7「護衛依頼」
セレスが加入してからというもの、俺たちは順調に、極めて順調に依頼をこなしていた。
「排除する。愚かな敵を焼き払え、テラーー」
「それじゃ俺たちまで焼き払われるだろうが!」
「もっとこじんまりとした魔法を使いなさいよ!」
「分かった。燃やせ、『火球魔法』」
「それでも十分威力すげえよ!」
「今のは最初級の炎魔法だ」
「最初級で何であんな爆発みたいなのが起こるのよ......」
どうやらセレスは魔法を唱える際、必ず威力を最大限にして放出しているらしい。調整は出来ないのかと聞いたところ、弱い魔法の使い方を忘れてしまったとのことだ。
しかしやはり戦闘面で俺たちのパーティーは格段に魔物を倒しやすくなったと言える。前衛のフィオ、後衛のセレス、賑やかしのクオンだな。いや、俺だってもうちょっと役に立ちたいんだよ?
「だいたいあんたねぇ、そんなに炎魔法ばかりだと荷台に燃え移るかもしれないでしょ!」
「敵は燃やした」
「いや荷台も燃えてるからね!?」
見れば荷台の幌の端っこが燃えている。
「俺の商品がぁぁぁ!」
さて、今回俺たちに護衛の依頼を出したのは今泣き叫んでいるボルグという行商人だ。冒険者の街エルムから歩きで二日程度の場所にある、商業の盛んな街への移動だ。どうやらエルムで良い商品を仕入れられたので、自分の店の在庫にするために帰るらしい。まあ、その良い商品が今焼失しかけているわけだが。
「セレス何とかしてくれ!」
「了解。流せ、『水流魔法』」
荷台の上から水が滝のように落ちる。
火は消えたが、あれじゃ中まで水浸しになったのではないだろうか。
「なんなんだお前たちは......」
ボルグは顔をしかめた。いや、本当にごめん。
「申し訳ないです」
今後もありそうだな、セレスのやらかしを俺やフィオが謝り続ける展開。
さらに崖の下側を通ろうとしたとき、大きい音を立てて荷台の車輪の片側が外れてしまった。
これでは進めないな。
「昨日整備したんだぞ!?」
「......フィオさんや」
「待ってよ、私の所為じゃないわよ!」
あちゃーという雰囲気が漂う中、今度は前方で大きな轟音が鳴り響いた。
「今度はなんだよ!?」
もうボルグは涙目で叫んでいる。
音の方を見ると、崖からの落石だ。かなり大きい......待てよ、あのまま進んでいたら俺達ぺしゃんこだったんじゃないか?
「運が良いのか悪いのか分からねえよ......」
ごめんなボルグ、俺もよく分からんよ。
ということで車輪の修理だ。一度荷物をおろしたが、なかなか馬車が持ち上がらない。
「てこを使えばいいんじゃないか?」
「てこ?」
ああ、てこの原理といっても伝わらないのか。いやこの世界にもそれくらいの物理知識はあってもいいと思うんだけれど。
ともあれ、岩とその辺で調達した丸太と、あとはフィオを使おう。
「フィオ、そっち踏んでくれ」
「ここ?」
「ああ、思いっきりな」
「分かったわ」
フィオが丸太の端に体重をかけると、重たい荷台がゆっくりと持ち上がった。
「私の体重で、持ち上がった......!?」
「これがてこだ」
心配するな、お前が太っているという事ではない。
「よし、あとは俺の仕事だな」
ボルグは慣れた手つきで車輪をもう一度取り付けていた。
「クオンは使えない割りに便利なことは知っているな」
「それ褒めてる?」
「半分」
「セレスはあれ、何とかできるか?」
俺が指さしたのは、大きな落石だ。人だけであればよじ登って通れるが、馬車は通れまい。
「任せてほしい」
「頼んだぞ」
岩を片付けるのであればセレスの大魔法が最も適切だろう。
「砂塵と化せ、『土壊魔法』」
ものの見事に岩は崩れ落ち、今度は砂山が出来た。
「風よ現れろ、『突風魔法』」
そして風を起こして砂はどこかへと飛んで行った。
いや、想像以上に便利だな魔法って。
「おい」
振り返ると、ボルグが頭から砂まみれになっていた。
「お前ら次からはぜってえ雇わねえからな!」
さーせん。
こんな感じで、その後も多少のトラブルはありつつも護衛任務は無事初日を終えることができた。
このペースだと明日の昼過ぎには到着できるとのことだ。
「今日はここまでだ。暗くなる前に野営の準備をするぞ」
というボルグの指示の元、俺たちは野営の準備を進める。
「俺は荷物と荷台の手入れがあるから、火起こしと料理は任せる。食材はここにあるやつを好きに使え」
「分かったわ」
さて、役割分担だ。
「この中で、料理ができる人?」
俺が聞いてみると、セレスが自信ありげに手を挙げた。
「......大丈夫か?」
正直、不安しかない。どうせ焼き焦げた料理を作って、火は通っている、とかそういうことを言うに違いないのだ。
「任せてほしい」
まあ、ここまで自信があるなら任せてもいいのか?
