4.山樫杖一郎
私が嗜んでいる神道夢想流杖術では有名な詩がある。
"痕付けず人をこらしていましむる教えは杖の外にやはある"
杖は相手を打倒し殺す技ではなく、戒めるための技だ。
だが、私が子供のころに通った道場の方針は……
なかなか過激だったのである……
『殺しに来る相手を打ち殺せる技量が活人の最低限だ』
私の師はそりゃオカシイ人だったなぁ。
当時12歳の子供に何を教えてるんだ。
ふと、昔から考えていたことをぼやいてしまう。
「流祖、夢想権之助もあの時代は、割と殺す気だったと思うんだよ」
「さっきから何を言ってやがる!このクソガキが!死ねらやぁ!」
逆上しているのか、盗賊の口調がおかしい。
渾身の大振り上段が私の脳天に振り下ろされた。
「いやぁぁ!エフォリアぁぁぁぁぁぁ!」
『母さま心配しないで、この型は私が今まで何千万と繰り返してきた型です』
ミルシナの悲痛な叫びを他所に、前に踏み込み半身になる。
目標を失った刃が空を切ったのと同時に、盗賊の水月に
杖の先が10cmほど埋まっていた。
「ぎぃ!グガ…エ…」
「息ができないだろう?だが、貴様が事切れる瞬間まで打ち据えるぞ」
呼吸がままならない状態で盗賊は剣を前に構える。
私は小手を打つように剣を払い落とし杖を目付に構える。
ここは異世界だ、容赦をしたら此方が死ぬ。
不殺の考えは改めているが此奴を裁くのは私ではない。
私は杖を下げ盗賊の喉仏の下の急所、秘中にめり込ませた。
「ここでは殺さん。
貴様を裁くのは、我が領の法と父さまだ」
「グゲゲ…でめぇ…ごろじてやる…」
悶絶している盗賊に告げると、素早く顎を横から薙いで意識を飛ばした。
気絶している間に持ち物を剥いで縛ってしまおう。
侍女のあの人は大丈夫だろうか?
良かった、既に起きて母さまと姉さまの状態を確かめている。
優秀な人は仕事が早い。優先順位を見誤らないから信頼できるんだ。
私が務めている会社にヘッドハンティングしたいね。
あれ僕?私?何言ってるんだ?それにしても…いたたた…
この男、子供相手になんて力で張り倒してるんだ。
「えふぉりあぁぁ…ああぁ…無事なのね…うえぇ…」
「エフォリア!無事なの!?ねぇ!なんなのあれ!ねぇ!」
「ぐへぇ!?」
油断しているところに母さまと姉さまの殺人タックルが炸裂する。
痛!?くは無いけど、苦しいです!苦しいですってば!
あぁほら2人とも鼻チーンして!チーンです!
淑女の顔が台無しだ。
大怪我を負っている御者と、虫の息で今にも事切れそうな2人の専任護衛の
治療を行っていると、複数の蹄の音が響いてきた。
侍女は素早くランタンを消し息を潜めるように伝えてくる。
「誰カ!我々はヴァイト辺境伯領駐屯騎士隊である!出てこられよ!」
ボロボロに破壊された馬車と、盗賊の死体を見たのだろう。
騎士隊は一斉に下馬し周辺の捜索に入る。
馬車の紋章を確認したのか、捜索圏内を辺境伯領全体に広げる信号魔法を
空へ打ち上げた。この魔法は騎士隊にしか使えない特殊な奴だ。
この時点で彼らが本物の騎士隊であるのが分かった。
侍女が再びランタンを灯し。
「ヴァイト辺境伯夫人とご息女、ご子息であります!救助と治療を求めます!」
そう声高々に告げると、騎士たちは慌てたようにやってきた。
迅速な動きだ、しかし、魔道路に合図をする暇もなかったはずだが?
そう考えていると、馬車から弾き飛ばされた御者が意識が途絶える前に、
敷設している魔道路に緊急事態の合図を送ったのが判明した。
あのような大怪我で何たる忠義…生き残って欲しいな。
杖一郎さんとエフォリア君の人格が徐々に統一されていく。




