死神
次の日、玄関で寝ながら彼女を待っていると、人の足音がいくつも聞こえた。
慌ててベッドの下に潜り込んだ。
部屋の前で、足音が止まる。
部屋のチャイムが、怒気をはらんで鳴らされた。
「山田さん、居ます?」
「一晩中猫の声がうるさいって、苦情が入ったんですよ。今すぐ、猫を処分します。」
「留守かもしれないですね。」他の男の声がした。
しばらくして、
「居留守を使っても駄目ですよ。」
「ここ、開けますね。」
それから、しばらくして、ドアの鍵がガチャっという音とともに、扉があいた。
ぼくは、このままだと、つかまってしまうと思い、その扉のすきまから外に飛び出した。
「あっ、逃げたぞ。」
「捕まえろ!」
「残念でした。お宅らにつかまるぼくじゃないよ。」ぼくは、そのまま階段を駆け下りて、すぐ目の前の公園の茂みの中に逃げ込んだ。
そして、匍匐前進して、茂みの隙間から、アパートの様子をうかがった。
その男たちは、口々に何か言っていたが、ぼくを部屋から追い出したことに満足したのか、そのまま帰っていった。
「さて、どうするかな?ここで、彼女の帰りを待つしかないかな。」
それから、2日たったけど、彼女はあの部屋に戻ってこなかった。
管理人がこわくて、戻って来れないのかもしれない。
3日目に雨が降り出した。あの時みたいに、彼女がまた、ぼくを救いあげてくれないかな?そんなことを思っているといつの間にか眠ってしまった。
この匂い。雨の匂いに混ざって、あの時の死神の匂いが微かにした。
「あれ、また、ぼくを迎えに来たのかな?」でも、以前と違って、大きくなったぼくは、二、三日ご飯を食べなくても大丈夫なんだけど。
「おや、こんなところにいたのか?」
「おまえ、何しにきた?」
「おれは、死神さ。」
「ぼくを、迎えに来たの?」その言葉を聞いた死神は、ぼくの目を覗き込んだ。
「いや。」
「腹がへっているのか?」
「ちょっと待ってろ。」そう言うと、死神はさっと夜の雨の中に消えていた。
しばらくして、突然目の前に、アンパンがおちてきた。
「食え。」
「そこのコンビニでもらってきた。」
「ちび猫、俺が盗んできたと、思っているだろ。」
「こう見えても神様のはしくれだ、そんなことはせん。供物として、差し出して来たのだ。コンビニの定員が。」
「裏のごみ箱に。」と僕に聞こえるように囁いた。
「そう、ありがとう。」ぼくは、そのアンパンをおいしく戴いた。
「お前の飼い主はどうした?」
ぼくは、その死神が、信じられなかったが、3日前にあったこと、そして、それから、部屋に戻ってきてないことを告げた。
「やばいな。」ぼそっとその死神は、つぶやいた。
そして、雨の降る星一つ出ていない黒い空を見上げた。




