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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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屍龍の咆哮

「逃げろ!」


 レクスが叫んだ。


 ちら、とキューがクオンと来た道を戻るのを傍目に捉えた。


 屍骨龍の咆哮に、レクスは手を交差させて身構える。


 びりびりとした空気の振動を、レクスは肌で受け取っていた。


 顔を顰め、レクスは屍骨龍の顔を見上げた。


 大きさはレクスよりもずっと高い。


 転移結晶のあった部屋に住まっていた地獄の番犬を、ゆうに超える程の大きさだ。


 目覚めの咆哮を終えた屍骨龍は、顔を下に向けてレクスを見下ろした。


 骨で出来た頭蓋は感情を読み取れない。


 だが闇の炎を宿した眼窩は、レクスをじろりと見下ろしていた。


 めらめらと燃え上がる黒炎は、生命を憎んでいるかのようにすら思えた。


 ただで帰してくれる訳ではなさそうだった。


 睨むように、屍骨龍を見据えた。


 レクスは顔に向かって黒嵐を構えようとする。


 しかし、屍骨龍の動きは予想外に機敏だった。


 屍骨龍が、台地を蹴り上げた。


 振動と共に、巨軀が跳び上がる。


 振り上げた右腕が、レクスめがけて振り下ろされた。


「……ちぃっ!」


 黒嵐を下げ、腿をバネに横へ跳ぶ。


 ドォンと、轟音。


 衝撃で台地が凹み、破片が弾ける。


 レクスに当たれば、ただでは済まない事は明白であった。


 パラパラとした砂が、頬を掠めた。


 口元を歪め、炎が燃え盛る目を見やる。


(……意外と、動きが早ぇ!)


 思った次の瞬間。


 もう片方の腕がふり上がっていた。


 迫る鋭利に研ぎ抜かれた骨の爪。


 台地を蹴り上げ、後ろに飛び退いた。


 遅れて炸裂する左手の一撃。


 台地が弾け、破片が飛んだ。


 腕は躱したが、礫のような破片が襲いくる。


 腕を交差させ、防いだ。


 予想外の俊敏さだった。


 地面を蹴り上げ、後ろに回る。


 距離を取った。


 すぐさま駆け出す。


 衝撃が走った。


 一瞬前にレクス立っていた場所が、巨大な腕で叩きつけられていた。


 頬を撫でる空気に、冷や汗が混じる。


 僅かでも喰らってしまえば、良くて戦闘不能といったところだろうか。


(……少し、きちぃかもしれねぇな。)


 眉間に皺を寄せながら、レクスは孤を描くように駆け抜ける。


 立ち止まることは許されない。


 屍骨龍はゆらゆらと靡く闇の炎を目に灯し、レクスをじっと見つめているようであった。


 駆ける間に、銃口を向ける。


 発砲。


 トリガーを引き絞れば、三発の光弾が飛び出す。


 屍骨龍は、避ける様子すらない。


 ドドドン、と音が響く。胴体に直撃した。


 龍の顔を、爆煙が覆う。


 だが、レクスの表情は晴れない。


 爆煙をかき分け、白き骨の巨大な腕が飛び出した。


「ちっ……!」


 舌を打ち鳴らし、すぐさま跳んだ。


 僅かな隙間を隔てて、”ドゴン”と地面を叩き割るかのような衝撃が伝う。


 駆けながら、先程の着弾点に目を遣った。


(くっそ、やっぱりかよ!)


 レクスは忌々しく目元を引き攣らせた。


 着弾点には、ほぼほぼ傷など付いていない。


 僅かに欠けなどもあるかもしれないが、それは傷とは言えない程だろう。


 密集した白い骨が、黒嵐の光弾を弾いたのだ。


 まさに、堅固な鎧と化していた。


 それでも、レクスは走り回るしかない。


 幾ら巨大な空洞とはいえ、屍骨龍からすれば狭い舞台の上なのだ。


 屍骨龍の攻撃はその巨軀によって一撃一撃が死に直結するのに対し、レクスの攻撃は豆鉄砲程の掠り傷程度といえるだろう。


 あまりにも不利な状況だった。


 ドゴン、ドゴンと地面に響く殴打の雨を必死に掻い潜りながら、それでもとトリガーをレクスは引き絞っていく。


 三発、六発、九発、十二発。


 隙を見定めて当てていく。


 しかし、屍骨龍の身体を揺らすことすらままならない。


 その一方で、屍骨龍は嘲笑うかのように剛腕を叩きつける。


 レクスは駆け回り、時には跳躍を挟む。


 全てを紙一重で躱していった。


 分の悪い綱渡り。


 そんな印象さえ覚える程に、レクスは防戦一方だった。


 はっ、はっと息が荒くなった。


 余すところなく全身を稼働させ、空気を取り込む。


 息が切れ、脚が止まってしまえば全てが終わりなのだ。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアウウウ!』


