黄金色-1
「アラン様!」
後方から馬に乗った騎士が駆けてくる。前から斬り掛かってきた魔族の剣を軽々といなしてから斬り倒し、アランは振り返った。
「どうした」
「敵軍の後方が、何やら騒がしいようです。援軍ではないようですが……」
「……奇襲はしない予定であったと思うが」
「団長に再確認してきましたが、その様です。ですから原因はわからないのですが……」
敵軍の後方となると、馬で駆けていくにしても森の方まで行き、そしてこちらから見て左側の方から大きく迂回して回り込まなければならない。その間に敵に悟られたら、袋の鼠と化す。危険な行為であり、命が幾つあっても足りないだろう。ただし、それは常人であればの話だ。伝令役が何を言いたいのかがわかり、アランは頷いた。
「しかし、私が居なくなると前線が一気に押されることになるぞ」
「その点は問題ない」
後ろから聞こえた低く太い声に、アランは目を見開いた。駆けてきた馬が、アランの馬の横に並んだ。その上に跨っているのは、草原の緑に映える燃えるような赤髪を持った壮年の男だった。
「貴方がわざわざ何故……」
男は、先ほど団長と呼ばれていた者ーーつまり王国騎士団長だった。今回は"珍しく"後方でおとなしく指揮をとっていた筈だったのだが。
「お前の穴を埋められるのはオレくらいだろうが。まあそれでも全然足りないがな」
ハ、と鼻で笑った騎士団長は、横目でアランを見た。
「行くなら早く行け。少し引っ掛かっている。敵陣が何やら乱れているようだ」
「……わかりました。では、これだけ」
アランはスッと目を伏せて承り、そして顔を上げて馬をすこし前へと進めた。前方には敵がたくさん居り、先ほどアランが大勢なぎ倒したために会話するくらいの余裕は生まれていたが、また隊列を作り直して攻め立てようと迫ってきていた。
アランはそれを見て、神力を体の中で練りこみ、剣へと伝わせた。アランが持つ剣が柄の方から黄金色の炎を纏い始め、ついに炎は剣身全てを呑み込む。自然界のものではない黄金色のそれは、生きた怪物のようにゆらりゆらりと揺らめき、今にも獲物を食い尽くそうと目を光らせているようだった。アラン、彼の瞳と同じ黄金色の炎。それはこの国でもとても有名であった。
「……」
アランは何でもないようにその剣を横へと一閃した。すると黄金色の炎が敵陣の方へ一直線に襲ってゆき、そして魔族らを貪るように焼き尽くす。地獄のような魔族の悲鳴が辺りへと響き渡り、後ろに居た伝令役は反射的に怯え、騎士団長は険しい表情でその炎を眺めていた。
アランはと言うと、静かに目を細めてから同じ色の炎を映した黄金色の瞳を微かに揺らがせ、そして騎士団長を振り返った。
「これで、しばらく持つでしょう。行って参ります」
颯爽と馬で駆けて行く黒い特注の騎士服を着た後ろ姿を見て、騎士団長は静かにため息を吐いた。
「……甘チャンが」
ぼそりと呟いた声は、伝令役には聞こえなかったらしい。彼は震える声で、「これが神力ですか」と呟いた。
「……そうだ。これが、戦いの神アレスの神力を持ったアギオンの力だ」
騎士団長は静かに呟き、そして己の瞳に黄金色を映したのだった。




