3「キングなスライム、そして」
俺たちは薄暗い穴の中を進んでいた。
フィオが持っていた道具で、俺たちの周りは明るく照らされている。便利だ。
「こいつは魔法道具、魔力のこもったアイテムよ。ダンジョンから発掘されることもあるし、職人が作るものもある便利なものね」
とのことだ。そこそこ良いお値段がしそうなものだが、もしかしてフィオの家は太いのかもな。
「しっかし、フィオの不運には呆れるよ」
「うぅ、私だってやりたくてやっているわけじゃないわよ」
また泣きそうな顔になってる。
「なんか、フィオと一緒にいると俺まで不幸になりそうだな」
「......そうね、ごめんなさい」
いや、今のはちょっといじっただけだ。そんなに傷つかなくても。
「ごめん、嫌味を言うつもりじゃなかったんだ。ええと」
「いいのよ。実際、私は周りを巻き込んで迷惑をかけてしまうことが多いわ。そのせいで仲間もなかなか出来ないし」
ダメな事を言ってしまったな。謝らないと。
「フィオ、ごめ」
「待ってクオン、聞こえる?」
耳を澄ませてみると、ズウンと音が聞こえる。そして、背後から近づいている。
すぐにその正体は分かった。
半透明の、どろどろとした、そして俺の身長ほどもあるような巨大な姿。
「キングなスライムだ」
俺たちは走り出していた。
「巨大スライム、あの大きさならCランク相当の相手ね!」
「俺たちが戦って勝てる可能性は?」
「......万に一つよ」
「十分」
スライムはずんずんと跳ねながら俺達を追ってきていた。
俺は立ち止まり、剣を構える。
「馬鹿!」
「お前は先に逃げろ、ここは俺が時間を稼ぐ」
しかしフィオは逃げない。
「大丈夫、俺は運が良いんだ」
俺は巨大スライムに剣を突き刺す。しかし、奴は何ともないように触手を伸ばし俺を壁にたたきつける。
「ぐはっ!」
「クオン!」
フィオも俺と同じように剣を刺したが、やはり同じように壁にたたきつけられた。
やばいな、左手しか動かせない。
カッコつけたはいいけど、俺ここで死ぬのか。
窒息死はキツそうだなぁ。また転生できるのかな。
フィオは、死なせたくないな。
「......これは」
左を見ると、壁から細く水が飛び出ている。地下水のようなものでもあるのだろうか。
動かせる左手で、少しずつそこを掘る。
フィオは、まずいな。触手が顔に伸びている。
「よし、これでどうだ!」
壁を叩く。流れる水はどんどん勢いを増し、そして壁が大きく崩れて水があふれだした。
「おぼ、れる」
勢いはすさまじく、スライムの触手も剝がれて俺たちは流された。
スライムに刺さっていた俺の剣が、水流に流されてスライムを切り刻んでいた。そのまま死んでくれると大変助かる、が。
俺はそこで意識を失った。
夢、か。
いや、死んでしまったのか。
あのアルバイト女神が目の前に立っていた。
「神崎久遠さん、一つ言い忘れていたんですけれど」
「なんだよ」
「あなたの幸運の値、チートほどではありませんが少しだけ盛っておきましたよ」
「少しだけってどれくらい?」
「大さじ一杯分ですね」
「よく分かんねえよ」
いくら幸運が盛られてるって言ったって、死んだら意味ないじゃんか。
「まだ生きてますよ。ほら」
「え?」
瞬きすると、俺は青空の下にいた。
体はびしょ濡れだ。
「......フィオ!」
飛び上がって、周りを見る。ここは川辺か。
いた、横たわっている。死んだりしていないだろうか。
「フィオ、大丈夫か」
近くに寄ってみると、息はあった。なんか変な呼吸をしているわけでもない。
生きている。
「ク、オン」
体をゆするとフィオも目を覚ました。
「川に出たらしい」
「......みたいね」
スライムの姿は、見えない。
俺の剣は、近くに転がっていた。
「クオン、これ見て!」
起き上がったフィオはあるものを見つけてそれを拾いに行っていた。
少しどろどろとした物体だ。もしかしてスライムか。
「これは巨大スライムの核、とてもレアなアイテムだわ。素材屋に売れば金貨三枚はくだらない」
「まじか!」
「やったねクオン、あいつは死んだみたいよ」
俺は手を上に挙げた。それをみて、フィオも同じようにする。
「いえーい!」
ハイタッチだ。俺たちは運よく生き残った。
「よし、帰ろうぜ」
「うん!」
無事スライム討伐の依頼を終え、俺たちは帰路に就いたのだ。
帰りは何事もなく、街の前まで到着した。
「あの、クオン」
「なんだ?」
「その、ね」
「なんだよ」
なんかフィオが顔を赤くしてもじもじしている。こうしてみると、やはり美少女だな。
「よかったらなんだけど......」
「お、おう」
なんだよ、告白でもするのかよ。
「私と、パーティーを組んでほしい!」
「おう、いいぜ。よろしく頼む」
「ええ!?」
「誘っておいて何で驚いてるんだよ」
なんだよ、告白じゃねえのかよ。
でも、そうか。さっき仲間が出来ないとか言ってたもんな。
「だって私、今までパーティーに入れてもらえたことなんて無かったから。持ち前の不運で仲間をケガさせたり迷惑かけたり、疫病神扱いもされたりして......」
「そんなの関係ねえよ」
「でも」
「今日だって死にかけたけど、生きてるしな。ついでに金貨三枚だぞ」
「過程を見なさいよ、過程を!」
そうだ、謝らないと。
「さっきは悪かったよ。お前も悩んでるのにあんなこと言って」
「いいわよ、事実なんだし。でも」
「でも?」
「今は不運じゃなくて、私も幸運ね!」
ニカっと笑って、フィオは走り出した。
危ない、惚れるにはまだ早いぞ俺。
「待てよ、そんなに走ると危ないぞ」
「あばば」
案の定フィオはすっ転んでいた。
こうして、俺は異世界で最初の仲間に出会ったんだ。