 大気を引き裂き、腕が伸びる。


 鋭く研がれた白骨は、寸分違わずレクスを狙う。


「……ちっ、この野郎!」


 レクスは目元を吊り上げながら、脚を蹴り出す。


 後ろへ跳んだ。


 衝撃。


 瞬間に、トリガーを引き絞る。


 発砲。三発の光弾。


 目の前に伸びる腕に炸裂した。


 抉りとられた大地の破片が、散弾のようにレクスを襲う。


 頬に、痛みが走った。


 おそらく血が滲んでいるだろう。


 喚く余裕も、拭う余裕もない。


 屍骨龍の腕の先を見て、顔を顰めた。


(……効いてねぇ、か……!)


 至近距離からの発砲だが、爪先が僅かに毀れた程度だ。


 ほぼ無傷、と言っていい。


 このまま射撃を続けていても、千日手なのは明らかだった。


 ちら、と。


 脚を動かしながら、黒嵐を見やった。


(……使うか? おやっさんのとっておきを……。)


 ダンジョンに入ってから二度も使用した、グラッパ謹製のとっておき。


 それを使うかと、レクスの脳裏に過る。


 グラッパのとっておきである、レクスの魔力を収束させて放つ砲撃。


 それを使えば、有効な打撃を与えられる可能性はあった。


(……いや、駄目だ。)


 レクスは否定するように、小さく首を振った。


 リスクが大き過ぎたのだ。


 装填に十秒の時間がかかるそれは、十秒間の動きが制限されることを意味する。


 だが今は攻撃すら効いていないので、それほど問題ではない。


 問題は、撃ったあとだ。


 砲撃を撃ち込んで、あの堅牢な骨の鎧を突き崩せるのかは甚だ疑問に思えてしまうのだ。


 緻密なアーチ状に固められた肋骨は、どうも衝撃を吸収しているようにも見えていた。


 当ててもダメージが小さかったり、無傷に近ければ目も当てられない。


 加えて砲撃をした後は十秒の放熱を要する。


 さらにレクスの魔力もごっそりと持っていかれるのだ。


 幾らレクスの魔力量が秀でていようと、二発の射撃だけで怠さを感じてしまう程なのだ。


 連射など、できようもない。


 身体の怠さが強くなってしまおうものなら、次の攻撃で死に直結することは目に見えている。


 故に、使えない。


 あまりにも、分の悪い賭けなのだ。


 レクスは視線を屍骨龍に移す。


 屍骨龍は再び剛腕を振り下ろす……かに思えた。


 だが、違った。


 身体を屈め、脚を折った。


(……何だ!?)


 今までと異なる仕草に、レクスは目を凝らした。

 すぐさま銃口を向ける。


 屍骨龍は大木の如き脚を蹴り出し、後ろへ跳んだ。


 強大な脚力故か、地面が揺れる。


 刃が並ぶような顎を大きく開いた。


 その口元。


 骨の間から散らばる光が、瞬時に丸く収束していく。


 魔力の奔流が、一箇所に集まっているのだ。


 レクスの背筋が、ぞわりと逆立った。


 危険だ、と。


 トリガーを引き絞ろうとした、瞬間。


『グルゥ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 頭を思いきり振りおろし、レクスに光球が吐き出された。


「……しまっ……!?」


 レクスの眼が、大きく見開かれた。


 その速度は、速かった。


 赫く巨大な光球が、レクスに迫る。


 黒嵐の銃撃では、どうしようもない。


 せめてもの抵抗で、身構えた。


 炸裂。


 空洞を大きく揺らす衝撃波と共に、嵐のような爆風が洞穴内部に吹き荒ぶ。


龍の咆哮波(ドラゴンブレス)】。


 龍を広く表す代名詞にもなっているその攻撃が、大空洞を包み込んだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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