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8「商人の街アルメリカ、そしてデート」


 夜の間も特に何もなく、朝から移動を開始して俺たちはお昼時に目的地に着いた。


「護衛お疲れさん、ここが商人の街アルメリカだ」


 ここでフィオが解説をくれる。それを聞きながら俺たちは街へと入っていく。

 商人の街アルメリカ、各地から商人が集まりあちこちで市が開かれている街。経済規模で言えば王都をもしのぐほどで、街を見渡して露天商がいないところを見つけるのが難しいと言われるほどに栄えている。さらに街は海に面している交易都市でもあり、海の向こうからも一発当てようと目をぎらつかせた商人や冒険者たちが集う。高台からの景観の美しさは王国の名所の中でも五本の指に入る。


「解説ありがと、大体分かったよ」


 とはいえ話だけじゃ分からない部分も多い。あとで色々見て回ってみるか。


「よし、到着だ。荷物を運んでくれ」


 街に入ってしばらく進んだところで、それなりに大きい建物の前に着いた。

 結構儲けてるんだなこのおっさん。


「あら、お早い到着ねあなた」


 馬車の音に気付いて、ボルグの奥さんらしき人が店の中から出てくる。

 かなりきれいな人だ。これが人妻系の魅力ってやつか。まだ俺には早い領域だ。


「ただいまハニー」


 んーまっ、とお熱くキッスを交わしている。依頼主に言うのもはばかられるが、結構きついぞ。


「おら見てねえで運べ」


 へいへい。

 昨日のうちにボルグが確認したところ、水が付着してもダメになった荷物はないらしい。運が良かったね。さっさと運び終わって報酬をもらって、パーっと遊びに行きたいところだね。


「お疲れさん、これが依頼金だ」


 俺たちは銀貨五枚を受け取った。ちょっと多くないか?


「なんだかんだ命も商品も無事で、予定通り順調に着けたからな。その分色は付けてある」


「おっさ......ボルグさん、ありがとうございます」


「おう、前半は聞かなかったことにしてやるよ」


 これだと今日はちょっといい宿に泊まれそうだな。


「宿も、少し離れてはいるが『止まり木』っていう宿で俺の名前を出すと良い。銀貨二枚で良い部屋に泊まらせてもらえる」


 宿まで!

 本当に頭が上がらない。


「また護衛が必要なときは言ってください」


「誰がお前らに頼むかよ。次からはもっとまともなパーティーに頼むわ」


 まともなパーティーじゃなくてすまんね。

 ボルグとの感動的な別れもありつつ、俺たちは早速宿へと向かった。

 宿でボルグの名前を出すと、あのおっさんにはいつもお世話になってるからねぇと言い結構大きめの部屋を用意してくれた。ベッドがちゃんと人数分ある。

 さてと、荷物もおろしてヒマだし街を見て回るか。


「私、行くところがあるから少し外すわ。夜には戻るから」


 と言ってフィオはすぐに何処かへと行ってしまった。

 となれば俺とセレスが残る。俺も行くか。


「クオン」


 部屋を出ようとしたらセレスに呼び止められた。


「ん?」


「一緒に街を回ろう」


「お、おう」


 セレスはこういう時に一人で過ごしたいタイプなのかと思ったが、そうでもないのか。


「デートというものだ」


 んん?


「おしゃれをするから待ってほしい」


 と言い、セレスはその場で服を脱ぎ始めた。俺はとっさに後ろを向く。


「お前なぁ、目の前でいきなり脱ぐなよ!」


「仲間に見られるのくらい大したことはない。減るものでもない」


「女の子として何か大事な物が減っちゃうの!」


 というかデートって、え?

 こいつ俺のこと好きなの?

 なんすか、モテ期来たんすか俺。

 いいでしょう、俺の経験のすべてを活かしてエスコートして差し上げましょう。


「終わった。出発しよう」


 着替え終わったらしいので、セレスの方を向く。

 いつもは黒いローブ姿なのに、おしゃれをしたというその服は青灰色のワンピースに白い薄手のカーディガンだ。青い魔石をあしらったネックレスも魅力に拍車をかけている。


「......」


「何をしているの」


 いかんいかん、見惚れてしまっていた。

 え、俺今からこの綺麗なお姉さんとデートするの?


「ごめん、行こうか」


 俺たちは宿を出た。

 道行く人が俺達を見ている気がする。俺達というより、セレスか。


「この先に魔法道具(マギア)の店がある」


 セレスに行きたいところがあるなら、付き合うか。


「魔法道具か、俺もちょっと興味あるんだよな」


 なんせ男の子だ。そういうアイテムには心が躍る。


「ならちょうどよかった」


 あれ、今微笑んだか?

