5.叫び
潜伏して数分、戦闘音が聞こえてきた。
耳を澄まし音を拾う。
戦況は圧倒的に不利なんだろう。
仲間の盗賊の怒号が聞こえてくる。
「くそ……思った以上に持たないじゃないか」
騎士たちの殆どが樹海に入っている。
頃合いを見て悠々と樹海から出ればいい。
樹海から出たら村娘に紛れ込んでやり過ごそう。
そんな悠長なことを考えていた。
しかし戦況がそれを許さない。
「今、動くしかないかねぇ……」
意を決して行動を開始する。
騎士たちが掃討戦に移行したら、離脱の機会は失われる。
クソ共が騎士の注意を引き付けている今がチャンスだ。
そう考えてしまった。
急いた女盗賊は生に執着するがあまり判断を誤る。
「ひっ!?」
嫌な感触が背筋を通った。
しまったと思った瞬間、アクータの傍にいた騎士が、
槍の投擲を終えていた。
魔法士の索敵結界だ。くそ!と悪態をつく暇もない。
槍の射線から逃れるために開けた前方に思いっきり飛び込む。
着弾した槍の威力がすさまじい。
衝撃と自ら飛んだ勢いで着地が上手くいかず地面に転がる。
「ちくしょう……ちくしょう!」
地面を転がった拍子についた擦過傷なんて気にするな。
必死に起き上がると、抜剣した騎士と槍を構えた数人の
兵士が迫ってくる。
「アタシは死ねないんだよ!!」
そう叫ぶと、自分でも驚く勢いで体が動いた。
騎士の斬撃を避け、兵士の刺突を捌く。
身を低くして的を絞らせない。
更に、敵を盾にして攻撃を躊躇させる。
村に入れば、村人に紛れ込めばどうにかなる!
踏み出した足にロープの両先端に錘が付いている
ボーラという狩猟武器が絡みついた。
「かまうか!」
速度は落ちる。それでもアタシの速さはそこらの盗賊の
比ではないはずだ。その場で両足に絡まなきゃ未だ逃げれる。
進行先には切り付けてきた騎士よりも小柄な騎士が1人。
躱せば勝ちだ。
「どくんだよぉ!」
「アクータ様!退避して下さい!」
アタシの後ろから先程の騎士が叫ぶ。
コイツが、この騎士が指揮官か!
長ナイフを抜き首を狩る勢いで詰める。
「殺ったぁ!!」
渾身の一撃が放たれた。
これ以上は無い勢いで、首に剣が吸い込まれるはずだった。
だがしかし、小柄なアクータと呼ばれた騎士は左の肩当てを
巧みに使いアタシの剣を受け流した。
ギャリィと音を立て、流れた剣は勢いが加わり止まらない。
アタシの態勢が大きく崩れた。
騎士はそのまま流れるように抜剣の態勢を取る。
勢いよく抜かれた剣の柄頭がアタシの右の脇腹にめり込んだ。
「ギャ……ウグァァァ……」
地獄の苦しみか、その場でアタシは動けなくなった。
首元に騎士の剣が突きつけられる。
もうだめだと、後悔がこみ上げる。
「あ……あぁぁぁぁ……死ねないんだよ死ねないんだぁ!
ナーリャ……ナーリャぁ……」
10年ほど前、この国と隣国の間で起こった小競り合い。
巻き込まれたアタシの生まれた故郷の村。
死んだ両親、再建の混乱の中で生き別れた2人の妹。
記憶が鮮明に浮かび上がる。浮かび上がっては消えていく。
「やだぁ!……いやだぁ!まだ死ねない!妹達を見つけるまではぁ
死にたくないぃ!ナーリャ!!!ミーリァ!!ぁぁぁ!!」
恥も外見もない、子供のように泣きじゃくる。
逃れられない死と叶わない妹達との再会が慟哭となる。
「ナーリャ?……」
アクータと呼ばれる騎士はそう呟くと剣を収めアタシの捕縛を命じた。
こうして、ヴァイト辺境伯領に入った盗賊団は壊滅した。
1人の女盗賊を残して……
一見は優男のアクータお兄様。
剣の腕前は騎士クラス。
他の騎士のような槍の投擲は大の苦手。




