2.杖による初めての対魔物戦
3投目を準備した私は少々色気を出して、奥で鎮座しているジャイアントホーンラビットに向けて放った。女神の祝福の効果で大幅にバフが付いた肉体と体術の才、前世での武術の理合いを以て放たれた棒状の手裏剣は、自分でも信じられない勢いでジャイアントホーンラビットに襲い掛かる。
これは、決めたか?そう思ったのもつかの間、ジャイアントホーンラビットは額から生えている太い角を巧みに操り放たれた棒手裏剣を叩き落した。
「なるほど、これは一筋縄ではいかないや……エイドリック!レーナ!冒険者達に合流して陣形を維持して!」
「「はい!」」
まともに魔物と戦闘したのは私も含めて今日が初めてだろうが、エイドリックもレーナもよくやっている。2人は互いに位置を入れ替えながら着実にホーンラビットを仕留めつつ私の声に従い冒険者達の陣形に加わる。
私は杖を右逆手に構えジャイアントホーンラビットを見据え浅く呼吸を整えた。対人ではなく対魔物を杖術で行う事になるとは思わなんだ、されど前世に修めし神道夢想流杖術、悪鬼羅刹が相手でも調伏せしめよう。
ジャイアントホーンラビットが棒手裏剣が飛んできた方向に顔を向ける、その先に居るのは私だ、さぁ来い、突いてこい……
「この緊張感、悪くないね……でもまだ足りないか?」
ジャイアントホーンラビットは私を視界に入れながらも警戒し来る気配はない、それならばと棒手裏剣をもう1本取り出しその顔に軽く投げつける。理合いもなく挑発のためだ。棒手裏剣を鬱陶しく払いのけ、ジャイアントホーンラビットはその後ろ脚に力を入れ、飛び出してきた。
その勢いはホーンラビットの比ではない、真正面から突進を受けたら、痛いでは済まないだろう、魔物の額には鋭い角が付いているのだ。
「あぶねぇ!!!」
「坊主!よけろ!!!」
陣形の方から危険を知らせる声が飛んでくる。15歳の小僧がちょっとした車両の大きさの動物の突進に対し、真正面で細い棒を構えているのだ、無謀と思うのは無理もない。だが、突進の力がその角の一点に集約されているなら、逸らしてやれば当たらないのが道理だ。
ジャイアントホーンラビットが飛び込んできた瞬間、右逆手に構えていた杖を角の側面に沿わせ滑らせる形で捻り引き上げる。カッ!と乾いた音が響いた瞬間、眼を逸らす冒険者もいたがそれは杞憂に終わる。自身の正中線を杖一本で隠す"杖太刀の型 左貫" を以てジャイアントホーンラビットの一撃は私の横に反れていた。
「少し……逆手突きが混ざったか?求む理合いにはまだ届かんな……」
ジャイアントホーンラビットの渾身の一撃を逸らした杖先は、その勢いのまま突きと成りジャイアントホーンラビットの左目を穿っていた。私は素早く杖を引き持ち手を変えると、腰を入れ角の根元に振り下ろした。
カァン!と甲高い音が響くと、ジャイアントホーンラビットの角が根元から断ち折られ鮮血が噴き出す。まともに返り血を浴びるが、怯む隙など見せないし、見せる気もない。
「兎の急所なんて私は知らないからね、可哀そうだけど動かなくなるまで打ち据えるよ!」
勢いのまま右引き落としに杖を据えると止めとばかりに脳天に向けて更に杖を打ち据える。速度と勢いと遠心力が乗った杖がジャイアントホーンラビットの脳天を捕らえた。
ギゥッと断末魔だろうか、声を漏らし、ジャイアントホーンラビットは動かなくなる。1~2分ほど構えを解かず側面に回り込み、2発ほど打ち据えるが、魔物はピクリとも動かない。絶命を確認しようやく残心を解いた。
「ふぅ……何とかなるもんだな……」
対魔物でも杖術で対抗できる。それだけでも大きな収穫といえるだろう。前世から日頃、神道夢想流杖術の型を一つ一つ紐解いていた甲斐があるものだ。ああ来たらこう受ける、こう受けられたらそう流す。前世、山樫杖一郎が考えても使う機会が「あまり」無かった技術と理合がエフォリアの体に染みついていた。
