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晴天のプレリュード〜幼馴染を勇者に奪われたので、追いかけて学園と傭兵ギルドに入ったら何故かハーレムを作ってしまいました〜   作者: 妖刃ー不知火
第伍章 迷宮の弓命・まもりぬくもの編

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光輝の球体

 それは、時間を少し遡る。


 隧道の中で、ドン、ドンという発砲音が響いていた。


 音と共に、洞穴内部が光で明滅する。


 ゆったりと流れゆく溶岩で紅く染まった洞穴に、緑色の液体がびしゃりと舞い散った。


 黒嵐の銃口を光らせ、一人の少年が薄暗い隧道を勢いよく駆け抜ける。


 レクスだ。


 ローブを揺らし、瞬きもなく隧道の先を見据え、走っていた。


 そんなレクスの前に、立ち塞がるようにわらわらと魔獣が湧き出す。


 小鬼や犬人、さらには変異種など選り取り見取りだ。


 レクスを狙い、食欲旺盛な魔獣たちは次から次に向かってきていた。


「……邪魔だ!」


 すぐさま照準を合わせ、発砲。


 走りながらも、レクスは次々に引き金を引いていった。


 放たれた光弾は立ち塞がる魔獣の頭部や胸部に次々と撃ち込まれていく。


 光弾が炸裂した魔獣はそのまま斃れ、一瞬でぼろぼろと灰になっていった。


 灰となった魔獣からはころころと紅い魔核が溢れ落ちるが、少年は魔核に一瞥すらしない。


 ただひたすらに脚を動かして、先へ先へと洞穴の奥へ脚を踏み入れていった。


 その顏は僅かに口元を引き攣らせ、額に汗を浮かべている。


 きょろきょろとつぶさに隧道内部を見渡しながら、脚を止めることなく動かし続けていた。


 相当の焦りが垣間見えるようだった。


(何処だ……何処に居る、クオン……! せめて俺が見つけるまで、無事で居てくれ……!)


