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幻獣調査団事件簿~その依頼、マジでオレがやるの? 最強ナイトキラーと幻獣ジェンザーの件~されど胸の灯火は消えずに歩ませて  作者: ザイン=エル
第一章 ナイトキラーと夜の迷子

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第三話 月下に照らされた相棒

「せ、先輩……血が……」

 震える声で、フィーネはつぶやく。彼女の目から確認したその左腕の出血量は、放置してはいけないと感じるものだった。


 今すぐ傷口の状態を確認して回復魔法をかけに行きたいが、獰猛に唸るグリフォンは一旦ノクトから離れるも、まだ敵意をむき出しにして身構えている。

 ノクトは鋭く叫んだ。

「フィーネ!リリィを連れて下がれ!」


 そしてノクトは自身を顧みず、少女を守るように、グリフォンとリリィの間に入ってナイトブレードを構える──利き腕でない左腕の怪我なら、まだ刀で戦える。


「はっ、はい!」

 とにかくフィーネは急いでノクトの指示に従うしかない。少女の身体を抱いて、急いで下がる。


 しかし、なぜだろう──ノクトは疑問に思っていた。少女を守るように構えたとき、グリフォンの目にぎらつく敵意の光が一瞬弱まったような気が──


 ノクトは意を決した。

 彼は、ナイトブレードを、ゆっくりと地に置いた。


「な、何してるんですか、ノクト先輩!武器を手放すなんて……!」

 この状況でそれは、生存を諦めたに等しい──フィーネは驚いて叫ぶ。


 しかしノクトはそのまま両手を上げて、投降の意思を──グリフォンに対して完全に敵意がないことを、命を賭けて示した。


 すると、グリフォンはグルルル、と唸りながらも、体を丸めてそこに座り込んだ。月下に照らされたその姿は、劇的で──さながら神話の一場面のようにフィーネの目に映った。


「え……?」

 フィーネには、何が起きているのか、わからない。わからないが、グリフォンは自分たちを敵とみなすことをやめたことは事実だった。


 グリフォンの目は、慈しむように少女を見ている──


 ノクトは緊張と安堵で額から汗を一雫流し、息を飲んで言った。

「まさかと思ったが……お前も、リリィを守っているのか……?」


 グリフォンは言葉を喋ることはない。だが、その態度が雄弁にそれを語っていた。


「クッ……」

 安堵すると共に、左腕の傷が熱を持って痛むのを感じた。激痛で、額に汗が滲む。


 この程度──

 ノクトは腰の小さなポーチから清潔な布を取り出すと、声を漏らさないようそれを噛む。

 開いた傷口をグッと抑えて止血をするが、流石に鋭い痛みで息が荒くなる。


 彼の肩に乗ったナイトスコーピオンのアイリーンが、心配そうにその様子を見ている。


「先輩!回復します!」

 フィーネはそう言いながら、急いで駆け寄った。しかし、ノクトは苦しそうな表情で静かに首を振る。

「いや、まずはリリィから診てやってくれ」

「でも、そんな……ほっとけないです。こんな酷い怪我……」

 そう食い下がっても、彼は頑として譲らない。

「止血は自分でしておく。頼む……依頼人が先だ」

「わ、わかりました……」


 フィーネは、見ただけでわかる。とてつもない激痛だろうに……これがプロの戦闘員で、歴戦の幻獣調査団なんだ──フィーネは胸を打たれ、とにかく急いで少女の状態を確認する。


 グリフォンが行動を見張っていて彼女は居心地が悪かったが、今はそんなことを言ってはいられない。


 少女の様子を確認する。

 リリィは丸一日戻っていないと、父ゲイルから聞いていた。しかし、フィーネは実際に確認して思う──意外にも少女が気を失ったのは、ごく数時間前のようだ。


 外傷の状態、体温、先程確認した自然落下物の状態から察して、数十分~一時間ほど前に、崖の上から足をすべらせたのだろう。

 足をくじいているがそれほどの重症ではない。


 フィーネが確認したところによると、少女の他の擦り傷などはごく軽症のように見えた。この崖を落ちたにしては打ちどころが奇跡的に良く、怪我ではなく、落下した恐怖など別の要因で気を失っているように見えた。


