9「エルムへ帰ろう」
アルメリカに着いて、セレスとデートをした翌日。
俺たちは三人そろって市場へと来ていた。といっても特に目的はなく、少しぶらぶらしたらエルムに戻る予定だ。昨日はフィオ抜きで楽しんでしまったからな、今日は三人でパーっと遊ぶぞ。
「二人とも見てみろ!」
フィオは市場を見て大はしゃぎだ。向かった店には冒険用の靴が並んでいる。
「......高いわね」
フィオが特に目を光らせたのは魔法道具の靴だ。履くと脚力が強くなり速く走ったり高く跳んだりできる代物らしい。お値段何と金貨10枚。
「今の私たちには手が出せないエリアみたいね」
周りを見てみると、金持ちそうな奴や歴戦の冒険者のような風体の者が多い。少し浮いてるか俺達。
そんなこんなであちこちのエリアを見て回っている時だ。
「お前ら、まだいたのか?」
気づけばボルグの店の前を通っていた。俺達を見て声をかけてくれたらしい。
「そうだ、今日はエルムに行くんだけどよ、もう一回護衛受けてくれねえか?」
「なんだよ、二度と頼まないんじゃなかったのかよ」
「お前らなら雇うのが安くて助かるんだよ。どうだ、今度は銀貨六枚で」
「二人ともどうだ?」
「私は構わないわよ」
「どうせ戻る予定だったから私も構わない」
「よし、のった」
「じゃあすぐ出発だ。街の出入り口近くの待合所にいるから早めに来いよ」
ということで、俺たちはもう一度護衛依頼をすることになった。
それにしても銀貨六枚とは、太っ腹だな。
さてと、準備するか。宿に荷物も預けっぱなしだからな。
「ああいった行商と専属契約を結べたり出来たら、金銭的にはかなり余裕ができるわよ」
「そうなのか?」
「ええ、ギルドを通さずにやり取りができるから、仲介料も取られなくて行商側も儲かるし、冒険者側も安定した収入になるのよ。デメリットは、ギルドのサポートが受けられなくなることね。依頼じゃないからランクも上がらないわ」
「へぇ」
「もしそういう話が出たときは、クオンの判断に任せるわ」
「私もクオンの決定に従う」
「考えておくよ」
収入かぁ。安定した生活を送るなら考えないといけないよな。専属契約ならお金を貯めるっていう選択肢もできるだろうし、宿じゃなくて専用の部屋を契約できるかもしれない。でも仕事に責任ができ、プロにならなければならないという事でもある。悩ましいな。冒険も、好きなところにはなかなか行けなくなるんだよな。
俺はまだいっぱい冒険してみたいからな。もしボルグからそういう話が出たら、ありがたいが断ろう。
まあ、ボルグにその気はない可能性の方が高いとは思うが。
「さて、行くか」
ということで待合所。多くの馬車が並んでいる。エルムでも街の出入り口に行商が並んでいたりするが、比ではないな。さすが商人の街だ。
少し探していると、ボルグがいた。
「遅い、ほれ行くぞ」
ということで出発。たった一日程度の滞在だったが、良い思い出が出来た。また来たいな、アルメリカ。
さてと、今回も二日程度の旅路だ。
何が起こるものかと身構えて見れば、多少の魔物には俺とフィオの二人で対処可能だったし、セレスの料理も相変わらず美味かった。一日目の夜も何事もなく過ぎた。
二日目、フィオが沼にハマったくらいでこの日も特にトラブルなし。セレスの料理も美味い。
夜の見張り番、俺は三番目だった。ここから朝になってみんなが起きてくるまでの見張りだ。
火の前で、俺は少しウトウトしながら番をする。ここ最近、というか転生後は色々と頑張って来たからな。少し疲れているかもしれない。たまには一日中寝る日があってもいい。
「ふあーあ」
さて、不用意な欠伸が出て、目を擦ると目の前に人影が見えた。
フィオでもセレスでも、ボルグでもない。
俺は立ち上がり剣に手をかける。
「誰だ」
この辺は治安は良いらしいが、盗賊のような連中もいるにはいるらしい。
敵なら、大声を出して危険を知らせないといけないな。
「す、すみません」
火に照らされて出てきたのは女の子だ。白を基調とした、青と金の装飾が入った聖職者風のローブを着ている。大きめの杖も持っているな。しかし全体的に汚れている。肩まで伸びている金髪も、普段ならもっと綺麗に見えるのだろう。
「怪しいものではありません」
一見、害はない。だが罠かもしれない。
「まずは名乗ったらどうだ。おかしな真似をすると仲間を呼ぶからな」
「私の名前は、エリ......シア......」
女は倒れそうになった。まずいそのままだと火の上に倒れる。
俺は咄嗟に、エリシアと名乗った女の子を支える。
気を失っている。罠では、なさそうな気はする。うーん、少し心配だな。フィオ辺りを起こして判断を仰ぐか。
「なによ......まだ暗いじゃない」
「一応緊急事態だ」
「......分かったわ」
緊急事態と聞くとフィオの顔は一気に引き締まった。こいつのこういうとこ、かっこいいな。
外に出て、横たわらせたエリシアを見せる。
「この子、確かエルムの教会にいた子よ。何度かギルドでも見たことある気がするわ」
ならば盗賊の手先ということはないか。
「名乗った瞬間、倒れたんだ」
「かなり疲労してるみたいね。一応このまま休ませて、ボルグさんが起きてきたら事情を説明しましょ」
やはりフィオを起こしたのは正解だったな。でも悪いことをした。
「休んでる所だったのにごめんな」
「いいわ、多分私に聞くのが正解よ。私もこの子を看病するわ」
ということで、フィオも一緒に看てくれることになった。
