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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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逆転の一手

 着弾を確認したクオンは銃口を下ろすと、すぐに駆け出した。


 屍骨龍もレクスから身体を背け、クオンへと向き直る。


『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』


 威嚇するような咆哮が上がった。


 その隙に、レクスも身体を起こして立ち上がる。


 歯を噛み締め、クオンを眼で追っていた。


 なぜクオンが発砲したのかなど、レクスは不思議に思う暇などない。


 クオンが攻撃したという事は、屍骨龍の標的がクオンにも向くようになってしまったのだ。


 レクスでさえ躱し続ける事がやっとな屍骨龍の攻撃の嵐に、クオンが晒される事を意味していた。


 クオンの身に迫る危険に、レクスは痛む身体に鞭を打って姿勢を低くする。


 冷や汗が額を伝った。


 駆け出す為に、腿に力を溜めた。


 そんなレクスの前に、きらきらとした鱗粉が舞う。


 キューだ。


「レッくん、ごめん!」


 キューが弾き飛ばされたデイブレイクを抱え、レクスの前に飛んできていた。


 頭を下げたキューに、レクスは驚愕の視線を返した。


「キュー!? なんでだ……!?」


「恨み言ならあとから聞くから! それよりも、これ!」


 キューが抱えたデイブレイクを両手で差し出す。


 素早くデイブレイクを手に取ると、レクスはキューを真っ直ぐ見据えた。


 クオンに続きキューまで出て来た事に、レクスは困惑を隠せなかったからだ。


 そんなキューが次に発した言葉は、信じられないものだった。


「あと、レッくん!……多分だけど、ぼくとレッくんとクオンちゃん。三人の力ならあいつを倒せるかもしれない。」


 唐突な発言にレクスは理解が追いつかず、ぽかんと目を見開いた。


「どういうことだ? そりゃ……。」


「話は後!とにかく今はクオンちゃんのとこへ走って!」


「ああ。わかってる!」


 キューの言葉を聞き終える前に、レクスは駆け出していた。


 屍骨龍はレクスから視線を移し、クオンに注いでいる。


 クオンは必死に、足を動かして屍骨龍から逃げていた。


(……クオン!今行くからな!)


 黒嵐を持ったクオンを追いかけるように、レクスは黒い台地を蹴飛ばした。


 ◆


『弓聖』。


 クオンの持つスキルは、伝説級とされるスキルの一つだった。


 それは弓矢が確実に命中するようになるスキルと言われていた。


 その実態は、身体が弓矢を引いたことなどなくても勝手に、自動で補正するようになるスキルであった。


 弓の引き方や使い方を、身体が自動的に理解するのだ。


 それは矢の数を増やそうと変わることは無い。


 それぞれのパターンにあった最適化された引き方を、身体が勝手に動いて再現する。


 静止している狙った場所に寸分違わず中てる事など、児戯に等しい程に簡単だった。


 故に、失矢などほぼ無いに等しい。


 あるとすれば、弦が切れた時などの予測不可能な事態や、相手が激しく動き回る時などに限られていた。


 だが、所持者が非常に限定される上、その名前故なのか。


 クオンを含め、歴代の所有者は誰もが『弓矢』を武器として使用していた。


 だからこそ、『弓聖』のスキルを知るものは『弓のスキル』だと勘違いしていたのだ。


 それは、半分正しいと言ってもいいだろう。


 だが、半分不正解なのだ。


『弓聖』の効果は『弓矢』にだけ適用されるのではない。


 スリングショットや吹き矢、果ては投石機といった遠距離武器であっても、その全てに『弓聖』のスキルは適用されるのだ。


 それこそが『弓聖』というスキルの効果であり、伝説級チートと呼ばれる所以なのだ。


 故に。


 魔導拳銃である、「黒嵐」も例外ではなかった。


 ◆


 発砲した直後、クオンは魔導拳銃を下ろした。


 ずしりとした鋼鉄の重みは、クオンの手には大きすぎた。


(……重い、のです。でも……!)


