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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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瞬間の武闘

 異形の眼窩に灯る蒼炎が、めらめらと燃えていた。


 レクスは異形に黒嵐を向け、撃ち込むタイミングを図っていた。


 向かい合う一体と一人の間に、静寂が満ちる。


 正確に言い表すなら、ぽこぽこと溶岩から湧き出す気泡が弾ける音が聞こえる程だ。


 じゃり、と。


 地面とレクスの靴が擦れ合う。


 滴る水の音すら響きそうな空間の静寂が割れたのは、次の瞬間だった。


「オマエハ……シネエエエエエエエエエエエエエエ!」


 逆関節の後肢をバネのように解放した、異形の魔獣。


 猛烈な加速で、レクスに飛びかかった。


 レクスの視線は、冷ややかなまま。


 極限の緊張の中、レクスの心中は穏やかに静まり返っていた。


 異形が鎌を振り上げると同時。


 レクスは親指でダイヤルをひねり上げる。


 鎌の先が動いた瞬間、引き金を引き絞った。


 発砲。


 ”バババッ”と、瞬くように三十もの微小の光弾が放たれる。


 異形は弾幕の中へ突きこむ形になった。


 しかし、魔獣もにぃと口元を吊りあげる。


 後肢を思いきり突き出したかと思えば、大地を踏み込み減速をかけて、身体を逸らした。


 異形の表面を擦れるように、光弾が通り過ぎる。


「ハハハハハハァ! ムダァ……!?」


 光弾が通り抜けた直後。


 異形は身体を起こすと同時に、目を見開いた。


 レクスが、眼前に迫っていた。


 魔導拳銃を持った腕を振り上げている。


 右手の黒嵐に繋がれたデイブレイクの刃がきらめく。


 その瞳は、灼熱の赤とは裏腹に何処までも冷酷だった。


「チィ……!?」


 慌てたように、異形は鎌を下げた。


 だが、その口元は嗤ったままだ。


 掬い上げるように、鎌を振り上げる。


 カウンター。


 異形は鋭利に研がれた鎌でレクスの右腕を狙っていた。


 それは異形の魔獣にとっては、手馴れたもの。


 向かって来た者の腕を切り取るなど、異形の魔獣の身体にその癖が染み付いていた。


 だが次の瞬間。


 衝撃を受けたのは異形の魔獣だった。


「ガァッ……!?」


 レクスの右腕は、振り上げられたまま。


 レクスは身体をひねり上げ、魔獣の胴に蹴りを打ち込んでいた。


 予想外の衝撃に、異形の身体は僅かに蹌踉めいた。


 そのままレクスは脚を踏み換えた。


 蹴りを放った勢いをそのままに、逆の脚で再び蹴り抜く。


 連続で蹴りを叩き込み、異形を蹴り飛ばした。


(……見えてんだよ。そんなもんは。)


 レクスには、魔獣が鎌を返した瞬間がばっちりと見えていたのだ。


 そもそも、振り上げたデイブレイクが目眩ましだ。


 魔獣の視線がレクスの右腕に流れた瞬間、レクスはカウンターを予期していた。


 わかり易いカウンターに、レクスは小さく溜息を溢した。


(……初歩中の初歩じゃねぇか。クロウ師匠なら欠伸混じりに返してくんぞ。)


