1「Unluck」
神崎久遠は少しだけ運がいい。
俺が渡ろうとした信号は大方が青に変わってくれるし、ソシャゲのガチャはすぐに欲しいキャラが出る。アイスを食べれば当たり棒がちょくちょく出るし、くじ引きも2等とか3等が出やすい。1等は流石に中々出ないけど。
こんな感じで、俺の人生はちょっとだけ運がいい。
「なんか、お前じゃんけん強くね?」
今日も教室掃除のじゃんけんに勝ったところだ。
「じゃ、あとは任せた!」
悔しがるクラスメイトを置いて、俺は家路につく。
今日はポップコーンを買って家でのんびりと映画でも見るとしよう。
夏休みも目前で楽しみだな。まあ受験勉強に消えるけどさ。
高そうなマンションの横をルンルンで通ろうとしたその時、俺の意識はブレた。
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「いらっしゃいませー」
一瞬だったと思う。ほんの一瞬意識を失って、気づいたらなんか変な場所に立っていた。
目の前には、何か顔がテカっててよく見えない、多分女だなこれ。女がいた。
なんか神々しそうな声で、コンビニ店員みたいな挨拶をしていた。これは俺に向けて言ってるのか。
「えーと、ここは?」
「ここは死後の世界。神崎久遠さん、あなたは死んでしまったのです」
えぇ......。俺死んだん?
「家に帰ってるだけだったんだけど、一体どうして?」
「マンションから落ちて来た植木鉢で、脳天カチ割れ即死コースです。現場の状況見てみますか?」
女は手に持っていたタブレットらしい物の画面をこちらに見せて来た。いや、グロい。
「大丈夫です。後でモザイク処理をしておきますから」
「モザイクは今かけてほしいの!!」
とんでもないものを見て吐きそうだが、一旦抑える。
「ちなみに犯人は猫ちゃんです。可愛らしいですね」
今度は猫の写真を見せて来た。確かに可愛いが。
いや、本当に俺死んだのかよ。
「ちなみに、帰り道の信号がどれか一つでも赤だったら植木鉢には当たりませんでしたよ」
「運が良かったせいで死んだのかよ」
まさか、俺の幸運が死因になるなんて。
「俺はこれから天国ですか?」
「天国に行ける前提なんですね~」
うるせえよ。そんなに悪いことしてきたつもりはねえぞ。
「まあ、天国には行けるんですけれど、今ちょっとしたキャンペーンをやっていまして」
「キャンペーン?」
「U20応援キャンペーンで、20歳未満で亡くなった方を対象に別の世界での転生プログラムを実施中です」
「なんでスマホのキャンペーン風なんだよ」
この女と話すだけでちょっとムカついてきたな。ていうか誰だこいつ。
「私は女神。死後の世界で迷える子羊ちゃんを導く女神です。あ、宗教的な話するとややこしいんで、何教の女神とかそういうのは考えないでくださいね」
こいつ、心が読めるのか。
「読めますよ~。失礼なこと考えたら地獄に落としますからね」
「いや女神あまりにも器小さいな」
「はい10地獄ポイント。あと10ポイント貯めたら地獄行きです」
「たぶん今までのやりとりであんたにも15くらい溜まってるよ。一緒に地獄行きだな」
「まあ地獄は一旦置いといて」
女神を名乗る女はまたタブレットらしいものをイジリ何かを見せて来た。
「今回ご紹介する世界は、こちらの世界ですね」
なにか蠢いてるように見えるが、なんだこれ。
「地球で言うところのアメーバ的なやつです。まだまだ進化の途中ですね」
「いやアメーバにはなりたくねえよ!?」
「わがままさんですね。ではこちらは?」
今度はなんだ、光が見える。
「培養中の細菌ですね」
「まだアメーバの方がマシだよ!」
「ではアメーバ行き、と」
「ちょちょちょ、待ってくれよ、なんかこう転生って言ったら剣と魔法の異世界とかさぁ、冒険者としてチートを貰いながら無双するとかさぁ」
「それで女の子にチヤホヤされて」
「そうそれ!」
この女神、分かっているじゃないか。
「でもそういうキラキラした世界で人間として生まれるには、前世での徳ポイントが無いと紹介できないんですよねぇ」
「ちなみに俺の徳ポイントと、必要な徳ポイントは?」
「神崎久遠さんの所持ポイントは3。必要なのは10万ですね」
全然足りんやんけ。
「ただし今回に限って、5ポイントで紹介可能です」
うーん、あと2ポイントはどうしたものか。可愛らしい女神様なら何とかしてくれるのかな。
「ただいま神崎久遠さんの徳ポイントが5になったため、こちらの世界への転生で申請しておきますね」
なんだこいつ、ちょろ......いや、素直で可愛らしい女神様だな。
「向こうに着いたら、冒険者になることをお勧めします」
「冒険者か、鉄板だな」
「魔王に侵略されているとか、そういう事はありませんが魔物は多いですからね。引く手数多ですよ」
じゃあ魔物を狩って程よく稼いで、そんで後はのんびり暮らすスローライフだな。仲間とか、できると良いなぁ。
「では、もう転生の準備ができたので送っちゃいますね」
お、もう行くのか。剣と魔法の世界。
「では、良いセカンドライフを」
女神は、手を振って俺を見送った。
光が俺を包み、そして俺を新たな世界へと誘う。
「楽しみだな。異世界ライフ」
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......ここは?