 クオンは自身の手の中にある黒嵐を見やった。


 弓矢などの比ではない程の重量は持っているだけで腕が怠さを覚えていた。


 銃撃の反動も、クオンには強すぎた。


 一発放っただけでも、腕にはじんじんとした痺れが残っていた。


 レクス専用に設計された黒嵐は、総じてクオンには取り回し辛いものに相違なかった。


 それでも、クオンが戦う手段はこれしかない。


 屍骨龍が、クオンへとその巨軀を向けた。


 眼窩に宿った黒い炎が、激しく明滅していた。


 背筋を寒気が駆け上がった。


 黒嵐を握る手が震える。


 湧き上がる恐怖心を抑えるかのように、グリップを握りしめた。


 クオンは、駆け出した。


 レクスが捌いていた攻撃を、クオンは避ける事など出来る筈もない。


 近距離や中距離は、クオンにとっては絶望的な距離なのだ。


 だからこそ、屍骨龍から距離を取る必要があった。


 懸命に足を動かす。


(にいさんの魔力を……感じるのです……!)


 スキルのお陰なのか。


 黒嵐に触れた瞬間に、クオンは充填された魔力の残量を何となく感じ取っていた。


 同時に黒嵐の機構も理解する。


 クオン自身は、黒嵐に魔力を供給出来ない。


 魔力の充填が出来るのは、無属性の魔力を有するレクスだけなのだ。


 残りは、三点バースト射撃も含めれば九発分といったところか。


 レクスの充填した魔力があるうちは、まだ戦える。


 そんな気が、クオンの心を再点火させていた。


 全ては、自分のエゴなのかもしれない。


 だが、レクスの暖かさにクオンは絆されたのだ。


 屍骨龍はクオンに狙いを定めたのか。


 黒く燃える双眸が、クオンを追っていた。


 足を曲げて姿勢を下げた。


 ドン、と。


 台地を揺るがす振動と共に、足を解放した。


 空中で大きく腕を振り上げる。


 クオンに当たれば、致命傷は免れない。


「クオンっ!」


 兄の声が聞こえた。


 とん、とステップを踏むように跳ぶ。


 身を翻し、空中の屍骨龍へ向かい合う。


 腕を引き上げ、黒嵐を構えた。


 銃口は、黒い炎の眼窩へと向く。


 引き金を引き絞る。


 発砲。


 光弾が放たれ、真っ直ぐに飛んだ。


『ギャウ!!?』


 命中。


 空中の屍骨龍は、バランスを崩したように藻掻いた。


 クオンは再びステップを踏み、足を踏み換える。


 そのまま元の方向へ向き直り、駆け出した。


 一瞬の後。


 ズドォン、と。


 クオンの後ろから轟音と地響きが同時に伝わる。


 屍骨龍がバランスを崩したまま、撃ち落とされたのだ。


「はっ……はっ……。」


 荒い呼吸はそのままに、それでも脚は止めない。


 道中はレクスに背負われていた事もあり、体力は回復していた。


 クオンは、一心不乱だった。


 兄を助けたいが為だけに黒嵐を手に取った。


 持ち慣れない黒嵐の照準は、『弓聖』のスキルが補っていた。


 レクスでは当てる事が困難な距離でも、クオンならば当てる事は容易かった。


 狙うのは、黒い炎が灯った眼窩。


 唯一硬質で覆われていない部分であったからこそ、クオンは狙ったのだ。


 そしてその狙いは、功を奏した。


 弱点とはいかないまでも、明確にダメージを与える事が出来る部位だったのだ。


 クオンはグリップに備えつけられた、ダイヤルを指先で回す。


 走りにくい岩場だろうと構わない。


 再びステップを踏み込み、身を翻した。


 視線の先には、横たわる屍骨龍。


(……ここ、なのです!)


 眼窩に狙いを定めた。


 トリガーを絞り、発砲。


 三発の光弾が同時に射出された。


『ガギャアアアアアアア!!』


 命中。


 光弾は三発全て、屍骨龍の眼窩へと撃ち込まれた。


 屍骨龍は衝撃に苦しみ、のたうち回る。


 クオンは着地し、脚を着く。


 同時に、脚を軸にして独楽のように再度正面へ向き直った。


 黒い台地を蹴飛ばして、すぐさま屍骨龍から離れる。


(……効いてたのです。眼にあと数発、当て続けていけば……!)


