1.転生
プニプニッ
頬がこしょばゆい、それと日の光を感じる。そしてこの柔らかく安心感に包まれる感触はなんだろうか?眩しくて開け難い眼をゆっくり開いていく。
「まぁ!目を開けたわ!クエルクス!目を開けました!エフォリアが目を開けたんですの!」
「なんだとぉう!ミルシナ!私にも!私にも見せてくれ!おほぉ!お父さんですよー!」
「父さま!私にも見せてください!」
「ぼくもおとうとみたい!」
「ねーたんでうよー!」
なんだか見知らぬ男女と子供たちが私を覗き込んでいるぞ?誰なんだ?……あぁ駄目だ、眠いんだよ……もう少し寝かせてくれ。微睡に包まれるなか、ふと考えた。この子たちは私の甥っ子や姪っ子と同じくらいの年齢だろうか…。
「しー!どうやら寝てしまいましたね、目元はクエルクスにそっくりです」
「口の形は君じゃないか?あぁ、この髪の色は確かに私だね兄弟たちに似ている」
「アクータ、クラウガ、セリア、あなた達の弟よ、守ってあげてね」
ミルシナと呼ばれた女性はそう伝えると優しく赤子を撫で、産まれて来た我が子が無事に育つように神に祈りをささげた。クエルクスも同じよう産まれたばかりの我が子の祝福を神に願う。その様子を子供たちも同じような仕草で行うのであった。
「奥様、旦那様、そろそろエフォリア様のおくるみを交換しても?」
余りの長さにお付きの使用人にツッコミを入れられるまで。
ヴァイト辺境伯の元に新たな命が芽生えていた。
◆◆◆◆◆<<10年後>>◆◆◆◆◆
快晴の中、弾む声が響く。
「母さま!セリア姉さま!早くいきましょう!」
10歳ほどだろうか、赤味がある茶髪の少年が楽しそうに中庭を走っている。子供らしい活発そうな感じが見て取れるが、時折転びそうになるのを見てはヒヤッとする。その様子を見て、金髪の少女が少し怒った感じで少年に声をかけてた。
「あぁもうエフォリア!危ないから走らない!待ちなさい!まちなさーい!ミルシナお母さま!ちょっとアレ、シバいてきますね!」
「もうセリア…かまいませんが、口調は気をつけなさい。あとやりすぎは禁物ですよ?」
ミルシナの呆れたという返事をよそに、金髪をなびかせセリアが勢いよくダッシュする。あっと言う間にエフォリアと呼ばれた少年をひっ捕まえ、流れるように背後に回りギリギリっと首を締めあげた。
「ぐえぇぇぇ…姉さま…ギブ…ギブ…死んじゃいます」
「お姉さまの言うことはちゃんと?」
「聞きます…聞きます…ごめんなさいぃ」
「そっ、ならよし!それと、お母さまの言うこともちゃんと聞きなさい。じゃないと今度は締め落とすわよ?」
姉弟愛なのだろうか、セリアは満面の笑顔で物騒な事を耳打ちしエフォリアを開放した。ほぼ同時にミルシナが追い付いてきたが、同時に二人に対するお説教が開始されたのだった。
「まったく…セリアもエフォリアもお勉強の時間を増やそうかし…」
「お母さまごめんなさい!わたし反省してます!!」
「母さま!僕も悪かったです!今度は気を付けますのでどうかそれだけは!」
娘と息子の余りの剣幕に気圧されるが、そんなにお勉強は嫌なのだろうか?ミルシナは二人が慌てて謝罪合戦する様子を見ると、説教する気も何処かに置いてしまったのか、お付きの侍女にこの場でランチを開くように言う。
あれよあれよとランチを準備し、侍女は離れたところへ控えようとした。
「ナーリャ、あなたも食べなさいな、お腹空いてるのでしょ?」
ミルシナは侍女のナーリャにそう一声をかけるが、流石に侍女が辺境伯夫人とそのご子息ご息女と食事を共にするのは、体裁もあるだろうと断ろうとした。
「お心遣いに感謝いたします。ですが私は…」
侍女が断りの言葉を言い切る前にミルシナは『みんなで食べた方が美味しいのよ?』と、心底残念そうな顔をするのだ。これは断れない。侍女は観念して囲いに入ると、それを見てミルシナは満足そうに食事を始めた。
「ではセリア、エフォリア、頂きましょう」
そのような態度は他の貴族からしたら異色なんだろう。しかし仕えている者たちからは、ミルシナ様のためなら我が身をも投げ出せる!と狂信的な支持を集めていた。いま食事を囲んでいるこの侍女も例外ではなかった。その様子を見て僕と姉さまは。
「姉さま、母さまの方が貴族としての感覚が違うような気がするのですが」
「わかる?社交の場でも慈愛の辺境伯夫人とか生粋の聖人とか色々言われているのよ?」
「あれ、それ姉さまも近いこと言われてますよ?」
「え?ちょっと今の話kwsk」
「いただきまーす!」
「ねぇ!ちょっと今の話を詳しく!」
思わず立ち上がったセリアに対しミルシナは凛とした表情をし扇子をピシャリと差す。
「歓談は良いですが暴れてはいけません!」
と雷を落とす。姉は弟に『恨みはらさでおくべきか…』と怒られている最中、視線を向けてくるが、エフォリアはここは見ないふりをしようと、黙々と食事を行う事にする。巻き込まれてはたまったものではない。
お付きの侍女ナーリャと歓談をしながら平和な時間を感じていた。
転生後の人生の始まりです。
12月3日修正




