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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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死者の断罪

 死者の魂。


 正確にいえば「ダンジョン内部で死んだ人間の魂」。


 それがダンジョン内部で魔獣になっているとするならば、魔獣がスキルを使うというという辻褄も合ってくる。


 ダンジョンに入る前、ヴィオナからぼそりと告げられた言葉は真実であったのだ、と。


 レクスはその事実に気がついていた。


(……なおさら、死ぬことも出来ねぇし誰も死なすことも出来ねぇじゃねぇか。……いかれてやがる。)


 ダンジョンの仕組みを察し、レクスは心中で悪態をつく。


 ダンジョンの中に、永遠に閉じ込められるなどたまったものではない。


 されどもレクスは忙しなく目を動かし、異形が仕掛ける次の攻撃を探っていた。


 ひゅん、と。


 風を裂く音が、レクスの耳に入ってくる。


 向かう先は、飛びっぱなしのキューの方向だった。


「キュー! 危ねぇ!」


「え? ぼく?」


 キューがレクスの言葉に反応し、ふわりと高度を上げた瞬間。


 キューの服と髪をふわりと持ち上げる風が起こった。


 間違いなく、異形の攻撃がキューの真下を通ったのだ。


「ええっ…!? な、なになにっ……!?」


 キューはぶわりと吹き上げた急な風圧に、スカートを押さえて目を見開いていた。


 そんなキューの様子に、レクスはふぅと一瞬安堵の息を吐くが、その口元はすぐに下がった。


 再び”ひゅん”と風を切る音をレクスは捉える。


 手首を返しながらデイブレイクを振り抜いた。


 きん、という高い音と共に、何かを弾いた感覚が衝撃として、剣を通しレクスに伝わった。


 ほぼ無意識に返したのだが、その攻撃の先にはクオンがいた。


(……あの野郎!)


