靴、だねぇ……。」


 まじまじと全員で見つめるが、靴は特に何か起こるわけでもなく、箱の中に鎮座していた。


「……どうするです? 持って帰るです?」


「……まぁ、持って帰んねぇのも勿体ねぇしよ。箱ごと持って帰ってみっか。」


「そうするです。……ちょっとがっかり、です。」


「まあ、ダンジョンなんてこんなもんだろ。……割に合ってねぇのはあるだろうけどよ。」


 少し渋い顔を浮かべるレインへ、レクスは溜息混じりに声をかけた。


 実際、レクスもダンジョンの宝箱から魔導拳銃である「黒疾風」や「ミノスの魔導時計」を手に入れているのだが、正直割に合っているとは思っていなかった。


 命を賭して挑んでも、売っぱらって一生遊んで暮らせる金額には程遠く、死んでしまえばダンジョンに魂を囚われるのだ。


 そう思うと、レクスの口元は下がり、表情は物悲しいそれへと変わった。


(……こんなもんの為に、人が死んでんだ。どう考えても、くそったれなもんだろ。ダンジョンなんて、所詮こんなもんだ。……リュウジの野郎も、ここまでだとは想定していねぇだろうけどよ。)


 ダンジョンへ入る前に勢いづいていたリュウジの顔が、ふとレクスの脳裏に浮かんだ。


 リュウジに連れられ、ダンジョンに入った冒険者も多かった。


 だが、こんなものの為に命を落とした冒険者の姿を、レクスは目の当たりにしてきていた。


 自己責任、と言ってしまえばそれまでだろう。


 だが、レクスにはどうも不憫でならなかった。


「…レクス。…偵察終わった。」


「うおっ……!? 悪ぃ、吃驚しちまった。」


 ふぅ、と再び溜息を零したレクスの隣から、声が響く。


 ぎょっと身体を仰け反らせながら隣を見ると、アオイが音もなく立っていた。


 アオイはきょとん、とあどけない表情でレクスを見下ろしていた。


「…ごめんなさい。…驚かせた。」


「……大丈夫だ。俺こそ大声出しちまって悪かった。」


「…問題ない。…驚かれるのは慣れてる。」


「……でもまあ、心臓が飛び出るかと思ったぞ。……ところで、扉の方はどうだったんだ?」


「…特に、何もなかった。…仕掛けや罠もなさそう。…ごく普通の扉。…少し覗いてみたら階段があった。」


「階段、か。……地上に戻れる道な事を願いてぇけど。……もう、こんなとこはこりごりだ。」


「…うん。…暑いからうちも嫌。」


「そうです。あちしも暑いです。早く地上へ戻らないと、溶けちゃいそうです。」


「……そりゃ、その服ならな。」


 レクスの言葉に肯くアオイとレイン。


 だが、レインの服は如何にも暑そうであり、レインの首筋には汗が浮いていた。


 そんなレインの姿を、キューは羨ましそうに玉蜀黍色の瞳で見つめていた。


「まー暑そうな服だもんねー。可愛いけどさ。……いいなぁ。ぼくも着てみたいけど、多分似合わないだろうなー。」


「キューなら似合うんじゃねぇのか? 可愛いと思うけどよ。」


 何の気もなしにレクスは呟いた。


 レインの服をキューが着るとなると、その愛らしい容姿に映えるのではないか、と純粋に思ったのだ。


 レクスの言葉に、キューは頬を真っ赤に染めてブンブンと手を振り、否定した。


「もー! おだてたって何も出ないよ、レッくん。ぼくのイメージに合わないじゃん。……まあ、ちょっとは嬉しかったけどさ。でも、駄目だよレッくん。そんな勘違いするような言葉を言って、ぼくを誑しこもうとするなんてさ。ほら、隣の女の子たちも見てるし。」


 頬を染めたキューが言うように、キューの姿をアオイとレインの二人は興味深そうに目を丸くして眺めていた。


「…レクス。…ずっと気になってたけど、この子、誰?」


 キューを指して、アオイが琥珀色の瞳をレクスに向けた。


 無表情なようだが、その琥珀色の瞳はなんとなくキラキラと輝いているようにも思えた程だった。


(……そういえば紹介してなかったっけか。キューのこと。)


