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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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三位の轟砲


 ピッ、と無機質な音が鳴った。


 自身の魔力が黒嵐へと急速に吸われていく感覚。


 どことなく身体の怠さが増すような感覚が、レクスにはありありと感じられた。


 ぎろり、と屍骨龍を睨みつける。


 屍骨龍も眼窩に宿った闇の炎を煌々と灯し、レクスたちへ殺意を顕にしていた。


 レクスの後ろには、クオンとキューが居る。


 後ろの二人が、作戦の鍵となるのだ。


 元々二人を傷つけさせるつもりは毛頭無かった。


 なれど、キューが語った作戦では三人が纏まって協力することが必要だった。


 つまり、二人が気絶や死亡でもしようものならその時点で作戦が立ち行かなくなる。


 それも、ハイリスク・ハイリターンな大博打だ。


 失敗すれば、三人とも灰燼に帰すであろう極限の賭け。


 だが、それ以外に倒し切る方法をレクスは考えつかなかった。


 つまりは、装填の完了する間の最低でも十秒間。


 確実に二人を、それも片腕が塞がった状態で屍骨龍の攻撃から守らねばならない。


 しかしレクスは焦る事もなく、紅色の双眸で冷静な視線をもって屍骨龍を見上げていた。


 刹那が永劫に感じる程の張り詰めた緊張感。


 レクスたちは、肌にピリピリと静電気が走るような感覚を覚えていた。


(守るさ。……絶対にな。)


 後ろに、目を向けた。


 クオンは、瞳が揺れて縋り付くように。


 キューは、真っ直ぐレクスを信じるように。


 それぞれが、レクスの背を見つめていた。


 レクスは黒嵐を握る左手に力を込める。


 デイブレイクを持つ右手には、血管が浮き出ていた。


 一秒を、心臓の鼓動にすり合わせる。


 動きがあったのは、直後だった。


『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』


 屍骨龍が、大顎を開いて咆哮を上げた。


 空間がビリビリと揺れ動く。


 屍骨龍が、大きく爪を立てて右手を振り上げた。


 空気を引き裂き、剛腕を落とす。


 迫る剛腕の側面にデイブレイクを合わせた。


 ハンマーを振るかのごとく、思いきり打ち込む。


 衝撃。


 横の大地を、屍骨龍の爪が穿った。


 レクスたちに、舞い上がった細かい礫が飛ぶ。


「きゃっ……!」


「わっ……!」


 礫が降りかかったのか。


 クオンとキューの声が聞こえた。


 微細な礫程度なら、レクスは瞬き一つしなかった。


 続けざまに左掌が振り上げられた。


 左手を返した。


 迫る凶爪。合わせて振り返した。


 再び打ち据えて逸らす。


 じん、と痺れた。


 再びの衝撃。礫が飛ぶ。


 頬が切れた。血が滲む。


 だが、それでも。


 ふらつきもなく、レクスは真っ直ぐ屍骨龍を見据えていた。


 瞳に宿る灼熱が、黒く燃える炎の眼を圧倒しているかのようでもあった。


『ガルァァァァァァァァァァァァァァァァ!』


 そんなレクスの態度に業を煮やしたのか。


 屍骨龍は大顎を咆哮と共にがばりと開いた。


 規則正しく並んだ名剣の如き牙。


 レクスを食い殺さんと猛烈に迫った。


 振り下ろされる顎に、レクスは一切の焦りなど見せない。


 手を返しながら、デイブレイクを腰に添えた。


 闇の炎が宿った眼窩が、レクスとの距離を縮める。


「にいさん!」


「レッくん!」


 後ろの二人が焦燥したような叫びを上げた。


 あの大きな顎の餌食になってしまえば、レクスは自身が羽織るローブのように、無惨な襤褸切れと化してしまうのは明らかだ。


 だが、レクスは。


 口元を柔らかく上げた。


「……大丈夫だ。」


 大和の剣術技法「居合」のように。


 デイブレイクを、ひとおもいに抜き放った。


 高速の抜刀術が、屍骨龍の側頭に直撃する。


 もちろん、屍骨龍の骨が斬れる事はない。


 レクスの技術は、クロウの妻であるアイカの真似事であるためだ。


 未成熟な剣術の腕だが、今はこれで充分だった。


 打ち据えられ、弾かれた屍骨の牙。


 レクスを避けたかのように、すぐ隣の地面をえぐり抜いただけだった。


 纏わりつく熱気を斬り裂いて奔った剣は、大顎の一撃を逸らす事に成功していた。


 ちらり、と。


 レクスは左手に持っていた黒嵐を見やる。


(そろそろか……。後は……!)