 レクスの眦が怒りでひくついた。


 異形の攻撃は、明らかにレクスではなく戦えないクオンやキューを狙っている。


 卑劣な相手だ、と。


 レクスの疑念は確信に変わっていた。


 しかし、異形の蛇腹鎌の攻撃はレクスの目に映らない。


 不可視の斬撃は、防ぐことすら困難を極めるのだ。


 レクスは風の音を聞いてどうにか防いでいるが、タイミングを間違えばその斬撃はクオンやキューを切り裂いてしまうだろう。


 だからこそ、レクスは。


 目を、閉じた。


 静寂な暗闇の中に響き渡る、溶岩から出る気泡の音や咆哮のような空洞音。


 クオンや自分の呼吸の残響すら響く中で、レクスは耳に神経を研ぎ澄ます。


 一見自棄(ヤケ)になったような仕草だが、レクスはその機を待っていた。


 然して、その瞬間は訪れた。


 ”ひゅんひゅん”と、極小さな風を切り裂く音。


 双方向からクオンとキューに向かっていた。


 すぐさま手首を返し、黒嵐からデイブレイクを分離させる。


 発砲。


 風を切る音に向けて、右手の引き金を絞った。


 それと同時に、左手のデイブレイクでもう一方の風切音に剣先を差し出す。


 きん、と。


 弾いた。手応えがあった。


 目を開く。


 ちらと一瞬、視線だけで後ろを確認した。


 唖然と目を見開いていた。二人は無事だ。


 視線を戻し、銃口を真正面に向けた。


 親指でダイヤルを撫でる。


 トリガーを引き絞る。


 ”ドンドンドン”と、銃声が響いた。


 炸裂。


「ガアアアアッッッ!?」


 光弾によって吹き飛ばされた、黒く染まった醜悪な肉体が、突如虚空から現れる。


 胸元からしゅうしゅうと煙が立ち昇っていた。


 三発の光弾が、異形の胸へと撃ち込まれていた。


 苦しみ藻掻く異形の目に灯る焔が、激しく明滅する。


 レクスは最初から見えていないのであればと、目を閉じて音に集中したのだ。


 姿が見えていないのであれば、目を開ける必要はないに等しい。


 音に集中するためには、視覚に頼らないように目を閉じる必要があった。


 むしろ異形に視線を追われる可能性すらレクスは考慮していた程だ。


 そして音が聞こえた位置を逆算すれば、自ずとそこに身体があると推測していた。


 故に、異形は完全にレクスの術中に嵌まり込んでいた。


 異形の顔面が、忌々しいと言わんばかりに大きく歪む。


 眼窩の蒼炎は高い頻度で明滅していた。


「オ……マエ……! ヨクモ……!」


「……その台詞は俺のほうだ。二人を狙ってんじゃねぇよ。てめぇの相手は俺だろうが。……小心者がよ。」


「ショウシンモノ……ダトォ……!!!? フザケルナ! クソガキ!」


 安い挑発。


 頭に血が上ったのか、異形は釣られて喚いた。


 銃口を向けながら、レクスは異形を睨みつける。


 その声は肌を撫でる溶岩の熱気を冷ます程に、極寒の様相を呈していた。


 ぶるり、と。


 異形はもちろん、レクスの後ろに座り込むクオンとキューすらもその声に震え上がっていた。


 そのままレクスは、かちりと黒嵐の後端を引き絞る。


 ”ピッ”と無機質な機械音が鳴った。


(十、九……)


 早まる心臓の鼓動を秒数にすり合わせ、頭に浮かぶ数字を下げていく。


 これ以上、長引かせる訳にはいかない。


 クオンとキューを故意に危険に落とし込もうとする輩に、レクスは加減などできようもない。


 異形をのさばらせておくのも、レクスは我慢の限界に達していた。


 軽い挑発をかけたのも、自身への攻撃に限定させる為。


 冷静さを欠かせた状態を、作り出していた。


 デイブレイクを左手に構え、レクスは異形へと突貫していく。


 溶岩が冷え固まった大地を踏み抜き、異形との距離を詰めた。


「バカガヨォ!ムカッテキヤガッテェ!」


 舐め腐ったような声。


 両腕を振り上げる。鎌が振り抜かれた。


 跳躍。


 僅かな隙間を、刃が通り抜ける。


 伸長した鎌を、デイブレイクで打ち据えた。


 もう一方の鎌は、黒嵐の銃身で打ち払う。


 レクスは前へ踏み込み、さらに異形へと肉薄していく。


 異形がぐっと腰を落とした。


 飛びかかるような姿勢。


 レクスは脚を止めない。


 それどころかレクスも僅かに腰を下げた。


 どん、と異形が大地を蹴り上げた。


 重心を後ろに傾け、異形は嘲笑う


 後方に跳んだ。


 距離を取るつもりだろうかとも思われたが、違った。


 その眼は、レクスを見ていない。


 手を大きく振り上げた。


 狙いは明らかに、後ろの二人だ。


「バカガァ……!モラッ……!?」


「……五月蝿ぇ。……あいつらは、やらせねぇよ。」


 レクスからも、異形の狙いは見え透いていたのだ。


 レクスも、前に向けて跳び上がっていた。


 身体をひねり上げ、脚を振り上げて。


 異形の胴体を、レクスの脚が蹴り抜いていた。


「ガハァッ……!?」


 ドン、と。


 そのまま異形を蹴り飛ばす。


 打ち出された脚の衝撃に負け、異形は身体を地面に引き倒される。


 同時にレクスも地面に降り立ち、異形へと駆け向かう。


「コノ……クソガ……!」


 じゃきり、と。


 異形の眼前に、漆黒に艶めく銃口が向けられた。


「……(ゼロ)。」


 既に銃口の先には、バチバチと魔力弾が形作られている。


 レクスの魔力を十秒間喰い取った魔力の塊だ。


 銃を握るレクスの瞳は、極寒の冷気を纏って異形を見下ろしていた。


 無表情なように見えるが、その威圧感は相当なもの。


 怖気を感じ取ったのか、鎌の先が震え上がっている。


 異形の口元が引き攣っていた。


「ヤ……ヤメ……。」


「……止めるかよ。外道が。」


 引き金を絞る。


 瞬間。


「ア…………。」


 ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォン、と。


 轟音とともに、光が爆ぜた。


 断末魔すら赦さないグラッパの「とっておき」が、異形を包み込んだのだ。


 ぷしゅう、と黒嵐が排熱を行う中、爆煙が晴れる。


 放熱中の黒嵐を下げたレクスはくるりと踵を返した。


 ちら、と視線を後ろに移す。


「……本当、最悪な気分だ。」


 哀しげに眦を下げ、レクスはぽつりと呟いた。


 そこには、溶岩溜まりが出来ていた。


 既に、異形の気配は微塵もない。


 グラッパの「とっておき」は、異形の身体を魔核ごと、それも舞台の四分の一を巻き添えにして。


 跡形もなく、消滅させていた。


お読みいただき、ありがとうございます

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