なんかちょっと暗くて、蠢いているような。
手足の感覚が無い。というか何も見えない。
一体どうなっているんだ?
......ちょっと待て、これは。
「アメーバやないかい!!」
突如辺りが熱くなった。
そして俺は、蒸発した。
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「ここは死後の世界。アメーバさん、あなたは死んでしまったのです」
「死んでしまったのです、じゃねえよ!」
シバキ回してやろうかこの女。
「誰がアメーバじゃい!!」
「すみません、ちょっとした手違いでした。」
「手違いだぁ?」
なんでこんな短い期間で2回も死なないといけないんだ。
こいつ、絶対にシバく。
「まあまあ落ち着いて、次こそちゃんとしますから」
「本当だろうな」
「はい、今度こそちゃんとしました。上司からのハンコもいただいてます」
「上司って何だよ」
「まあ私アルバイトの女神なので、ちょっとしたミスは許してください。てへぺろ」
もうツッコむ気力もない。早くしてくれ。
「では、もう一度送りますね。良いサードライフを」
もう一度、光が俺を包む。アメーバだけは絶対に嫌だ。
「あ、チートの付与を忘れました。まぁ、いっか」
おいふざけんな。
でも、次の世界ではのほほんと楽しく過ごしたいな。
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「んぁ......」
どうやら横になっていたらしい。目は......開く。
手足も、ある。人間の肌だ。
どうやら今度はアメーバにならずに済んだらしい。
「よっこらせっと」
ここは、草原だな。見渡す限りの緑だ。
街は見えない。
「とりあえず、歩くか」
歩きながら色々と確かめる。
服装は、なんか新人冒険者っぽい感じだな。革靴に青いシャツに革のベスト。ズボンもなんかちょっと革っぽい。革統一装備だ。
鉄っぽい剣も腰に下げている。
女神はチートの付与を忘れたと言っていたが、最低限は用意してくれたらしい。
しばらく歩くと、立て看板と畦道を見つけた。
「右に街があるのか」
異世界の言葉は読めるのか不安だった。実際ぱっと見はよくわからない文字だったが、まじまじ見ると日本語として読めた。女神が翻訳機能を付けてくれたって事でいいのか。この分だと会話も大丈夫なのだろうか。
とりあえずは街があるらしい方面に歩く。
またしばらく歩くと、道の先に森が広がっていた。
「なんか危なそうだけど、入るしかないか」
ということで森の中。熊さんとは出会いたくないな。
......ちょっと薄暗くて怖い。歌でも歌おう。
「ある日、森の中」
木々の奥からガサガサと音が聞こえた。
......え、魔物?
