2「最初の依頼」
あまり寝れなかった。
こいつが、フィオが隣で寝ていたせいだ。
最初は美少女と寝るということでドキドキして眠れなかったのだが、いざお互いに眠りに落ちると、まあこいつの寝相の酷さったら。
「いてて」
2回ほどベッドの下に蹴落とされてからはもう諦めて床で眠っていた。
不運だ。まず宿が一部屋しか取れなかったことが不運だ。
「あれ、いないのか」
ベッドにはフィオの姿はなかった。
しかし荷物は置いてあるため、どこか近くにでも出かけているのだろうか。
顔でも洗うか。
「あっ」
顔を洗うため、水場のドアを開けたのだが。フィオはそこにいた。
水浴びをするために、服を脱ぐところだったようだ。
赤だった。
「変態死ね!!」
やっぱり俺、運が良いらしい。
少ししてフィオが出て来たので、宿の一階で朝食をとることにした。
パンとスープ、想像通りの異世界の朝食だな。
おしゃべりしながら食べる。
「冒険者になるなら、まずはギルドね」
「そういえばフィオは冒険者なのか?」
「うん、まだ駆け出しだけどね」
「にしては結構良さそうな装備だな」
「......両親が少し工面してくれたのよ」
「故郷はこの辺なのか?」
「違うわ、ここから馬で一週間ほどの場所よ」
「そっか」
そんな感じで、朝食を食べ終える。
「それじゃ、着替えたらギルドへ行きましょ。覗かないでね」
「善処します」
ということでギルドにやって来た。
どうやらエルムは初心者から伝説級の冒険者まで様々な人材が集まる街らしく、そんな街の冒険者ギルドはそれはもうかなり立派なものだった。おそらく四階建ての建築物で、一階は様々な冒険者が集まる受付兼集会所になっている。二階は凄腕の冒険者のみ立ち入り可能らしく、三階より上はギルド職員のみ立ち入り可能だとか。つまり現時点では俺たちは一階にしか用が無いってことだな。
中に入る前から喧噪は外に漏れており、非常ににぎやかなのが見てわかる。朝から活気があるな。
「緊張してる?」
「まあね」
「すぐ慣れるわよ」
そう言ってフィオがギルドのドアを開けた。
「すげぇ」
思った通り、中からは冒険者達の元気な声が聞こえて来た。
たくさんの机が並び、奥には受付らしい場所がある。簡単な酒場もかねているらしく、朝から飲み会を開いている冒険者もいる。
「ここが冒険者の街エルムの冒険者ギルドよ!」
「本当に凄いよ。凄いとしか言葉が出てこない」
「さっそく受付に行きましょ」
受付は窓口が8つで、ちょうど1つが空いていた。
「ようこそ冒険者ギルドへ!」
胸元の開いたセクシーな制服を着た受付嬢からの元気な挨拶に思わず鼻の下を伸ばしそうになるが、隣の赤毛女からの冷ややかな目線を受け居住まいを正す。
「冒険者になりに来ました」
「新しい登録ですね、そちらの方もご一緒ですか?」
「私はもう登録済みなので、この人だけお願いします」
「かしこまりました。ではこちらに手をかざしてください」
受付嬢が取り出したのは真っ黒な板だ。石っぽいな、石板か。
言われた通りに手をかざすと、石板に文字が浮かび上がった。
凄いな。何かオーバーテクノロジーっぽい感じもするが。
「クオン・カンザキさん、珍しい名前ですね。特に収監歴は無し、要注意情報も無し......はい、問題なさそうですね」
どうやらこの石板には俺が前科持ちかどうか調べる機能があるらしい。昨日の拾得物横領はノーカンだ。
「特殊な功績等も無いようなので、まずは一番低ランクのFランク冒険者としての登録になります。Fランクの方はFとEランクの依頼のみ受注可能です。基本的に、自身のランク以下または自身のランクの一つ上までの依頼を受注することになります」
最初は落とし物探しとかペット探しとか、簡単な魔物の討伐とかそんな感じになるんだろう。
「依頼をこなすことでランクは上がるので、ぜひ最高のSSランクを目指してくださいね」
普通のファンタジー作品ならSランク以下の冒険者はかませになるんだろうな。俺はかませにすらなれない市民Fからのスタートだ。
「ではこちらが冒険者カードになります」