 これなら回復魔法ですぐに意識を取り戻すかもしれない──

 フィーネは不思議な言葉を唱えると、緑の温かい光を放つ手のひらを、少女に掲げた。


 彼女の見立て通り、温かい回復の光で、少女はうっすらと目を開いた。

「おねえちゃん、だれ……?」


 鈴のような声が聞こえると、フィーネは心からほっとして、リリィに声をかけた。

「よかった……。んと、お姉ちゃんたちは、リリィちゃんを助けにきたんだよ。私は《幻獣調査団》のフィーネっていうの。あっちにいるお兄さんは、とっても強いノクト先輩。もう、安心だからね」


「幻獣調査団!ほんもの?」

「本物だよ」

 はっとして、少女は自分のおかれてる状況を思い出す。


「こんな山奥まで助けにきてくれたんだ……ありがとう。あそこの崖から落ちちゃって、気を失ってたみたい……」


 すると、グリフォンが急にリリィに近寄ってくる。

 自分の止血をしていたノクトは、さっと気色ばんで、腰にさしたサバイバルナイフを手にかけるが、グリフォンの動きに敵意がないことを察してその動きを止めた。


 少女が嬉しそうに叫ぶ。

「ライア!いてくれたんだ、ありがとう!」


「ライア……?もしかして、このグリフォンのこと……?」

 グリフォンに接近されて生きた心地がしなかったが、多分急に驚くと良くないことが起きるだろうと察していたので、フィーネはドキドキしながらも可能な限り平常心を保った。


「うん。お父さんがね、ライアと仲良くしてるとすごく怒るんだ。だからね、もうおうち帰らないの」


 それを聞いて、ノクトは激痛由来ではない原因で頭がふらっとした。

「その話は、聞いてねえな……」


 事前にグリフォンがいると言っておいてくれたら迂闊に少女に近づかなかったし、探索方法も変えていただろう。この怪我はもらい損だ──ふんだくってやろう、とノクトは心に決めた。


 ノクトは止血を続けながら少女に近づく。

「つまり、家へ戻らないのは、親子喧嘩か?オレたちは親元へと君を連れ帰らないといけないんだが、まだ戻る気はないのか」


「ないよ。おとうさん嫌い」

 取り付く島もない様子のリリィ。頑固な様子で、ノクトは傷の痛みも一瞬忘れて苦笑しながら言う。

「察するに、このグリフォンのことで喧嘩をしているのか」

「そうだよ」


 少女はくじいた足に回復魔法を受けながら、ぷんぷん怒りながら言う。

「ライアと私はお友達なのに、二度と会うなって言うんだもん。ライアは悪いことしないよ。優しいもん」


「君にとってはそれが真実で、それは疑いようもないな。だが──」

 ノクトは止血中の傷口を少女に見せた。リリィはびくっとして、その傷口を直視できなかった。


「君に対してではない者に対してはどうだろう。君を守るため、自分を守るために過剰な防衛をしてしまい、それが人の命を奪うこともある……

 魔獣はとても、難しい。だが、君が本当にライアのことを考えているのであれば、共に生きる道も無いでもない」


「共に生きる道……」


 月明かりの下、リリィはノクトの言葉を聞いていた。


 少女の顔は、ライアのせいで傷つけてしまったノクトにとても申し訳ない気持ちと、新しい道を模索できる可能性を感じて希望と、両方が同居していた。


 リリィがライアを大切にしていることが、その表情で全て伝わった。ノクトはうなずく。

「とにかく、ここじゃまずい。狼も出るし──あまり腰を据えて話すような場所でもない」


「でも……でも……帰りたくないよう……おとうさん、ライアのこと……」

 リリィはぐずぐずと言うと、しまいには泣き出してしまった。


 余程話を聞かないわからずやの父親なんだな、とノクトはため息をついた。


 実の父親という存在は話に聞くことでしか知らないが、こういう話を聞くと、自分の義父は本当によくできた父親だなと思う。


 とにかくこの場を早く撤収しなくてはならない。

 ノクトは、少女に対して声を柔らかくして言う。

「そのわからずやの父親、オレも一緒に説得してやろう」

 すると、リリィの顔はぱっと明るくなった。

「ほんと?お兄ちゃん」

「嘘は言わないよ」


 少女に対する回復魔法を終えたフィーネが、気付くとノクトの腕に回復を施しながら言った。

「ノクト先輩って、実は、けっこう優しいんですか?」


 それを聞いて、呆れたようにノクトは言った。

「オレのことを何だと思ってるんだ」

「え……人非人……?」

お読みくださりありがとございます!

第一章は、次話完結です。

★やブクマ、ご感想やリアクションなどなど、いただけると嬉しいです!

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