 一筋の光明が見えた気がしていた。


 その時だった。


 慣れない動きをしたせいだからなのか。


 僅かに気が緩んでしまった事もあったのだろう。


 かつん、と。


 龍の咆哮波(ドラゴンブレス)で出来た地面の凹凸に、脚を取られた。


「きゃんっ……!?」


 迫る地面に、片手では受け身が取れなかった。


 クオンの身体に、衝撃と痛みが走る。


 凹凸の激しい硬質な地面がすぐ傍にあった。


 躓いて転び、身体を打ち付けてしまったのだ。


 もちろんそんなクオンを見逃す屍骨龍ではなかった。


 クオンは左手を着き、上半身を起こした。


 幸いにも黒嵐は離していなかった。


(早く、起きないといけないのです……!)


 顔を上げたその先。


『ガギャアアアアアアアアアアアアアアアア!』


「ひぃっ……!?」


 クオンの口元が引き攣った。


 屍骨龍が唸り声を上げ、宙を舞いながら迫っていた。


 既に右の剛腕は振り上げられている。


 クオンを叩き潰さんと、眼窩の炎が燃え盛っていた。


 クオンは左手を着いている。


 銃口を向ける事は出来ない。


 向かい来る屍骨龍の姿にクオンは戦慄する。


 目を閉じようとした。


 だが。


「クオン!大丈夫か!?」


「クオンちゃん! 大丈夫!?」


 外套を纏った兄と、輝く鱗粉を纏った妖精。


 二人が地面を滑るように、屍骨龍の前に割り込んだ。


『ガギャアアアアアアア!』


 咆哮と共に、勢いをそのままにして屍骨龍は右腕を振り下ろした。


 レクスは両手で剣を構えながら、屍骨龍の右腕に向かって振り上げた。


「せえええええええええいっ!」


 レクスが咆哮と見まごうばかりの掛け声を上げ、屍骨龍の腕を打ち据えた。


 きぃん、と。


 金属が擦れる音がした。


 重い鉄槌のようなその一撃は、剣に打ち据えられたことで方向がずれ込む。


 レクスが、屍骨龍の一撃を完全に捌いていた。


「クオンちゃん!しっかり!」


 キューがクオンの右肩を持ち上げるように、引き上げた。


 クオンはキューの力を借りながら、その場に立ち上がる。


 ちらり、と。


 レクスが目をクオンに向けた。


 紅い瞳は、クオンを見て優しく下がっていた。


 嫌悪している筈なのに、何故だろうか。


 そんなレクスの表情に、クオンの心臓は跳ねた。


「にい……さん? キュー……さん?」


「吃驚したよ! 急に飛び出すんだもん!」


「無茶しやがって……。でも、すげぇよ。……頑張ったじゃねぇか。クオン。」


 キューもほっと胸を撫で下ろしていた。


 クオンは、惚けたように二人を見つめていた。


『すげぇよ。……頑張ったじゃねぇか。クオン。』


 レクスの言葉が、じわりとクオンの中に染み入っていった。


 褒められた。


 その事実が、クオンの身体を熱くさせていた。


 クオンの状態を知ってか知らずか。


 レクスが左手を差し向けた。


「クオン。黒嵐を返してくれ。」


「あ……。はい、なのです。」


 兄に言われるがまま、黒嵐を手渡す。


 指先が触れた。


 やはりその瞬間に、触れた部分に心地の良い熱を感じた。


 懐かしい。


 そんな気がしたのだ。


 黒嵐を受け取ったレクスは、にぃと口元を吊り上げた。


「クオン、キュー。力を貸してくれ。……キューの案に、乗ってみっからよ。」


「レッくん。……わかった。言い出しっぺだもんね。」


「……にいさんが、そういうなら。」


「ありがとうな。二人とも。さて……。」


 レクスが正面に向き直る。


 眼前では屍骨龍の凶顔が三人を見下ろしていた。


 明らかに三人を殺す為に、瞳の炎を燃やしている。


 レクスは、真っ直ぐに屍骨龍を睨みつけた。


「……これで、終わらせる。」


 かちり、と。


 三度目。


 黒嵐の後端が引かれた。





お読みいただき、ありがとうございます。

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