 きらり、と。


 黒嵐が光を反射したように見えた。


 十秒が経過し、黒嵐はトリガーを引けばいつでも砲撃を行う事が出来る状態だった。


 だが、まだ撃たない。


 放ったところで、確実性に欠けるのは目に見えていた。


 キューの作戦に従うなら、この光弾を使った砲撃を。


 あるタイミングに合わせる必要があった。


 屍骨龍が顔を上げた。


 瞬間。


 レクスは後ろを振り向いた。


 紅色の視線の先にいるのは、クオンだ。


「クオン!受け取れ!」


 レクスは叫んだ。


 後ろ手に黒嵐の銃身を持ちながら、クオンに向けて差し出す。


 驚いたのか、一瞬だけ翡翠の瞳を不安げにクオンは揺らした。


 だが、それも一瞬。


 クオンはキッと左目に闘志を宿したように見開いた。


「……はい、なのです。にいさん!」


 応えると、クオンは左手を差し出して黒嵐を受け取った。


 ◆


 兄から手渡された、魔導拳銃。


 クオンはそのグリップを握り込む。


 暖かかった。


 いつの日だったか感じた、「兄」の手の温もり。


 それと一緒な気がして、じんわりと胸が暖かくなった。


 だが、しんみりと浸っている時間はない。


 クオンは左手を伸ばし、黒嵐を構えた。


 銃口を、屍骨龍に合わせる。


 その瞬間だった。


 痺れを切らしたのか。


 兄を攻撃していた屍骨龍の姿勢が、ぐんと下がった。


 待ち望んでいた攻撃の合図だ。


 クオンの全身に、恐怖心が走り回る。


 それでも銃口は屍骨龍に向けたまま。


 クオンは、恐怖心に耐えていた。


 屍骨龍が、ドン、と脚を解放して跳び上がった。


 鋭利な刀剣が並んだ顎が大きく開かれる。


 湧き上がる赫い粒子が、屍骨龍の口内に渦巻いていく。


龍の咆哮波(ドラゴンブレス)』の構えだ。


 その様子を、キューはただ静かに見ていた。


 目を凝らし、何かを探るように。


 ただじっと屍骨龍を見つめ、冷や汗をかきながら何かを伺っていた。


 黒嵐を持つ、クオンの手は僅かに震えていた。


 心で耐え、スキルで補正しても。


 隠れながら目の当たりにした威力に恐怖を感じた身体は、いう事を聞かなかった。


(止まって……なのです……!)


 震えを止めるように、クオンは力を込める。


 だが、それでも銃身の先はかたかたとぶれるように震えが止まらなかった。


 瞬間。


 そんなクオンの左手に、右手が重なった。


 突然感じた温もりに、クオンはちらりと目を遣った。


「……え?」


「……大丈夫だ。クオン。」


 紙一重先に見えたのは、兄の横顔。


 レクスが、優しく手を重ねていた。


 吐息がかかる程に、レクスの顔は近い。


 クオンの大きな胸が、レクスの胸板に触れていた。


 嫌悪感は、ない。


 むしろ心地がいいとさえ思えた。


 何故かは、クオンには分からなかった。


 レクスの体温を、至近距離で感じていた。


 心拍は早くなるが、身体から無駄な力が抜けていく。


 身体の熱さが、クオンを包む。


 いつの間にか、クオンの震えは止まっていた。


 ふぅ、と息を吐く。


 恐怖心は、既に何処かへ消え失せていた。


 屍骨龍を、正面に見つめた。


「……今!」


 キューの甲高い叫びが、合図だった。


 標的は、屍骨龍の口内にある魔力の渦。


 外すことは、許されない。


 翡翠の瞳の中心に、屍骨龍を合わせた。


「……いくのです!」


 かちり、と。


 トリガーを、指で引き絞った。


 銃口の先で、瞬時に魔力の砲弾が生成される。


 そして。


 ドゴン、と。


 轟音と共に砲弾が射出された。


 地面から離れそうになるようなあまりの反動に、クオンの身体が蹌踉めいて下がりそうになる。


 そんなクオンの小さな体躯を支えようと、レクスが抑えこむ。


 抱え込まれたレクスの、腕や身体から伝わる体温に、クオンは安心してしなだれかかっていた。


 超高速で進む魔力の砲弾は、屍骨龍に向かって流星のように尾を引いていた。


 屍骨龍が、「龍の咆哮波(ドラゴンブレス)」を吐き出そうとした瞬間。


 かち合った。


 光の砲弾が、吐き出されようとした魔力の渦を巻き込む。


 炸裂。


 巨大な爆発音と衝撃波が、空洞を劈く程に広がった。



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