1.盗賊団
鬱蒼とした木々が生い茂り、地元の人間でもよほどの事がない限りは
近寄ることをしない樹海の奥に、居るはずのない複数の人影があった。
人相は良くない、一目で『ならず者』と分かる。
「ちっ……帰ってこねーか……」
その中でも見栄えるような立派な体躯をしている男が不機嫌を隠さず、
吐き捨てるように呟く。
「カシラァ、流石に5人も斥候に出して帰ってこねえってのはよぉ
どう考えてもヤバいって事じゃねーか?」
「……あいつらが逃げたって線はどうだい?カシラ」
"カシラ"と呼ばれる男の傍に、凶悪そうな男女が控えている。
この3人の周辺をさらに十数名の盗賊が辺りを警戒していた。
「奴らだけじゃ長くは逃げ切れるとは思えんな。
逃げた線は薄いだろ……となると……」
「クスクス……色気を出して捕まったか、既に死んでるだろうねぇ」
女盗賊は含み笑いを浮かべる。
「カシラ、あいつらが死んでるにしても、捕まったにしてもだ。
ちとヤバくねーか?俺らが入り込んでるのが露見しただろ?」
「まぁ、露見したな。
骨休めと小遣い稼ぎのつもりでヴァイト領に陣取ったんだがな」
「仕方ないさね、あいつらは馬鹿な上に腕はそこそこ、性格は破綻。
盗賊の鑑みたいな連中さ、まぁアタシらもだけどねぇ」
盗賊のカシラにとって、家柄の良い犬を蹴とばす程度の考えだった。
斥候も周辺の村や町の詳細を確認し、手薄な所を摘まみ食い程度を
行うために出したはずだった。人選を誤ったと少し後悔している。
「腕っぷしが多少ある奴「だけ」を選んだのが間違いだったな。
やっぱ、多少は頭が回る奴を指揮に据えるんだったか」
なんにせよ、過ぎてしまったのは仕方がない。
盗賊なりの規律を正すための、見せしめにかける相手は戻ってこない。
考えている最中に不穏な気配を感じた。
刹那、手元に遭ったナイフを投擲する。
手応え十分、ナイフを投げた先の近くにいる手下に確認を命じた。
「根城も割れてんな……こりゃ……」
「どうするよ?カシラ……」
「少なくとも、場所の移動は考えねーとなぁ」
手下が引きずってきたのは、黒い布製の装備に身を固めた
【スカウト】と呼ばれる職業の冒険者だった。
スカウトは主に探索を生業とする冒険者だ。
役割の幅は広く、偵察、斥候、追跡、罠の設置及び解除が主となる。
そしてこの職業が斥候任務に出る場合は、ツーマンセルが基本だ。
「もう一人いるはずだ!探せ!」
そう命令しながら根城を引き上げる指示を残った手下に飛ばす。
カシラの命令に従うように足の速い女盗賊が飛び出す。
『まだ死ねないさね。騎士が来る前にアタシだけでも
逃げなきゃねぇ……妹達を見つけるまではまだ死ねないんだよ』
慌ただしく動き出した男共を尻目に、女盗賊は自身が生き残るための
ソロバンを頭の中で弾いていた。
盗賊団討伐編