 屍骨兵との戦いに加わってから、思い返せば紹介している暇はなかったのだ。


 目の前にいるキューがいるのが当たり前になっていた事を、レクスは自覚していなかった。


 キューはクオンを探し、ここまで一緒にきた仲間として、レクスはごく自然に考えていたのだ。


「あー……キューってんだ。ダンジョンの中でクオンを探す時に出会ってよ。」


「…不思議な、魔獣? …綺麗。…うち、初めて見た。」


「ああ。まぁ……ビッくんみたいなもんだろ。悪い奴じゃねぇしよ。ここまで連れて来てくれた、俺の仲間だ。」


「…そうなんだ。…うちはアオイ。…よろしくね、キュー。」


 アオイはキューに顔を向けると、おもむろに右手を差し出していく。


 どうやら握手がしたいようだった。


 キューは少しびくりと身体を震わせ、驚いた様子だったが、アオイの人差し指を両手で包み込むように握った。


 キューの手がアオイの指に触れた瞬間、アオイは慣れない感覚だったのか、「…不思議。」と呟いていた。


 二人の握手を微笑ましく見つめていたレクスは、レインにも紹介をしておかねばと思いながらレインの方へと顔を向ける。


「ほら、レインも…。」


「妖精……さんです!? ほ、本物です!? か、可愛い、です……!」


「……レイン?」


 レインは両の青銅の瞳を輝かせ、キューを穴が空くほどに見つめていた。


 両手を合わせて組み、何処か祈るような仕草にも見えた。


 キューもレインの輝くような視線に気が付いたのか、身体をびくりと跳ねさせた。


 あまりにも熱狂的な視線に、レクスも少したじろいでしまう。


 今レインが着ているような服を扱う専門店に行った時、こんな顔をしていた事を、レクスは思い出していた。


「れ、レイン?」


「とても、可愛いです……。近くで見ると、本当にお人形さんみたいです……。」


 レインは完全に、キューに見惚れていた。


 まじまじと注がれる視線は、キューも身の危険を感じたのか、ぶるりと震えあがるほどだ。


「れ、レッくん……。」


 キューは困ったようにレクスへと視線を投げる。


 何処か縋り付くような玉蜀黍色の視線は、「助けてほしいと伝えているようだった。


「……レイン。キューが怖がってんぞ。」


 キューの視線に応えるように、レクスはレインの耳元でぼそりと呟いた。


「はっ……!? お、お見苦しいところを見せたです! 申し訳ないです……。」


 レクスの声に気が付き、レインは正気に戻ったかのようにハッとして、レクスに向き直った。


 そんなレインの呟きの中で、レクスは一つ、気になっていた事があった。


「なあ、レイン。「妖精」って……何だ?」


「妖精」。


 おそらくキューを示しているであろうその名前を、レクスは知らなかったのだ。


 レクスが何気なく聞いた言葉だったが、瞬間。


 レインの目の色が、変わった。


 一瞬怒らせたのかとも思ったが、そうではない。


 かなり熱量を持った、愛好家オタクの目をしていた。


「レクス様。妖精さん……「妖精」は魔獣の一種です。でも、滅多に人前に姿を現さないです。時折人前に姿を現しても、その性格は凶暴だと言われてるです。人間を憎むかの如く、さまざまな魔術を使う、とも言われているですが、その姿はとっても可愛くて、絵本なんかにもよく出てくる魔獣です。でもキューさんを見ているとそうでもないです……。やっぱり自分で見た方が綺麗です。でも、、まさかあちしの目で見られるとは思ってなかったです……。ああ、可愛過ぎるです……。フリフリのお着物とか作ってあげたいです……。キューさんならどんな柄が似合うですかね……? フワフワな服、とっても似合うはずです……。魔獣も懐かせるなんて、レクス様……どんな幸運の星に生まれてるです?」


「あ、ああ……。なんでかはわかんねぇけどよ……。」


 まくしたてるような早口に、レクスは圧倒されるしかなかった。


 どうやらキューの姿を見て、興奮が抑えきれなくなってしまったらしい。


 レインの意外な一面に、アオイやクオンすら目を白黒させてきょとんとしているほどだった。


 そんなレインの一面すらも、何処か可愛いとさえ思ってしまうのは、惚れた弱み故だろうか。


「……ああ。連れて帰りたいです……。絶対にキューさんに似合うお服を、あちしが作ってあげられるです……。ああ、想像しただけで、可愛いです……。」


 レインはぐっと身体を寄せ、キューを舐めるようにじっくりと見ている。


 どうやら、相当気に入ってしまったらしい。


 キューは相変わらず、レクスに乞うような視線を送り続けていた。


「れ、レッくん。……助けて。」


「……悪ぃ。レインの気の済むまで、我慢してくれねぇか? レインもキューに酷い事はしねぇ……と思うしよ。」


「そうです。レクス様の言う通り、あちしはキューさんに酷い事はしないです。……だから、もっとその姿を見せて欲しい、です……。」


「……レッくんの薄情者ー!」


 キューの声が、空洞に虚しく響いた。

お読みいただき、ありがとうございます。

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