「エフォリア様!お見事です!」
「凄いです!あんな戦い方は初めて見ました」
エイドリックとレーナが駆け寄ってきた。その後ろには陣形を構築していた冒険者達も混じっている。
「坊主!お前凄いなぁ!ジャイアントホーンラビットはCランク冒険者が徒党を組んで対応する魔物だぞ!?」
「その棒を使った戦い方!角の突撃を見事に逸らすなんて、騎士でも出来るかわからんぞ!」
「え!?アンチャンら王都学院の生徒さんなの!?やべ!貴族様だ!ははぁー!」
各々が思い思い褒めてくれるのは有難いのだが、少々疲れた……睡眠不足を思い出した私は、冒険者達に魔物の素材を譲ると、早々に宿泊所へ引っ込むことにした。
引っ込むことにしたはずなのだが、なぜか食堂で冒険者達に囲まれている……先程の戦いを酒の肴に飲み会が始まっていた。
「失礼ですが、エフォリア=ヴァイト様であられますか?」
「あ、はい、そうです」
「「「「「「へ……辺境伯のご子息様!?」」」」」」
1人の行商人が恐る恐る私の名前を聞いてきたので、何も考えず生返事してしまう。しまったと思ったが後の祭りである。
「やべー!俺さっき、あまり戦いの凄さにあの坊主……もといエフォリア様の肩をバンバンしちゃったよ……」
「ひぃ……俺、冒険者になるんだったらパーティーに来いよと上から目線で……」
肩バンバンしてきたのはあんたか……異様に痛かったぞ……は置いといて、流石に空気が重くなったので無礼講だと伝えて事なきを得た。
「それにしてもエフォリア様、あの技は一体何なのですか?初めて見たのですが」
「あぁ、杖術だよ」
「じょー……じゅちゅ?」
エイドリック……お前もか……そんなに言いにくいか?杖術。
「杖術ね、棒を用いて戦う術だよ……魔物相手は今日が初めてだったけど」
「ぶっつけ実戦でアレなら凄いですよ……」
「盗賊相手なら一度だけ実戦してるんだけどねぇ」
盗賊の一言がまずかったのだろうか、ざわっ……と空気が一瞬で固まる。
「おい……盗賊って大体が元BかAランカーだよな……」
「んだ……Cなら俺たちで狩れるし依頼書出た次の日には対象の首がギルドに持ち込まれるぞ……」
「そういや5年程前に大規模な盗賊狩りがヴァイト領で……エフォリアさまパネェ……」
口が滑った……そういえば、この世界の盗賊は雑魚ではなく強者側だった……私は咳ばらいをすると、そそくさと部屋に戻って行くのであった。
「鑑定……」
部屋に戻り、杖に対し鑑定を使用する。流石にただの白樫の杖が、魔物の突進やあの鋭い角へ振り下ろして傷が付かないのは異常だと感じる。
それと、スティにも杖に対して鑑定を使ってと言われているのを今思い出したのだ。
名称:山樫杖一郎の愛用の杖
【魔法干渉可能】【攻撃力上昇】【防御力向上】【精神耐性】
【精神攻撃可能】【使用者固定】【紛失防止】【破壊不可】
【聖遺物】【神格を得た武具】【女神の愛情】
一瞬、即倒しかける。
「見なきゃよかった……これ、国宝級を大きく超える奴だ……ってか愛情ってなんなのさ……」
スティのてへぺろ顔が浮かんでくる。私の愛用の杖は、もはや白樫の杖の枠を超えた物と成っていたのだ。そっとストレージの中に仕舞い込むと今日はもう寝ることとする。明日も早く出発しなければならないのだ。
睡魔が襲ってくる中、新しい白樫の杖を新調しようと心に誓うのであった。
神道夢想流杖術は千差万別、多彩な変化!
ファンタジーなフィジカルも加わればきっと
神 も 悪 魔 も こ ら し て 戒 む る ! !
いつも読んで下さりありがとうございます。
王都への道のり編は次で最後。
学院編が始まります。




