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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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安堵の理由

「クオン!」


「クオンちゃん!?」


 レクスとキューが、驚きを顕にして叫びを上げた。


 ふらりと倒れ込むクオンの身体を、レクスは急いで抱え込む。


 クオンの頭が、レクスの肩にこつんと当たった。


 ふわりと、花のような香りがレクスの鼻腔を満たした。


 柔らかなクオンの身体は、レクスと変わらない熱を保っていた。


 背中に手を回し、白い肌の見える首筋に手を触れる。


 どくん、どくんと。


 命を刻むリズムが、規則正しく呼応していた。


 よくよく耳を澄ますと、すぅすぅと深い呼吸の音がレクスの耳に届いていた。


「……寝ちゃったみたいだね。」


 ほっとしたのか、キューが胸を撫で下ろしながら頬を緩めた。


 レクスもつられて、微かに口元をほころばせた。


「無理もねぇか。……寂しかったろうな。」


 レクスはクオンの背中をぽんぽんと優しくはたきながら呟いた。


 レクス自身、ダンジョンに閉じ込められて大変な思いをしていた身なのだ。


 腕の中で安心しきったかのように眠るクオンは、全力で抱き締めると折れてしまう工芸品のようでもあった。


 精一杯頑張って歩き詰めただろう脚は、紅潮してぱんぱんに腫れきっている。


 小柄な体躯は、その身を全てレクスに任せていた。


「……よく頑張ったな、クオン。」


 レクスは朗らかに笑いを浮かべながら、クオンの髪に指先を通して撫でた。


 何の抵抗もなく、濡羽色のツーサイドアップはレクスの指を受け入れた。


 そんなクオンの周りを、キューがくるくると飛び回る。


 クオンの姿格好を興味深いように見つめているようにも思えた。


「キュー、なんかあったか?」


「……うん。やっぱり、ぼくが惹かれてた魔力の波動はこの子から出てる。」


 レクスの声に、キューは肯いた。


 キューの発言に、レクスは首を捻る。


「どっかで会ったことあんのか? クオンと。」


「うーん? ぼく自身、レッくんと会うまでの記憶がないんだよね。なんか思い出せるような気もするけど……ふぅ。だめ。なーんもわかんないや。」


 クオンの顔の前で静止したキューが、溜息を溢しながら肩を竦めた。


 そんなキューはクオンの顔を間近でまじまじと見つめていた。


 キューの正体は、レクスには何ら見当すらつかない。


 強いて言うならば、ダンジョンの法則に則り、ダンジョンで死んだ誰かの魂ではないかというのが、レクスの推論だった。


 だがその中でクオンに直接関係のある人物などいる訳もない。


 かと言って、「あなたはダンジョンでどうやって死んだのか」なぞ聞けるわけもないのだ。


 聞いたところで、キューは自身の名前すら思い出せていない様子だ。


 梨の礫だろう、と思いながらレクスは息を吐いた。


 ちら、とレクスは横目でクオンをじろじろと見続けるキューに目をやった。


「まあどのみち、だ。キュー、あんたのお陰で助かった。ありがとな。」


 レクスは感謝の意を込めて頭を下げる。


 事実としてレクスがクオンの命を救えたのは、キューのお陰なのだ。


 キューの案内が無ければ、レクスもクオンの元へと辿り着くことどころか、見当違いの方向に行っていた可能性すらあったのだから。


 しかしレクスの声に キューは力なく首を横に振った。


「レッくんにそう言われてもさ。ぼくが躊躇わなければ、クオンちゃんの怪我は無かったかもしれない。……だから、ぼくは……。」


「いいや、何度でも言ってやるよ。キューのお陰で、クオンを助けることが出来た。それは間違いねぇんだ。さっき、俺もクオンも言ってたじゃねぇか。クオンの怪我は、キューのせいじゃねぇよ。」


「でも……。」


「たらればは言いっこ無しだ。そんなもん言い出しゃきりがねぇ。なんて言われようと、キューが教えてくれたんじゃねぇか。クオンの居場所をよ。それに、キューも怖かったんだろ? アイツが。仕方ねぇよ、そりゃ。」


「……レッくん。……そうなの、かな。」


「誰だって、怖ぇもんがあるだろ。無理に当たってく必要はねぇよ。それこそ、やらなきゃ死ぬくらいのときとかな。無理しても、仕方がねぇ。……それよりも、俺はキューに感謝がしてぇんだ。キューがいなけりゃクオンは死んでたかもしれねぇ。それは事実だろ。……だから、キューのお陰だ。俺は何度でも言うぞ。「ありがとう、キュー」、ってよ。」


