黄金色-3
もう一度見開かれた瞳は、ぼんやりとした陰を落としていた。先ほどまで宿っていた強い光はない。
そして周囲に倒れている魔族たちを見た瞬間、目を見開いてその青い瞳を揺らした。薄桃色に染まっていた唇はサッと血の気が引き血色が悪くなり、カタカタと震えている。姿はさっきまでと同じで人間離れしていたが、先ほどの危うげな妖艶さも無くなり、ただのか弱い少女のように見える。
「……あ」
そう小さく呟いたのを合図とし、彼女の銀髪が徐々に短くなり亜麻色へと変わり、そして瞳もスッと青色から菫色へと変わっていった。アギオンから普段の姿へと戻ったのだ。戻ってみれば彼女は、本当に普通の少女に見えた。そして彼女は呆然としたままポロリと涙を零した。彼女の薄紫色の瞳からはポロポロとたくさんの涙がこぼれ落ち、その長い睫毛と滑らかな頬を濡らしてゆく。顔も真っ青で、アランはどうしていいかわからずに困惑していた。彼がアギオン化し騎士服に身を包んだ時は必ず纏うようにしている張り詰めた空気も、戦いが終わったこともあって崩れていた。
(こういう時は、どうすれば良いのだろう)
アランは今まで女性を泣かせたことなどないし、こんな時の女性の慰め方など知らない。言い寄られたことは数え切れないほどあっても、自分から女性と関わろうとしたことなどあまり無かったのだ。
アランは悩んだ挙句、剣をゆっくりと鞘に収め、そっと彼女の前に跪いた。そして手袋を外してポケットにしまいこみ、綺麗な右手で俯いて泣き続ける彼女の頭をそっと撫でた。
「…………」
彼女は無言でゆっくりと顔を上げ、涙でぐしゃぐしゃになった顔のままアランを見つめた。そして数回瞬きをした後に、「ごめんなさい」と小さく呟いたのだった。その悲痛さが詰まった短く震えた弱々しい声に、アランは眉を寄せて目を細めた。そして唇を軽く噛み、サッと立ち上がって王国軍の方を見た。魔族軍はもうほぼ撤退していて、アランたちの姿はおそらく王国軍から見えているだろう。だが距離があるので、彼女の顔は見られてないはずだ。アランは申し訳なく思いつつも強引に彼女の腕を掴んで、腰を支えながら彼女を立ち上がらせた。そしてまだ呆然としている少女に、素早く囁く。
「訳がわからないと思うが、早くここから立ち去れ。長居すれば君は王国軍に捕まって利用されてしまう。森の中に逃げて姿を消せ」
いいね?と問うと、微かにだが彼女が頷いたような気がした。アランはよし、と頷き、そして思い出したように彼女に何かを耳打ちすると、離れたところに置いてあった馬に跨って颯爽とその場から立ち去った。
振り返った時には少女はどこにも居らず、アランは密かに安堵したのだった。