不味い出来なら次からは作らせないようにしよう。
「じゃあ俺とフィオで薪を集めるか」
「そうね」
ということで二人で薪を集めることになった。
とはいえ、ここでも大きなトラブルはなく俺達が薪を集め終わって戻る頃にはセレスが野菜を切り終わっていた。ぱっと見、綺麗に切れているな。
「火を点ける。燃やせ、ファイアーー」
「待て待て待て」
セレスが火を点けると絶対にろくなことが起こらない。かといって、どうやって火を点けようか。小学生の頃に火起こし体験を臨海学校で経験したことがあるが、上手くいくだろうか。
「なら、クオンが魔法を使えばいい」
「でも、魔法なんて俺知らないぜ?」
「大丈夫、クオンには少しだけ魔法の才能がある」
ほほう、俺様が天才魔法使いとな。
「杖が無くても初級の火魔法くらいは使えるはず。詠唱は教える」
とのことで、俺が魔法を使って火を点けることになった。
「さあ、やってみて」
魔法を使うぞ、と意気込んでイメージを固め、詠唱を唱えることで魔法は発動するらしい。
右手を伸ばし、手を組み上げた薪へと向ける。
「やるぞ。燃やせ、『火球魔法』」
胸のあたりから何かが出てきて、それが右の掌に集まっていく感覚がある。これが魔力の流れか。その何かが炎に変換され、野球ボールくらいの大きさの火の玉が出来上がる。あとは、押し出すイメージ。
「できた!」
無事に薪に火が灯る。セレスのと比べると百倍ほど威力が違うが、俺にも魔法は使えたのだ。
「へぇ、これ戦闘でも使えるんじゃない?」
確かにそうだな。剣と魔法を組み合わせて戦えば、フィオとは違った戦い方が出来そうだ。
「そういえば、フィオは何か魔法が使えないのか?」
「私はからっきしね。一応、一つだけ使える魔法はあるんだけど」
「どんなやつ?」
「......内緒よ。必要になったら使うわ」
隠したいなら無理に聞き出す必要はないか。
さて、俺たちは座ってセレスの料理姿を見学する。今のところ怪しい所はない。
かなり慣れた手つきだ。調味料や香辛料も入れ過ぎということはないだろう。オフチョベットしたテフをマブガッドしてリットにするような、よくわからない調理をしているということもない。
少しするとおいしそうな具だくさんのスープが出て来た。これとパンで今晩のご飯だ。
「......おいしい!?」
あまりの美味さに俺とフィオは目を見合わせていた。
「なんだ、結構いけるじゃねえか」
厳しい顔をしていることが多かったボルグの表情も柔らかくなっていた。
セレスは本当に料理が上手だったのだ。
「なんでこんなに料理できるんだよ」
「料理は分量と火加減を守れば難しくない」
「火加減って、誰が言ってんのよ」
まったくだな。
「日ごろから魔法の加減もしてくれると助かるぜ」
「魔法の、加減......?」
「お前それ天然で言ってやがんのか」
とはいえ、料理ができるというのは本当に助かるな。これからも遠征することはあるだろうし、食の課題は絶対にあっただろうからな。俺が作ってもいいけど、男チャーハンしか出来ない。そもそもこの世界に米的なものはあるのだろうか。
晩御飯も終わり、片付けもした。あとはもう寝るだけだ。しかし、俺たちの任務は護衛である。夜は見張り番を交代でこなすことになる。
俺の見張りは二番目だ。セレスの番が終わり俺は起きて焚火の前で座る。星空を眺めながら暇をつぶす。することは特にないが、戦闘関連のシミュレーションは大変捗った。今回覚えた火球魔法、あれはかなり利便性が高い。敵の足元や顔に向けて放てばそれだけで相手に対応を強いることができる。他の魔法も、暇があればセレスに教えてもらおうか。
さてと、次のフィオとの見張り交代はまだ三十分くらい時間がありそうだな。早く寝たいものだが......ん?
「どうしたフィオ、まだ時間には早いだろ」
「起きちゃった」
目をこすりながらフィオが近づいてきた。
火に当たろうと俺の隣に座る。ちょっと近くないですか。
「......」
何を話すでもなく、少しの間沈黙が訪れる。待て、雰囲気が怪しすぎるって。
「ねえクオン」
「ひゃい」
悶々としていた俺はとっさに呼ばれてまともに返事が出来なかった。
「私さ、今すごく楽しい」
「どうしたんだよ急に」
「クオンと出会ってから、一緒に依頼をこなして、セレスにも出会ってさ。大変なことも多いけどちょっと前までの自分じゃ考えられないくらいに今が楽しいよ」
夜だ、ちょっとセンチになったのか。
「俺だって、こっち来てからバタバタして大変だったし何回か死にかけてるけど、前にいた世界より充実してると思う。お前らのおかげでな」
仲間が出来て、それなりにスリルのある冒険をして、毎日腹いっぱい飯を食って寝て、そしてまた冒険に出る。そのサイクルは楽しい。これがずっと続けばいいのになと思い始めている。
「......」
また沈黙だ。でも気まずさは感じない。うーん、彼女なんて生まれてこの方できたことはないが、ひょっとしてこれは良い雰囲気というやつではないだろうか。いや待てフィオは何を考えている、俺だけ舞い上がるわけにはいかないだろう。
肩が触れ合った。
「あ、ごめん」
俺がそう言うと、フィオと目が合った。綺麗な瞳だ。顔も、赤くなっていて、表情もどこか甘く感じる。いや待て、ダメだ。
「クオン、フィオ」
「ひゃい!」
少しだけ見つめ合っていると、今度はセレスが起きてきていた。すぐ後ろまで来ていたのだが気付かなかった。
「なんだよ、起きて来たのか?」
「トイレ」
おい雰囲気を返せ。
「セレス、一応女の子なんだから、せめてお手洗いってお行儀よく言いなさいよ」
「用を足すのが目的だ、トイレで十分だろう」
ほんとにこいつは。
「はあ。クオン、見張りはもう交代で良いわよ。明日に備えて休んで」
「あ、はい」
というわけで、俺は少しの気まずさとともに寝床へと戻った。
少しして、セレスもお手洗いから戻ってくる。
「......ずるい」
セレスが小声で何か言っていたが、俺にはよく聞こえなかった。