「グルルル」
「イノシシに、出会った」
イノシシらしき紫色の魔物は一直線に俺の方へ走ってきた。
「ぎゃあああ!」
情けない声を出しながら俺は走った。しかし断然イノシシの方が早い。
どうしようどうしよう。ここで死んでしまったらまたアメーバの世界に行かされるかもしれない。
死にたくはない。
「危ない!」
走っていると、横からタックルを受けた。
「うぅ」
「立って!」
女の声だ。俺はこの人に助けられた。
イノシシは少し進んでから止まり、振り返って再度俺の姿を視認する。
「来るわよ!」
俺を助けてくれた女性は、赤髪で身長が高くスラっとしてて、俺の物より高価そうな防具と剣を装備している。かっこいい。
俺も剣を抜く。
「先手必勝!」
イノシシが再度突進を始める前に、女剣士は剣を振り上げて走り出す。
素人目から見ても、見事な構えだと思う。この女剣士は、強い。
「あっ」
その瞬間だ。女剣士の靴紐がほどけた。そして派手にすっころんだ。
「......た、助けて」
待て待て待て待て、あれだけカッコつけておいて靴紐がほどけるのはナシだろ。
「大丈夫か!?」
「大丈夫じゃないです......」
さてと、ちょいとイノシシの方を見てみますか。うん、もう突っ込んできてるね。
俺も剣を持っているね。うん、やるしかないね。
「うおおおお!」
剣の構え方なんて知らない。ただ上に振り上げて、走り出す。
「脳天、カチ割れろ!!」
トンッと、右足の先に衝撃が走る。
「うん?」
うん、木の根っこに引っ掛かりましたね、足が。
「......助けてぇ!」
森の中で転んだでくの坊が二人、もはやここで尽きる運命だ。
イノシシは相も変わらず突進してきている。
「ひぃぃぃぃぃ!」
俺の物か、女剣士の物かもわからない悲鳴が森の中にこだまする。
俺の異世界生活、これで終わりか。
そう思ったのだが、一向に終わりは来ない。
思わず閉じていた目を開けると、イノシシが横たわっていた。
「死んでる?」
頭に俺の剣が突き刺さっていた。
転んだ時に手放してしまった剣が刺さったらしい。
やはり、神崎久遠はちょっとだけ運が良い。
「私たち、生きているの?」
女剣士が立ち上がって近づいてきていた。
「立てる?」
手を差し伸べられ、俺はその手を取り立ち上がる。
「良かった、大したケガはなさそうね」
近くで見てみると、すごく整った顔立ちに、特徴のある赤毛。身長は俺と同じくらいか。美少女、と呼ぶにふさわしい姿だ。
「私の名前はフィオ。あなたの名前は?」
「俺の名前は......クオンだ」
「よろしく、クオン」
握手を求められ、俺は少しドギマギする。俺の異世界生活、出だしから順調かもしれない。
「助かったわね。まさか靴紐が解けてしまうなんて」
「いや、俺こそ突き飛ばしてもらえなかったら死んでいたかもしれない。ありがとう」
まあ、靴紐が解けて転んでしまうこともあるだろう。先ほどの醜態は見なかったことにする。
「実はこの森を抜けた先の街まで行く予定なんだけど、クオンはどう?」
「俺も街を目指していたんだ」
「じゃあ都合が良いわね、一緒に行きましょ」
ということで、フィオと一緒に街に向かうことになった。
森の中では他にも魔物がいるだろうから、誰かと一緒に行動できることは大変ありがたい。
ありがたいと、思っていたのだが。
「クオン、たすけてぇ」
とてもじゃないが、フィオは道中では役に立たなかった。
戦おうとするたびに転んだり剣がすっぽ抜けたり、酷い時はズボンが脱げていた。うん、青色だね。
そのたびに俺が戦うのだが、まともな戦闘は出来なかった。
何とか毎度毎度ひょんな偶然で魔物を撃退し、森を抜けることができた。
「なんていうかアレだな、フィオは運が悪いな。ドジだ」
「うるさい、私だって頑張ってるんだから」
出会ったときは凛としていた彼女だが、森を出るころにはシュンとして泣きそうな顔になっていた。
森を抜けてからは特に危険な目に遭うわけでもなく、無事に街へと着いた。
立て看板にはこう書いてあった、『冒険者が集う街、エルム』と。
日が完全に沈む前に到着して良かった。
「着いたわね!」
街に着くころにはフィオの機嫌も直っていた。
「クオンはどこか行く当てはあるの?」
「実はこの辺に来たのも初めてで、お金も持ってない」
「一体街に来てどうするつもりだったのよ......?」
そんなこと言われても、文句なら女神様に言ってほしい。
「まあ、助けてもらった礼に今晩は私が宿を取ってあげるわ」
「助かるよ」
「任せて、ってあれ?」
フィオは自らの体のあちこちをぺたぺたと始める。もしかして、こいつ。
「財布、落としたみたい」
また、泣きそうな顔をしていた。
少し街を歩いていると銀貨が落ちていたので、そいつを使って宿に泊まることができた。
転生前なら拾得物横領的なやつで罪だが、生憎ここは異世界だ。
「本当は違法なんだからね」
どうやらここでも拾った金を勝手に使うのは罪らしい。まあ大した罰もないらしいが、次からは気を付けます。
ということで、俺の異世界生活1日目は無事終了した。