 レクスは洞穴の中で、クオンの姿を探し回っていた。


 ノアの発言を鵜呑みにするなら、クオンはこのダンジョンの何処かに飛ばされてしまっているとの話だ。


 レクス自身、クオンが何処に居るのかなど皆目見当もつかなかった。


 だが、探し当てねばクオンの無事は保証出来ない。


 僅かな怪我で生存すら危ういことなど、ダンジョンの中では茶飯事だ。


 それはレクスが身をもって思い知っている。


 故に、レクスは赤と黒で染まり上がったダンジョンの中を、ひたすらに駆け回っていた。


 魔獣が行く手を阻もうものなら、即座に発砲するかデイブレイクで斬り払う。


 魔核を正確に撃ち抜く。


 続けざま。すれ違いながら刃を流しこむ。


 斃れゆく魔獣をそのままに、灼熱を纏った洞窟の中を、レクスは呼吸を忘れるほどに全力でひた走っていた。


 魔核や戦利品になど、今のレクスにとっては価値などないのだ。


 岩場を飛び越え、一心不乱に先を目指すその姿は吹き荒ぶ嵐が一過するかのようだ。


 しかし、レクスがどれだけ探そうとも。


 クオンの姿は何処にも見当たらない。


 ダンジョンの中は広大であり、ダンジョンそのものの形状もあってか入り組んだ構造になっている。


 レクスがクオンを探し当てることなど、容易な事ではない。


 広大な砂漠の中から、金の一粒を当て所なく探し当てるようなものだからだ。


 それでも、レクスはクオンを探し当てねばならない。


 当てがなくとも、レクスはその脚を動かし続けた。


『……クオンを、頼んだぞ。』


 シルフィの言葉が、頭を過る。


 クオンの命が潰えた時の義母の感情など、レクスには推し量れない。


 想像すら、頭が拒んでいた。


「……わかってるよ。シルフィ母さん。」


 レクスは噛み締めるように呟いた。


 レクスはクオンを、見捨てる訳にはいかない。


 例え幾ら嫌われていようと、幾ら罵詈雑言を浴びようと、幾ら冷たくあしらわれようと。


 レクスの中に、クオンを見捨てる選択肢はない。


 クオンは、レクスの義妹であり、家族の一人である事実に変わりはないのだ。


 いつも無邪気にあどけなく笑う、クオンの姿をレクスは忘れていない。


「……クオン。」


 含むように、レクスは呟く。


 いつも仕方なさそうに、それでも楽しそうに家事を手伝うクオンの姿を、レクスは忘れていない。


「……クオン。」


 再び、レクスは呟く。


 レクスの前で、さまざまに表情を変える彼女の姿を、レクスは忘れられない。


「……クオンッ!」


 三度、レクスは呟いた。


 不甲斐ない自身を「義兄にいさん」と呼び、何処へ行くにも着いて来るほどに慕ってくれる彼女への想いを、レクスは忘れられない。


 クオンが絶望に染まり、死んでいくことはレクスにとって真に許せないことであった。


 だからこそ、レクスはクオンの為だけに走っている。


 ダンジョンの宝や報酬、名声や金銭の為なのではない。


 ただ一人の女の子が不幸に曝されている現状を救いたいからこそ、命を賭して走っているのだ。


 ある意味、レクスもクオンに「惚れている」のは間違いない。


 リナやカレンでも、その想いに変わりはない。


 自身の惚れた少女だからこそ、幸せであってほしいと思うのは、レクスにとって当然のことであった。


 ただ前のみを見て、レクスは灼けるような熱気のなかを駆け抜ける。


 時折飛び出てくる魔獣がいれば、容赦せず切り込んだ。


 今のレクスにとっては、邪魔な障害物でしかないからだ。


 踵を跳ね上げ、腿で大地を蹴り込む。


 じんじんと伝わる衝撃すらも無視し、ただ駆けた。


 己が身を悲鳴が上がる限界まで駆動させ、地面を蹴り抜き、纏わりつく熱気を置き去りにしていく。


 肌に浮かぶ汗が飛び、溶岩に落ちてじゅわりと音を放った。


 疾く、疾く。


 前へ、前へ。


 脚を止めず、クオンの痕跡を追うように周囲を気に留めんと周りを見回しながら、その影を追っていた。


 だからだろうか。


 ダンジョンの道は曲がりくねり、時には直角にすら近い曲がり角もある。


 クオンのことだけを考え、注意散漫であったことは間違いがない。


 レクスは目先の直角に近い道を、脚で地面を掴みながら曲がろうとしていた。


 その時だった。


 曲がった先のレクスの眼前。


 煌々と光る球体がふよふよと浮かんでいた。


 気がついたのは、顔面に当たる直前だった。


(……やっべ! 前……!)


 気付いたが、遅すぎた。


 既に当たる寸前。


 避けられる訳もない距離だった。


「へぶっ……!?」


 それは、もろにレクスの顔面と衝突した。


 そこまで痛くもなかったが、勢い余ったレクスは衝撃で仰け反る。


 倒れそうになるものの、倒れてしまえば頭をぶつけてしまうかもしれなかった。


 下手をうてば溶岩に触れてしまうような隧道なのだ。


 故に、レクスの判断は早かった。


 仰け反った拍子に、わざと踏み込んで地面から脚を離す。


 くるり、と。


 レクスの十八番、後方宙返りだ。


 身体を回し、着地。


 衝撃を殺すように、身体を沈み込ませた。


 ふぅ、と安堵するように息を吐いた。


 こんな所で大怪我などしていては、ダンジョンを脱出出来るかどころの話ではないからだ。


(……くっそ、前見てなかった。……クロウ師匠に叱られんぞこりゃ……。)


 当たった箇所を確認するように、レクスは顏を撫でさする。


 クロウの地獄の修練を潜り抜けたレクスが、置かれたものに気が付かなかったなど、笑い話もいいところだ。


 最悪死に直結するので、知られようものならクロウの大目玉確定だろう。


 レクスはひとしきり顏に触れたが、手に血は付いていない。


 出血などはないようだった。


 当たった箇所は鼻から唇にかけてらしく、その部分にじんわりと衝撃が残っていた。


「……とりあえず、怪我はねぇか。さて……。」


 レクスはほっと息を吐き出し立ち上がろうとした。


 瞬間。


『ちょっとー! 前ぐらい見て走ってよー! 』


「……は?」


 何処からか、声が響いた。


 若い、女性のような声だ。


 何かと思いながら辺りをきょろきょろと見渡すが、人影はない。


 小鬼や犬人などの魔獣らしき姿もない。


 洞穴の変わらない溶岩と薄暗い闇の続く空間が続いているだけだ。


 レクスは頸を傾げた。


「気の所為か……?」


『そんなわけないでしょー! 女の子にぶつかっといて謝罪も無いのはどうかと思うよ!』


 やはり、間違いなく女性の声が聞こえた。


 だが何処を見ても、声の主の姿をレクスは確認出来なかった。


『ぼくの声、聞こえてるよね? 上だよ上。上にいるんだけど……。』


「……上?」


 可怪しいと思いながらも、ちらりとレクスは上を見上げる。


 そこには。


 ふよふよ、ふよふよと。


 先程レクスがぶつかった球体のようなものが、光を放って浮かんでいた。


お読みいただきありがとうございます。

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