外傷がないか服の中も確かめようとしたため、俺は後ろを向く。
「......擦り傷は多いけど、大したケガはないわね。しばらく休ませていれば目を覚ますと思うわ」
「どうして、一人でこんなところにいたんだろうな」
女の子が一人、街中でも不安なシチュエーションなのにな。魔物や悪漢が出そうな街の外にいるなんて。
「何か事情があるのかもしれないわね」
二人でエリシアを看病しながら、俺たちは朝を迎えた。
ボルグが背伸びをしながら起きてくる。
「なんだ、その嬢ちゃんは」
「夜中に来てさ、倒れたから看病してたんだ」
「一応、知っている子なのでエルムの街まで連れて行っても良いですか?」
「あー、ちょっと待ってろ」
そういってボルグは馬車の方に向かった。少しして戻ってくる。
「一人分なら寝かせられるスペースがあった。そこに寝かせとけ」
「ありがとうございます。クオン、運ぶわよ」
ということで二人でエリシアを運ぶ。馬車について、中を確かめる。見ると箱が並べられていて、その上に俺達が寝床にしていたような厚めの布が敷かれていた。ボルグ、優しいな。
「どうした」
セレスも起きて来たので事情を説明する。
「なるほど」
そう言ってセレスはエリシアをじっと見ていた。
「何か気になるのか?」
「......相当な魔力を感じる」
杖も持っていたし、魔法使いなのだろう。しかし、セレスもレベルだけ言えば凄腕の魔法使いだろうに、そのセレスが認めるとなればこの子もかなりの使い手なのかもしれない。
「じゃあ、行くぞ」
準備ができたところで、俺たちは出立した。
ボルグは道中何度か馬車を止めて、中にいるエリシアの具合を確認をするように指示した。こいつ、本当に良い所があるな。
お昼を過ぎたころだろうか、馬車からひょっこりとエリシアが顔を出した。
「あの、すみません」
その声を聞いて、ボルグはもう一度馬車を止めた。
俺はかくかくしかじかと、昨日の様子やらここは護衛の馬車の中だとか、そういう事情をパッと説明した。
「ご迷惑をおかけしました」
エリシアは俺とボルグに頭を下げていた。
「俺は何もしてないよ。君を看病してたのはフィオだ」
親指でフィオの方を指すと、フィオに向かっても頭を下げる。
「すみません、ここからは一人でも大丈夫です。このご恩は必ず」
「嬢ちゃんもエルムに行くんだろ。一人分荷物が増えたところで大して変わんねえから、街まで横になっときな」
というボルグの計らいで、エリシアはエルムまで同行することになった。ほんま、ボルグさんには頭が上がりまへん。
ということで再出発して、エルムに着いたのは夕方だ。なんか、帰って来たって感じがするな。
「本当に、ありがとうございました」
エリシアは深々とボルグに頭を下げていた。
「おう、いいってことよ」
ボルグは笑ってエリシアに軽く手を振って俺の方を向く。エリシアはフィオの方に向かっていた。
「おう、今回もご苦労さん。これが報酬だ」
貰ったのは銀貨七枚だ。六枚のはずでは。
「一枚は、あの嬢ちゃんにだ。それで飯でも食いながら相談にでも乗ってやれよ。何かしら事情があるんだろ」
「ああ、分かった」
「あとよ、話があるんだが」
そういって、ボルグは切り出した。
「お前らのパーティーと俺で契約しねえか。エルムとアルメリカの往復で銀貨十二枚出す。悪い話じゃねえはずだ」
「ありがたい話だけど、断るよ。まだ俺は自由に冒険したいんだ」
「そうか」
本当に誘われるとは思わなかった。銀貨十二枚。つまり金貨一枚と銀貨二枚だ。あまり冒険者の金銭事情には詳しくないが、悪い話ではない。しかし、やっぱり俺はこのパーティーでいろんなことをやりたい。
「まあ、たまにでも受けてくれや。その時は弾むからよ」
「ああ」
「せっかく安く雇えると思ったのによ、残念だぜ」
「そんな魂胆だろうと思ったよ」
互いに軽く一笑いして別れた。本当に、たまになら依頼は受けよう。ボルグにはたくさん世話になったことだしな。
「腹減ったし、飯でも食いに行こうぜ。エリシアも来いよ」
ボルグの言うとおりに、その辺の飯屋に入って話でも聞くとするか。
俺たちは手ごろな店を見つけて中に入った。
席について、話を切り出す。
「で、なんであんなところにいたんだ?」
「......」
「話したくないならまあ別にいいけどさ」
「......実は、ダンジョンに挑みたくて」
ダンジョンか。俺たちはまだ挑戦したことが無いが、たいていはCランク以上になってから行くものらしい。
そんなところに、この子は一人で挑んだのだろうか。
「ちょっと待って、あそこら辺にあるダンジョンって......」
フィオには思い当たる場所があるらしい。
「はい、私はそのダンジョンを踏破しないといけないんです」
「無茶だ。一人でダンジョンは攻略できるものではない」
セレスもフィオも、ダンジョンについては知識があるらしい。俺は何もわからない。
「そのダンジョンって、どんなところなんだ?」
「......ダンジョン名は『嘆きの巣窟』です」
嘆きの巣窟。なんとなく、響き的にはゴーストとかが出てきそうだな。
「ここら辺で最高難易度の、八年くらい前にSランク認定を受けているダンジョンよ。まだ誰も攻略できていないわ」
「そんなところに一人で行こうとしたのか?」
そう言うと、エリシアは下唇をかんで俯いた。
しばらく沈黙が続く。やがて小さく息を吐いて、顔を上げた。
そして、目に涙を浮かべて言った。
「......そのダンジョンのボスであるアンデッドは、私の父なんです」




