骸骨の兵隊
それはまるで、綺麗に積みあげた積み木が一瞬で倒壊するように。
次から次へと連鎖して、骨の山が土砂の如く積み上がる。
がらがら、がらがらと崩れて山になる残骸は、何処か美しいとさえ思えた。
レクスたちは、その光景を静かに注視しながら眺めていた。
屍骨龍の残骸は、瞬時に白骨の山へと変わり果てた。
キューは一瞬、ぎょっとしたように目を見張る。
「お、脅かさないでよ……。」
「……違ぇ。」
「……何が?」
「違う! 奴はまだ、斃れてねぇ!」
叫ぶレクスの顔は、引き攣って歪んでいた。
眼を大きく見開く。
額から汗が滴る。
胸を叩く鼓動が加速した。
背筋にはぞくぞくとしたえもいえぬ不気味な感覚。
直感が、けたたましく警鐘を鳴らしていた。
そんなレクスの様子に、クオンも、キューもさっと顔から血の気が引いたように青褪めた。
「えっ……レッくん、それって……?」
「よく見ろ! 大きな核がどこにもねぇ!」
レクスは叫んだ。
一般的に、魔獣が大きければ魔核も大きい。
溜め込む魔力の量に差が出て来る為であり、身体を超えた魔核など持ちようがないからだ。
しかし、目の前の屍骨龍が崩れ落ちた時。
落ちるはずの魔核は、どこにも落ちなかった。
その光景を、レクスは見ていたのだ。
そして、次の瞬間。
かたかたかたかた、と。
振り積もった骨の山が震え始めた。
空洞には揺れもなければ、風もふいていない。
一人でに骨が揺れ動くことなど、あり得なかった。
「ま、また……なのですか……!?」
瞳が揺れ、声が震えていた。
再びあの屍骨龍が復活することを想像したのか、クオンはぎゅっと目を閉じる。
レクスはクオンを強く抱え込んだ。
かたかたと動き出した骨たちは、再び重なり、繋がっていった。
だが、今度は繋がる数が少ない。
重なった骨は、人一人分程の量であった。
組み上がったのは、一体の白い人型をした骸骨。
頭は、龍の頭ような形をしていた。
眼窩には、屍骨龍と同じ闇の炎が灯っていた。
大きさはレクスと同じ程度だ。
胸の中心に、小さな魔核が光っているのが見て取れた。
その手には、骨で出来た剣を持っていた。
立ち上がり、かたかたかたかたと音を鳴らしながらレクスたちの方へと歩み寄る。
見るからに貧弱そうな白い骸骨の兵に見えた。
「な、何あれ? 弱っちそーな……。」
「……キュー、よく見ろ。」
「え?」
ぽかんとした顔で、キューは拍子抜けたように声を上げた。
だが、レクスは感づいていた。
これで終わりなわけがない、と。
レクスが声を上げた時だった。
骸骨の兵が、白骨の山からどんどんと湧き出していた。
一体、二体、四体、八体、十六体……。
かたかたかたかたと乾いた音が響きながら、次々と骸骨の兵が量産されていく。
ねずみ算式に増える骸骨の兵は、またたく間にレクスたちの周囲を覆い尽くした。
焦燥したように目を開いて、レクスは周りを確認する。
どこもかしこも、骸骨の兵で埋め尽くされていた。
「う……そ……。」
一面に拡がる絶望的な光景に、キューは目を見開いて絶句した。
かたかたかたかた、と乾いた音が合わさって混ざりあい、大きな波が押し寄せているようだった。
レクスもしきりに首を回しながら、周囲の様子を見渡す。
どこもかしこも、白骨の兵で視界が埋め尽くされていた。
ネズミが通れるような隙間もない。
レクスの中で、ある考えが浮かんだ。
(そうか……こいつら全員が、屍骨龍の本体か!)
導き出された答えは、レクスにとって最悪だった。
屍骨龍の核が出てこなかったのではない。
数多もの骸骨兵が纏まって、屍骨龍という一体の魔獣になりすましていたのだ。
おそらく先程までの屍骨龍としての形態が倒された場合、次は数の暴力で仕留めんとするダンジョンの意思なのだ、と。
レクスはそう、感じ取っていた。
(……性悪すぎんだろ……! 畜生!)
ぎりぎりと、歯を噛み締める。
空洞を埋め尽くした骸骨の兵は、じりじりとレクスたちに近づいていた。
レクスだけならまだしも、クオンとキューも守り抜かねばならない。
ぐらり、と。
レクスの目の前が歪んだ。
「ぐっ……。くそっ……!」
ふらついた頭を、手で押さえた。
既にレクスは「とっておき」を三発分使っている。
魔力はまだあるだろうが、とてつもない疲労感と脱力感がレクスを襲っていた。
加えてレクスは、ダンジョンに入ってから一睡もしていない。
クオンを探し、守り切る為に必死だったからだ。
だからこそ、心身の疲労は既に限界を超えていた。
「にいさん……。」
「れ、レッくん……!?」
クオンとキューがレクスを心配そうに見つめている。
二人を守る為にも、立ち上がらなければならなかった。
やるしかない。
やらなければ、それこそ死に絶えるのだから。
クオンが握っていた指をゆっくりと解き、黒嵐を優しく取り上げた。
「あっ……。にいさ……。」
「だい、じょうぶだ。クオン。」
デイブレイクを抜き放ち、おもむろに身体を起こす。
立ち上がる時の少々のふらつきも、気にならなかった。
何故なら。
「俺は……兄さんだからな。」
クオンに語るように。
自身を鼓舞するように。
レクスは呟く。
身体からは汗が蒸発した湯気が上がっている。
阿修羅もかくやと言わんばかりの闘志を纏っているかのようにさえ見えた。
「来や……がれ……!」
紅い眼に宿した炎は、未だ消えていない。
黒嵐とデイブレイクを構え、突貫しようとした。
その時だった。
涼しい風が、レクスの頬を柔らかく撫でた。
刹那。
すぱん、と。
一本の太刀筋が閃いた。
十数体の骸骨が纏めて斬り払われ、崩れ去る。
それと同時。
きら、きら、きらと。
複数の”何か”が光を反射した。
次の瞬間。
一区画全ての骸骨兵が、ばらばらと細切れに成り果てた。
「……なん、だ?」
次々と小さな魔核が溢れ落ちる中。
レクスは何が起こったのか分からず、呆気に取られた顔を浮かべた。
突然の斬撃に、屍骨兵たちの一斉崩壊。
自分たち以外の”誰か”の手によるものだと言うことは明白であった。
しかし、ダンジョンに残っていた人間など今までの道程でレクスは出会っていない。
静かに首を傾げるレクスの前に、二人の人物が降り立った。
ふわりと風に靡く栗色のローツインテールと、水色のボブカット。
それは、この場にいるはずのない人物。
レクスは、我が目を疑った。
「なんで、居るんだ……?」
二人は、くるりとレクスに顔を向ける。
「…レクス。…大丈夫? …助太刀に来た。」
「レクス様! ご無事です!? あちしたちが迎えに来たです!」
それは、レクスの大切な婚約者の二人。
見まごう筈もない。
アオイとレイン。
二人が、レクスの目の前に颯爽と立っていた。
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