 カウンターを見切ったカウンターは、レクスもクロウ相手にしこたまやられていたことであった。


 故に、見切る事などレクスには造作もなかった。


「クソガヨ!……イイキニナルナ!」


 ゆらりと。


 異形が眼窩の焔を明滅させて立ち上がった。


 苛立ちを隠せない様子の異形は、再び姿勢を低く下げた。


 ”ドン”と。


 クラウチングスタートのように脚を思いきり蹴り出した。


 先程よりも疾い加速で、矢のように魔獣は飛びかかる。


 既に両の鎌は振り上がっている。


 身を捩るように、異形は鎌を振り抜いた。


 渾身の力で振り抜いた鎌は、レクスに掠りでもすれば深く斬れる程だ。


 しかし、レクスは。


 ただ右腕に持った黒嵐を斜めに構えるだけ。


 だが、その瞳は異形から全く逸らされていなかった。


 振り抜かれた右手の鎌に、レクスは黒嵐を払うようにぶつけた。


 弾いた瞬間。


 返しのデイブレイクで左手の鎌を受け取った。


 きん、と鋭い金属音。


 その銃口は異形に真っ直ぐ向いている。


 ダイヤルをひねり上げ、発砲。


 ”ドドドン”と。


 三発の光弾が放たれる。


「ガギャッ!!?」


 至近距離にあった異形の顔面に直撃した。


 鎌に籠もった力が抜ける。


 瞬時に、レクスは刃に当たっていた鎌を跳ね除けた。


 一閃。


 デイブレイクを異形の魔獣の腹に乗せ、腰を捻りながらひとおもいに曳き切った。


「グアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」


 絶叫。緑の血が溢れる。


 降りかかる寸前。


 レクスは屈み込み脚を折る。


 異形が脚を下げた途端。


 脚を解放し、黒く染まった地面を踏み切った。


 ぐるりと、身体を回す。


 後方宙返りだ。


 クオンとキューが待つ前に跳び上がって着地し、異形を視界の中心に置く。


 ふらついた異形は鎌で傷跡を押さえ、忌々しいと言わんばかりに眼窩の焔を明滅させた。


 覚束ない足元には、ぽたぽたと緑の血が滴り落ちる。


 レクスの後ろには、守るべきものがいた。


 それを穢す相手は、レクスの逆鱗に触れる事に等しい。


 冷ややかに、だが確かに燃え盛る紅の瞳は、異形の魔獣を鋭い錐のように見据えていた。


 冷静に、ただ冷徹に。


『心は幾らでも熱くなっていい。だけど無闇に当たり散らしたり、無理に放出しようとするなよ、レクス。……想いは満遍なく、刃に乗せるんだ。』


 レクスの脳裏をクロウの言葉が駆けた。


(わかってるっての。クロウ師匠。)


 レクスは頭の中で、静かに頷く。


 今、目の前に立つ異形のように。


 想いを吐き出す先を間違えれば、その刃は隙となり相手に届く事はない、と。


 クロウたち傭兵に、レクスはそう教わっていた。


 熱波が皮膚を撫でさするような灼熱の洞穴の中であろうと、極寒の冷気が吹き荒れるように、レクスは異形へと闘気を発していた。


 再び銃口を異形に向ける。


 トリガーを引いた。


 ドドドン、と放たれた三発の光弾。


 異形は逆関節の脚を引き伸ばす。


 飛び退き、躱された。


 すたっと着地した異形の腹の傷は既に塞がっている。


 だがその跡は、レクスからも見える程に残っていた。


 異形が腹を据えかねたように喧しく吠えた。


「オマエ……オレニキズアトヲツケヤガッテ……コロス、コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスゥ!」


「……うるせぇよ。少し黙れ。……てめぇがクオンに付けた傷は、こんなもんじゃねぇだろ。」


 怒鳴り叫ぶ異形に、レクスは底冷えするようなドスの効いた声を返す。


 苛立ちを隠せない異形の顔面は、光弾で負傷したのか僅かながら歪んでいた。


 ふらりふらりと身体を揺らし、異形は両腕の鎌を拡げた。


 何かをする気なのだろうかと、レクスは銃口を合わせた。


 瞬間。


「ユルサネエ……シネヨォォォォォ!」


 ふっ、と。


 一瞬で、異形の姿がレクスの目の前から掻き消えた。


「なっ……!?」


 瞬時の事に、レクスは大きく目を見開いた。


 姿を消し去る魔獣など、レクスは知らない。


 周囲のどこに視線を飛ばそうと、レクスの視界に異形の姿は一切映らなかった。


(……逃げた……? ……いや、違ぇ!)


 それは、レクスの傭兵としての勘。


 傭兵たちの総攻撃から耐えぬいた、レクスの防衛本能が囁きかけていた。


 蛇が這い寄るような空気の揺れを、レクスはじわりと肌の不快さで感じ取っていたのだ。


 その不快な蛇の頭は、蹲るクオンの方を向いていた。


 迷わずレクスは、デイブレイクの刃先をクオンを守るように差し向ける。


 急に振り向いたレクスに、クオンは呆気に取られたように顔を向けていた。


「え……?」


「……大丈夫だ。」


 きぃん、と。


 金属の触れ合う音と共に、痺れるような衝撃が刃先から伝わってきていた。


 明らかに、透明な何かが執拗にクオンを狙っていた事になる。


 その刃先を、今レクスは弾いたのだ。


 レクスは最初にここに脚を踏み入れた際の、異形の鎌の動きを思い出していた。


 思い出されるのは、くねりながら蛇のように振り下ろされていた蛇腹の鎌。


 異形の両腕に備わっていたそれは、鞭のように伸び撓っていたのではなかったか、と。


 それが今、クオンの元へ向かっていたことになる。


 さらにもう一つ、レクスは気がついたことがあった。


 今戦っている人の語を介する異形の魔獣や、キューの存在、魔術を使う魔獣、以前のダンジョンで戦った剣を使う魔獣に、ヴィオナからかけられた言葉。


 そして、今目の前の魔獣が使っているであろうもの。


 それらを並び立てると、レクスの中でもやもやしていたものが形となって現れた。


(……そういうこと、かよ。婆さんの言った通りじゃねぇか。)


 今、レクスが戦っている魔獣の正体もある程度輪郭が見えはじめていた。


 消える魔獣など、傭兵ギルドでは聞いた事もない。

 自ずと導き出される答えは二つ。


 新種か。


 しかし、その線よりももっと濃厚に浮かび上がる可能性に、レクスは確信を持っていた。


(……これは、「スキル」だ!)


 人間かハーフしか持たない、「スキル」。


 それを使える魔獣がいるということは、それが答えなのだ。


 ダンジョンの魔獣は、「死者の魂」なのだと。



お読みいただき、ありがとうございます。

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