3.絶体絶命と書いて大ピンチ
この世界の盗賊は、高ランクの冒険者が犯罪を起こし落ちぶれた姿だ。
冒険者ギルドの刺客を退け、騎士の追跡を振り切った強者が他国へ身を
躱し盗賊という存在になる。
この世界の盗賊は強い、冒険者ギルドの精鋭を排除する実力がある。
冒険者ギルドは手に負えないと判断した場合、支部が所属している国家に
協力を要請する。
その場合、対人・対魔物のスペシャリスト、騎士が中隊規模で追跡を行う。
騎士に捕縛されると、取り調べが苛烈になるため、大抵は直前に自刃するか
抵抗しあっけなくその場で処理される。
それら全てを退けた強者の凶悪犯、魔物に次ぐ最悪の存在が盗賊だった。
「うあぁぁ!奥様!伏せてくだせぇ!」
御者の叫び声が聞こえた。
突如ドン!と馬車が大きく揺れ、室内に衝突音が響く。
衝撃で入り口が開くと、外では専任護衛の1人が満身創痍で3人の盗賊と
大立ち回りを繰り広げている。
周りを見渡すと、もう1人の専任護衛と御者、そして盗賊と思しき2人が
倒れていた。
「セリア!教えた防御魔法を!
エフォリア…大丈夫よ母が貴方たちを守りますから」
そう言って、ミルシナは魔力を練り上げながら馬車の外に出る。
侍女は周りを警戒しミルシナの盾となる位置に陣取っていた。
ミルシナは対峙している1人の盗賊に向かって『風よ』と唱る。
突如、盗賊は上昇気流に巻き上げられたかのように空高く飛ばされた。
数秒後に鈍い衝撃音と共に、落ちてきた盗賊が原形を留めない姿に
変わり果てていた。
「降参しなさい!さすれば命までは取りません!」
凛とした表情でミルシナはリーダーと思われる盗賊に告げる。
しかし帰ってきたのは、ミルシナと僕らを品定めする下卑た表情と目線だ。
その目線を遮るように侍女がミルシナの前にナイフを構えて立ちはだかる。
「お!?なかなかの美人がでてきたじゃねぇか」
「ゲスめ…当家の奥様にそのような目線は無礼ですよ。」
ミルシナの援護で1対1に持ち込めた専任護衛は盗賊を切り伏せる。
そしてリーダー格の盗賊に剣を向けた。
「あとは貴様だけだ!縛に着げ!?…がはっ!?」
一瞬の出来事だった。周りが気付かぬ速度で専任護衛は剣で貫かれていた。
「奥さ…お逃げ…く…」
「おっとぉ、逃がすわけねーなぁゲヒャアヒャ…
安心しな女と子供は売れるから殺しはしねえよ?」
獲物にありついた蛇のような目が僕ら4人を見る。
上物の餌と認識したのか、その表情はより凶悪性を増して一歩一歩近づいてくる。
「こんだけの上玉ならよぉ、女は楽しんだ後でも結構な高値で捌けそうだなぁ
…あ?おい、そこのガキ、てめぇは生意気な目をしてんなぁ?刳り貫くぞ?」
「させるか!!!」
間合いに入った瞬間、侍女が低い姿勢から足首を落とす勢いで切りかかった。
誰しもこの盗賊の足が落ちると確信した瞬間、落としたと思った足で顔を跳ね上げられ
意識を刈り取られた。
「げふ!……」
「いい線いってんだが…おせぇよバァカ」
静かに魔力を練っていたミルシナが間隙を付いて風の刃を放つ。
「刻め!風の刃!」
鉄をも断つ勢いで不可視の刃がリーダー格の盗賊を狩りに行くはずだった。
しかし、刃は男をすり抜け後方の木を切り倒す。
その光景に僕もセリアもそしてミルシナも驚愕した。
「なぜ…うぐっ!?」
「言ったろ?おせぇよってさ…威力は申し分ねぇが発動がおせぇ。
狙いが見え見えなんだよ。仮にも冒険者だったんだぜ?なめんなボ・ケ♪」
ミルシナの腹部にめり込ませた拳を抜きながら盗賊は馬車に近づく
セリアが恐怖で顔が強張っているのが見て取れた。
「だめ!エフォリア!」
僕が守るんだ!そう決意するとセリアが止める間もなく馬車の外へ飛び出る。
その姿を男が見ると何がおかしかったのか笑い始めた。
「おぉ~貴族様のおぼっちゃま!勇敢ですなぁ~。
でも大丈夫でございますか?足も震えて顔も強張っておりますよぉ?ヒヒヒヒ」
「うるさい!僕がお前の相手だ!!」
中途半端な慇懃の言葉を聞いて、怒りがこみ上げる。
勇気と無謀を履き違えた僕は素手で力いっぱい殴りかかった。
・盗賊
元高ランク冒険者の成れの果て。
中ランク程度なら冒険者ギルドの討伐依頼で狩られちゃう。
・騎士
対人、対魔物のスペシャリスト
冒険者を日雇い労働者としたら
騎士は完全な職業軍人