 不安を表に出すキューを落ち着かせるように、レクスはにこやかに頬を緩めた。


 そんなレクスに、キューはきょとんとしながらもみるみるうちに頬を染めていく。


 ぷるぷると身体を震わせながら、キューは自らの頬に両手を当てた。


「や、やばいよぉ……。レッくん、すっごい女誑しだよぉ……。どうしてそんなにきゅんきゅんさせてくる言葉が出て来るのかな? ぼ、ぼくをからかって楽しいのかな?」


「い、いや誂ってるつもりは全くねぇけどよ……。」


 あたふたとするキューの仕草に戸惑い、レクスはきょとんとしながら彼女を見た。


 すると、はっと何かに気がついたのか。


 キューがじとりとレクスを睨むように目を細めた。


 その頬は未だに赤く染まっていた。


「……レッくん、まさかクオンちゃんから嫌われてるって、そういうこと? いろんな女の子をとっかえひっかえ……。」


「……否定は出来ねぇな。まあ、そういうことじゃねぇとは思うんだけどよ。」


 レクスは苦笑しつつも、口に含むように言い淀む。


 顔を俯かせ、少し口元を下げた。


 婚約者が四人おり、事実としてクオンには嫌われているのだが、その理由は女癖などではないことはレクスも察している。


 理由をキューに話してもいいものか一瞬躊躇したが、レクスはキューの高さに視線を合わせた。


 含みのある表情に、キューもまずいことを言ってしまったと思ったのか、その眉を落とした。


「……どうしたの、レッくん? ……ぼく、変なこと言っちゃった?」


 悪びれた顔をするキューに対し、レクスは首を振る。


「別に、そんなわけじゃねぇんだ。……ちょっと聞いてくれねぇか? 俺の話をよ。」


「え? いいけど……。」


 レクスは座り込むと、自身の膝にクオンの頭を乗せた。


 ゴロンと寝転がしたクオンの表情は穏やかだ。


 安心しきっているようにも見えた。


 右眼の傷が痛ましいが、それでも可愛い寝顔をする義妹の姿に微笑みながら、クオンの頭を撫でた。


 そして、ふわふわと飛ぶキューにレクスは向き直る。


 レクスは、キューに今までの顛末を話した。


 村で過ごした幼馴染たちとの思い出や、その関係が壊れた日のこと。


 その原因と思われるものを王都で知ったこと。


 そして、現状。


 始めは訝しむ様子のキューだったが、話を進めるうちにその顔はむすっとした堪えるような表情に変わっていく。


 最後には、いかにも不機嫌を隠さないとばかりに目元と口元を吊り上げていた。


 ぎりぎりと唇を噛み締めるキューに、レクスは淡々と事実だけを話していく。


 話し終えると、ふぅと一息吐いてキューに目をやった。


「……どうだ? そんな面白い話でも……。」


「何それ!? レッくん全ッ然悪くないじゃん!」


「お、おう!?」


 目を向けた瞬間、空洞内に響き渡る金切り声でキューは怒鳴りつけた。


 あまりの勢いに、レクスもたじろいで身を逸らす。


 キューはぐいっと上半身を乗り出し、レクスの目を見据えた。


 腰に手を当て、如何にも頬を膨らませていた。


「さっきから聞いてるけどさ、レッくんは全く悪くないじゃん。悪いのは全部「リュウジ」って奴の仕業? その「リュウジ」って奴、最っ低だよ。女の子に洗脳した挙句、全部レッくんが後始末してるだけじゃん!」


「そりゃ……そうだとは思うけどよ。まだ何とも言えねぇしな。まあ、十中八九そうだとは思けど……。」


「レッくん!そーゆーのは「じょーきょーしょーこ」って言うの! 他人にめーわく掛けといてさ! それに「ノア」ってやつ? 絶対悪い奴だよ! レッくんもそうだけど、クオンちゃんも何も悪くないしさ。リュウジとかいうやつも、ノアとかいう奴も、ぼくが思いっきりぶん殴ってやりたい。」


 ぷんぷんと息を巻いて拳を振るいながら、キューはちらりと眠っているクオンへと目を移す。


 穏やかな表情で、すうすうと規則正しく胸が上下しているようだった。


 クオンを見ていたキューの視線は、先の無い右肩で止まる。


 綺麗な程にすっぱりとなくなっている右腕と抉られた傷の残る右目の惨状とは裏腹に、とても安心したような寝顔だ。


「……クオンちゃんも、災難だよね。リュウジって奴からは良いように使われて、ノアって奴に要らないって捨てられるなんてさ。それでもクオンちゃんはあいつらのとこに帰ろうとしてるなんて……クオンちゃんをなんだと思ってるのかな。そいつら。」


 眠っているクオンを見つめるキューの表情は、何処か憂いを持ちながらも、クオンを傷つけた元凶に怒りの感情を燃やしているようでもあった。


 そんなキューの問いに対し、レクスは。


「……わかんねぇよ。あいつらの考えてる事なんてな。……考えてわかるなら、苦労はしねぇだろうけどよ。」


 溜息混じりに、レクスは首を横に振るだけだった。


 レクスには、カルティアのようにリュウジの考えている事なぞわからない。


 より深淵を覗き込むようなノアの考えなぞ、以ての外だ。


 だが、レクスにとってそんなことはノアやリュウジだけではない。


 カルティアやアオイ、マリエナにレイン、加えて幼馴染の三人。


 レッドやマオ、シルフィにアランやカリーナ、エミリーやグラッパ、果てはキューの考えていることも、レクスは推測はできるが考えていることを言い当てることは容易ではないのだ。


 だからこそ、レクスには「信じる」ことしか出来ない。


 幾ら愚直と言われようと、それを捨ててはいけないという思いはレクスの魂の根底に据えられたものだからだ。


 そんなことを思いながら、レクスは息をつきながらクオンの頭に優しく触れる。


 義妹に膝枕をするレクスの表情は、目元が落ち切り、とても優しげな微笑みが自然と浮かんでいた。


 幾ら嫌われていても、今この瞬間だけは。


 家族であり、兄妹に戻れた。


 その時間を噛み締めたかった。


「……それにしても、本当にぐっすり寝てるね。クオンちゃん。凄く気持ち良さそう。」


 キューの声にふとクオンの顔を覗き込むと、とても幸せそうに唇をもぞもぞと動かしていた。


「う……ぅん……。」


 悩ましいような、艶めいた声。


 姿勢を変えたいのかレクスの膝にクオンは自身の頭を擦りつけた。


「どんな夢、見てるのかな? クオンちゃん。」


「……さあな。でも、心地よさそうじゃねぇか。夢くらい幸せであって欲しいもんだ。」


「そだね。レッくん。」


 レクスとキューは、揃ってクオンの寝顔を微笑ましく見つめる。


 その夢が、幸せなものであると信じて。



お読みいただき、ありがとうございます。

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