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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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痛恨の疼痛

 後ろに振り返ったレクスは、黒嵐とデイブレイクをしまい込みながら、急いでクオンとキューの元に駆け寄る。


 クオンとキューは、目を丸くしてレクスをその透きとおるような瞳に映していた。


 ふよふよと浮かぶキューの手元には、空になった薬品の瓶が抱えられている。


 秘薬を一本、まるまる使ったようだ。


 そのためか皮膚は再生し、クオンの出血はぴたりと止まっていた。


 だが痛々しい傷跡はそのままで、右眼には抉られたような傷跡が残り、右腕も再生していない。


 クオンの右眼に、光が宿ることはもう無いと、抉ったような傷跡が証明していた。


 綺麗な程に切り取られたクオンの右肩は、皮膚は再生されている。


 だが右肩の先は、すっぱりと消えてなくなっていた。


 痛ましい義妹の姿を目に映し、レクスは眉を下げて、口元を歪めた。


(……もっと早く辿り着けりゃよかった。……畜生。)


 間に合わなかった自責の念に苛まれ、レクスは唇を噛み締める。


 だが、起きてしまった事は取り返しがつかないのだ。


 クオンの手前で立ち止まると、レクスはゆっくり腰を落とした。


 ぱちりと開いた、クオンの透きとおるような翡翠のような左目に、レクスは視線を合わせた。


「クオン……ごめん。」


 頭を、下げた。


 レクスの行動に、クオンは顔を俯かせた。


 クオンの肩は、わなわなと震えていた。


 残った左手を、ぎゅっと握り締めていた。


「……なんで、なのですか。」


「……ごめん。」


「なんで、もっと早く来てくれないのですか……!そのせいで、わたしは……!」


「……ごめん。」


「なんでわたしが、こんな目にあわなくちゃいけないのです!? もう、嫌なのです! どうしてわたしだけなのです!! なんで……、わたしだけ……!!」


「……ごめん。」


「ごめん、ごめんって……それで謝ったつもりなのですか!? ……少しくらい、言い訳をして欲しいのです……。」


「……ごめん。俺のせいだ。」


 ぽたり、ぽたりと地面の上に水滴が落ちていく。


 クオンの膝と大地を濡らすその雫を見て、レクスも拳を握り込んだ。


 震わせた声を荒げるクオンに、レクスはただただ謝ることしか出来なかった。


 クオンを守りきれなかった言い訳など、立てることも烏滸がましいと思ったからだ。


 視線の先には、涙で濡れながらも複雑な表情をして、レクスを見つめるクオンの歪んだ顔があった。


 ぱしん、とクオンの拳がレクスの胸に当たる。


 弱々しい、力のこもっていない拳。


 レクスはそれを、甘んじて受け止めた。


 クオンの気がそれで紛れてくれるのなら、幾らでも受け止めるつもりだった。


 しかし、クオンは未だに顔を伏せながら、小さく肩を震わせるだけだった。


「……ごめんね。ぼくのせいだと思う。」


 不意に、声が響いた。


 レクスが顔を上げて声の主を見やる。


 レクスと同じく、クオンも顔を上げた。


 宙に浮くキューが、しょんぼりとした様子で口元を下げていた。


「ぼくが、行くのが怖くて脚を止めちゃったから……。」


 落ち込んだ声で理由付けしようとしているキューに、レクスは「いいや」と首を振った。


「キューのせいじゃねぇよ。むしろキューがいなけりゃもっと遅れてたかもしれねぇ。……感謝はあれど、責め立てる理由はねぇよ。」


「でも、そのせいでクオンちゃんは……。」


「……本当は、わかっているのです。兄さんも、キューさんも悪くないのです。」


 キューの言葉を遮り、クオンが首を横に振るった。


「クオン?」


 レクスは首を回し、クオンの方に顔を向けながら、目を丸くした。


 それは、意外だった。


 レクス自身、クオンに嫌われていることは知っていた。


 だからこそ、ここでクオンに「悪くない」と言われるのは予想外であったからだ。


 クオンは先程よりも落ち着いた様子で、ぽつりぽつりと話し始めた。


「……兄さんも、キューさんも。良いのです。……これは、わたしのせい、なのです。リュウジ様から逸れてしまった、わたしの落ち度なのです。」


「クオン……。俺のせいだとは、思わねぇのか?」


 レクスは意外だと言わんばかりの表情で、クオンに尋ねた。


 クオンの怒りや遣る瀬無さの向かう矛先は、嫌われている自分自身に向くものだと、レクスは本気で思っていたのだから。


「兄さんのことは、大嫌いです。……今だって、目障りで、顔も見たくないのです。」


「そう、かよ。」


 レクスは、哀しみを携えたかのように、目を伏せた。


 どうやらアキナたちのように、洗脳が解けたということはないらしい。


 だがクオンの口元は、気まずいように下がったままだった。


「でも、兄さんのせいだとは思わないのです。」


「そう……なのか?」


「わたしを助けてくれたのは、兄さんです。……助けてくれた人を、悪く言う事は出来ないのです。……さっきは、つい苛々して怒鳴ってしまったのです。ごめんなさい、なのです。」


 クオンは、ぺこりとレクスに頭を下げた。


 そんなクオンを、レクスは目を丸くして見つめるのみだった。


 クオンから謝罪を受ける事など、レクスにはあり得ない、と。


 そう思っていたのだから。


 そんなレクスの表情に気がついたのか、クオンはきょとん、と首を傾げた。


「兄さん? どうしたのですか?」


「……いや、何でもねぇ。それにしても、クオンはこれからどうするつもりなんだ?」


 気を逸らすように口から出たレクスの質問に、クオンは悔しいように口元を歪めた。


 光を喪った右眼には、抉られたような痛々しい傷跡。


 元から無かったかのように、右腕は綺麗に切り取られていた。


 使っていた弓も真っ二つに切り取られ、無惨に転がっている。


 明らかに、ダンジョンの探索続行は不可能と言えた。


 クオンもそれをわかっているようで、力なく肩を落としていた。


「わたしは……みんなのところに帰りたい、のです。リナおねえちゃんやカレンおねえちゃん、リュウジ様のところへ。……ひとりぼっちはもう、嫌なのです。」


「……そっか。」


 レクスは苦笑しながら、おもむろに手を差し出した。


 戸惑ったように、クオンは顔を上げる。


「……じゃあ、帰っか。……顔も見たくない奴とじゃ、嫌かもしんねぇけどよ。……絶対、みんなのところへ帰す。約束だ。」


「本当、なのです……?」


「ああ。クオンがそうしたいって言うなら、俺はそれを叶えるだけだ。」


 にぃと、レクスは口元を上げて目元を下げた。


 レクスにとって、今一番叶えるべきなのは、クオンの想いなのだから。


 クオンはおそるおそる左手を伸ばし、レクスの手に触れようとしていた。


 とん、とレクスの指先に触れたその瞬間。


 クオンの身体が、かくんと前のめりに倒れ込んだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

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