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1.姉様ラプソディ

「ぐえっ!?」


寮内に割り当てられた自室に荷物を運びこんだ後、私はエイドリックとレーナと共に学院内の見学を行っていた。その矢先に、随分と聞きなれた……否……懐かしい声と共に後ろから結構な勢いで抱擁を受けた。随分と首が締まっている気がする。

もはや抱擁と言うよりはチョークスリーパーだ。

 急な襲撃者にエイドリックもレーナも一瞬気を取られるが、顔が青くなっていく私を見て慌てて襲撃者に対し身構えた。


「な……何者だ!エフォリア様を放せ!」


「あの!エフォリア君が苦しがってます!放してください!」 


「あら?誰か知らないけど姉弟のスキンシップを邪魔するのなら容赦しないわよ?」


そう言いながら襲撃者は私の首を絞めつつ、自分と2人の間に私を挟むようにしている。飛び掛かられても私が盾となる位置に陣取っているため、2人は襲撃者に対しての対処が難しい状況だった。

 いったい誰だ、なんて言うまでもない、このような淑女の鏡(おてんば)と言えるスキンシップは誰かわかっている。2年前に王都学院に入学した我が姉様だ……。


「……ギブ……ギブです……落ちる……落ちちゃうから……」


私の言葉に襲撃者はようやく抱擁(チョークスリーパー)を解いてくれた。呼吸は出来るのにスゥッと意識が遠くなるこのカール・ゴッチばりのスリーパーは……

 後ろを振り向くとそこには、金髪碧眼のミルシナ母様に顔立ちがよく似ている凛とした令嬢が佇んていた。


「ケホ……セリア姉様……お久しぶりです」


「えぇ、お久しぶりねエフォリア、会いたかったわ」


先程、暴挙に出たばかりとは思えないに完璧な貴族令嬢の佇まいをしている我が姉、セリア=ヴァイト辺境伯令嬢が優し気な微笑みを浮かべている。

 見た目だけなら立派な令嬢、対外的にも素晴らしい人物だが、弟の私だけには色々手厳しいのは変わっていないようだ。もう17歳だよね?姉様?


「姉様!いくら何でもいきなり首は止めてください!学院初日で姉に絞殺される弟とか、シャレにならない出来事が学院史に刻まれるところでしたよ!」


「あら?そんなヘマはしないわよ?可愛い弟を絞殺なんてするはず無いわ?」


「あれだけギリギリを攻めていて正気ですか!?」


「失礼ね!見極めは完璧にしているし、その気になれば抜けれるでしょ!」


「あ、そういえばお婆様に挨拶に行くので、その時にでも……」


「ひ……卑怯よ!?ってかごめんなさい!お婆様だけは勘弁してください!」


あっ……と思い出したように放置していたエイドリックとレーナの方を向くが、そりゃ唖然とするだろう。2年前と比べるとセリア姉様は色々と女性らしい所が大きくはなっているが、【小さな高潔の伯爵令嬢】との二つ名を本人の与り知らぬ所で語られるくらいに慕われている。

 少なくとも、こんな姉弟漫才を行うイメージは全く無いはずなのだ……多分、屋敷の人間以外は知らない本性の姿だった。


「あのぉ……セリア様でしょうか?」


姉様のイメージが崩れているのか、固まっているエイドリックの代わりに、おっかなびっくりという感じでレーナが姉様に声をかける。姉様はレーナの方を見ると、にっこり微笑んで完璧な所作で礼をすると、先程とがらりと変わる穏やかな口調でレーナ達に答える。


「お初にお目に掛ります、セリア=ヴァイトと申します……貴女方はエフォリアのお友達かしら?」


「は!!初めまして!レーナと申します!騎士爵位を叙爵されたばかりでまだ性はありません!エフォリア君……様には良くしてもらっています!」


「え……エイドリック=フォールと申します。セリア様、僕はエフォリア様の従士です」


「持ち直したのは流石は貴族……だけど、従士じゃなく友達ね?エイドリック?」


友達と言っているのに、隙あらば従士と名乗ろうとするエイドリックに修正を促す。姉様はその様子をニコニコと優し気に見ているが、2人よ……騙されないでおくれ?さっきの私に対しての蛮行が本性だよ?そう思いながら、そっと眼を逸らす。


「まぁ!フォール様のご子息様に、レーナさんですね?あら?レーナさんに見覚えがあるわ?……お母様と視察で町へ行ったときに声をかけた子かしら?」


「っっ!はい!私です!嬉しいセリア様が私を覚えてくれていた!」


感極まっているレーナが涙目になるほど喜んでいる。姉様は無駄に庶民人気が高いのだ。小さくぴょんっと小刻みに跳ねているのを見るにレーナはかなり嬉しかったのだろう。その様子をにこやかに見ていた姉様は何かの琴線に触れたのか?喜びを表しているレーナを急に抱きしめると……


「可愛い!この子は私がお持ち帰りしてもいいかしら?」


「「駄目です!」」


即答した私とエイドリックの声がハモった。私だけならいざ知らず、エイドリックまでツッコミに回るとは私は思わず面食らった表情をしてしまう。まぁレーナはエイドリックの想い人なんだし、流石に我が姉様にとはいえ、好きな子を取られるのは嫌だよね?わかるよ……そう一人で納得するのだった。

 とうの姉様は私たちの心からのツッコミに、えー……という感じの表情だ。


「姉様、心底残念な顔はお止め下さい」


「だってエフォリア?この子の反応可愛いじゃない?魔法の才か騎士の才を授かったのでしょ?私の専属にしたいわ……」


「えっと……その……わ、私は……」


「セリア様!レーナはその僕の……ですね」


「ほらほら姉様、エイドリックとレーナが困ってますよ?放してあげてください」


「むぅ……」


名残惜しそうにレーナを放す姉様は、色々外見的にはご成長されたのに中身はどうやら変わってないらしい……この裏表の無さにひかれる人も多いのだろうと私は感じていた。それにしても、初日から振り回される相手が姉様と言うのは苦笑いしか出てこない気もする。

 これ以上のトラブルが無い事を祈ると思ってた。思っていたのだが……


「貴様ら!1年風情が私のセリア嬢になにをしているか!!!!」


トラブルが向こうからやってきたような気がするのに対し、私は頭を抱えるのであった。

学院編の開始となります。


いつも読んで頂きありがとうございます。

そして、誤字報告、感謝いたします!

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