こっちの世界での初めての身分証だ。顔写真は付いていないが、俺の名前とランクと職業名が書いてある。どうやら俺の職業名は『見習い』らしい。
「頑張ってくださいね」
「ありがとうございます」
これで晴れて冒険者だ。ほどほどに冒険してほどほどに稼いで、将来は畑と小さな家でも買ってのんびり暮らそう。
「おめでとうクオン、じゃあさっそく掲示板を見に行くわよ」
フィオに案内されて今度は大きな掲示板の前に来る。依頼書がずらっと貼り付けられている。
「大体左側に低ランク依頼が置いてあって、右側に進むほど高ランクの依頼に変わっていくのよ。まずはこの簡単なスライム討伐依頼でも受けてみましょ」
見てみるとFランクの討伐依頼だ。
近くの草原に出たスライムを複数討伐してほしいとのことだ。スライムの所為で土壌が荒れてしまうらしい。
「さっき受け取ったカードをこの依頼書の上にかざしてみて」
言われた通りにカードをかざしてみると、受注者の欄に俺の名前が刻まれた。
「これで受注したことになるのか?」
「そうよ。ついでに私も」
フィオも同じ依頼に名前を刻む。
「元の受注者の目の前で名前を刻むのが共同受注のマナーよ。パーティーを組めば、勝手にパーティー名で登録されるようになるわ」
パーティーか。そういえばフィオは誰かと組んでいるのだろうか。聞くのは後にしておくか。
「ついてきてくれるのか?」
「まあ、街に来るまでに助けてもらったし、宿も手配してくれたことだし、お礼に冒険者のことは一通り教えてあげるわ」
ありがたいな。正直、戦闘で役に立つのかはよく分からないが、一緒についてきてくれるのならば心強い。
「じゃあ早速出発しましょ!」
ということで俺たちはギルドを後にした。
「あれはなんだ?」
「あれは市長の家よ。この街で一番豪華な家」
道中は街中の事を聞いた。武器を作ってくれる店、防具を作ってくれる店、便利なアイテムを売ってくれる店、素材を換金してくれる店など、色んな場所を紹介してくれた。
「ところで気になっていたんだけど、フィオは何歳なんだ?」
「いくつに見える?」
うわ、これが噂に聞く例のアレだ。目の当たりにするのは初めてだな。
「22」
「失礼な、まだ18歳よ」
「なんだ、同じなのか」
「クオンはまだ16くらいだと思ってた」
そっちこそ失礼じゃないか。こっちはもう十分立派な男の子なんだぞ。
そんな感じで他愛もない会話をしながら、街の外に出た。街は外壁で守られているが、街の外にももちろん人は住んでいる。農家や木こりなどはその割合が高いという。
小一時間ほど歩くと、スライムがいる草原に着いた。
「あれよ。一匹の戦闘力はかなり低いけど、複数匹に襲われて顔にまとわりつかれたりなんかしたら息が出来なくなって命を落とすことになるわ。10匹程度が合体して大きな個体になることもあるわね」
まじか、キングなスライムだな。
よくよく見てみると、某RPGみたいに可愛い顔が付いているわけではなく、ただの半透明のどろどろしたモンスターといった感じだ。
「危なくなったらお互いで助けましょ。じゃあ、やるわよ」
そういってフィオが走り出した。
剣を振り上げ、一匹目に斬りかかる。
「あばば」
飛び散ったスライムの一部が顔面に張り付いたようだ。
「何やってんだ!」
「げほっ、ごめん」
本当に運が悪いなこいつ。
とはいえ、流石に俺よりも手慣れた冒険者だ。俺が1匹倒す間にフィオは3匹のスライムを倒していた。
「あれで最後ね」
フィオが最後の一匹を見つけて踏み込んだ瞬間だった。
「え?」
地面が沈んだ。
俺の立っている場所もどんどん地面が崩れ始めて、フィオと俺は落っこちた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「......オン、クオン!」
意識を失っていた。どれくらいだ。そんなに長くは経過していないはずだが。
「ここは一体?」
「落ちたみたい。登れそうもないわね」
上を見ると、空が見える。20メートルはあるだろうか、土がクッションになって大怪我は免れたらしい。
「進むしかないな」
目の前には、直径3メートルはあるだろう大きな穴が広がっていた。