 酔ったときの笑顔は見たことがあるが、素面のセレスの笑顔を見るのは初めてな気がする。

 俺のドキドキをよそに、セレスはすたすたと歩いていく。

 身長は俺より少し高く、少し大人っぽい彼女に俺は緊張してしまっている。そういえば、セレスはいくつなのだろう。


「セレスって、今何歳なんだ?」


「この間20歳になった」


 年上だ。お姉さん系だ。


「クオンは何歳?」


「俺は18だよ」


「......子供」


「うるせえやい」


 そんなやり取りをしていると、目的の店に着いた。

 中に入ってみると色々な魔法道具らしいものが置いてある。無造作に箱に入っている物から、ショーケースに入って奥に飾られている物まで様々だ。

 客は結構入っている。

 セレスは、相変わらず無表情だが少しそわそわしている。ここに来ることができて嬉しいんだな。


「クオン見ろ」


「どうした?」


「この魔法道具、掘り出し物だ。回路の通りが良い」


 露骨にテンション上がってるな。ちょっと可愛い。


「これは魔力増幅の魔石が芸術的」


 普段の五倍は喋っている。早口だ。

 なんかこいつ、楽しそうだな。


「クオン、これを使えば冒険が便利になる」


「結構安いんだな。どんなやつなんだ?」


 値段は銅貨6枚。低ランクの依頼一回分くらいか。


「腕に付けるだけで腕力が上がる。画期的に強くなるわけではないけれど、剣を持つのが少し楽になるはず」


 たしかにそれは便利だな。


「買ってくる」


「いや俺が買うよ」


「いい、今日はデートだからな」


 ちょっと待てこれでは俺はヒモだ。良いところを見せないと。


「買ってきた」


「ありがとう」


 他にも少しだけ魔法道具を見て、セレスも満足そうにしていたので俺たちは店を後にした。


「セレス、お腹空かないか?」


「確かに、まだお昼を食べていない」


 よし、今度は俺の番だ。


「向こうから良い匂いがするし、行ってみようぜ。食べ歩きできるかも」


「分かった」


 俺の鼻の言う通り、向かった先には屋台が並んでいた。買い食いできそうだな。


「何か苦手な物とかある?」


「特にない」


「じゃあちょっと待ってろよ」


「私も買いに行く」


「いいのいいの、デートだからさ」


 俺は屋台に並んで串物を買ってきた。野菜と肉が刺さって美味そうな匂いがしている。

 何本か買ってきたので、それをセレスと分けながら食べ歩く。

 さっきの店と違って会話は少ないが、なんだろう、普通に楽しい。


「今度はあれが食べたい」


「美味そうだな」


 そんな感じで、俺たちはいろんな屋台を見て回りお腹を膨らませたのだ。

 さて、日も落ち始めて街が少しオレンジ色に染まる。

 街に入る時にフィオが言っていた場所に行きたい。


「なあ、フィオが言ってた高台に行ってみないか?」


「分かった」


 ということで高台。人が結構いるな。流石観光名所なだけはある。

 登るのに少し疲れたから、良い景色だと甲斐があるものだが。


「......うわぁ」


 予想以上だった。

 眼下にはアルメリカの街が広がっている。昼間は騒がしくて大きかった街も、ここから見れば小さく綺麗なものに見えた。夕日に染まる屋根の向こうには港があり、さらにその向こうには広大な海が広がっている。水平線の近くまで沈んだ太陽が海面に光の道を作っていた。


「......綺麗だな」


「正直......」


「ん?」


「正直、景色には興味が無かった。今までそういったものを見ても何も感じなかった」


 あれ、そうなのか。俺だけ行きたいところに付き合わせてしまったか。


「でも、この景色は何か心に来る。もしかしたら、クオンと一緒に見ているからかもしれない」


 だめだ、多分俺の顔は今真っ赤だ。夕日で誤魔化せるだろうか。


「......綺麗だ」


「そうだな」


 今の綺麗は、セレスを見て口から零れてしまった。

 夕陽に照らされる彼女の少し赤くなった頬、風でなびく髪、それらが彼女の魅力を引き立てた。


「クオン」


「なんだ」


「今日は楽しかった。ありがとう」


「俺もだよ」


 気づくと、夕陽はほとんど水平線の向こう側へと沈んでいた。

 街のあちこちから明かりが灯り始める。


「そろそろ帰ろうか」


「ああ」


 俺たちは帰りにもう一度屋台に寄って、フィオへのお土産を買い宿に戻った。


「おかえりなさい」


 フィオは先に帰ってきていた。

 部屋に一緒に帰ってきた俺たちを見るや否や、少しムッとしたような顔をしている。


「なんか楽しそうね」


 セレスの服だ。お洒落な服をした女と二人でお出かけしたのだ。そういう風に思われてもしょうがないか。


「明日はフィオも行こうぜ。用事は済んだんだろ?」


「まあね」


「フィオにお土産も買ってきた。一緒に食べよう」


 セレスが出した包みを見て、機嫌は直っていた。

 食べ物の力は偉大だな。

 疲れも出て眠くなり、ベッドに入ろうとしたとき、セレスに呼び止められた。フィオは今お手洗いだ。


「クオン」


「どうした?」


「今日は楽しかった」


「さっきも聞いたよ」


 少しだけ間を置いて、セレスは続けた。


「またデートをしよう」


「......おう」


 俺はベッドに潜り頭まで毛布をかぶった。今顔を見られたらまずい気がしたからだ。その日の夜は、少しだけ寝付きが悪かった。

 後日、セレスはデートを『男女が出かけること全般』を指すことくらいにしか思っていなかったことが判明する。

 俺のときめきを返して欲しい。






これにて第一章『不幸な異世界転生』完結です!

ここまで読んでいただき誠にありがとうございます!

ブックマークや感想、レビューなどいただけるととても励みになります!

次回からは第二章!

これからもクオン達をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
第一章読みました。すごく面白い。テンポもよくて、ギャグセンスも下品ではなく読みやすかったです。応援してます。
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