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11「連れ戻す」


 エリシアが、嘆きの巣窟に向かった。

 俺たちはそう聞いて驚きもしたけど、どこかそんな予感もあった。


「なあ、話を聞かせてくれないか?」


 俺は噂話をしていた冒険者に話を聞いた。


「ああ、最近Sランクのダンジョン攻略に冒険者を誘いまくってた子なんだがな、『紅蓮の盃』っていうCランクパーティーと一緒にそのダンジョンに向かっちまったんだよ。多分死ぬなあれは」


 そう聞いて、俺は思わずギルドの外に飛び出しそうになった。


「クオン!!」


 フィオに強く呼び止められ、腕を掴まれた。


「私たちが行っても死ぬだけよ」


「でも!」


「でもじゃない!」


 俺の腕を握るフィオの力が強くなる。


「クオン、抑えてよ。私は、あなたが死ぬのも、セレスが死ぬのも見たくないわ」


 そんなの、俺だって見たくねえよ。

 それでも、あの子を見殺しになんてできるわけねえだろ。


「クオン、私たちはまだダンジョンに挑めるほど強くない。私の魔法も、アンデッド相手には効果が弱い」


 セレスも、俺を止める。


「......くそっ!!」


 これほど、自分が無力だと思い知らされたことはない。この世界でも、前の世界でも。


「......分かったよ」


 その日は、とてもじゃないけど依頼をこなす気にはなれなかった。

 エリシアのことが頭から離れない。

 あんなに小さくて、かわいらしいはずの女の子なのに、父を救うという大きな使命を背負って。

 父を眠らせたいと語った彼女の顔が、頭から離れない。悲しそうで、それでいて強い覚悟を宿したあの瞳を、俺は何度も思い出していた。


「くそ......」


 こんな俺を、フィオとセレスは一人にしてくれた。弱っている俺を、見ないでくれた。

 ほんの少ししか話していない、顔と名前と、少しの過去しか知らない相手だけど、俺はあの子を助けたかったんだ。

 今からでも、間に合うだろうか。セレスとフィオは、巻き込めないな。

 一人で行こう。大丈夫、俺は運が良いんだ。なんとかなる。

 装備を整えて、俺は宿を後にした。

 夜中、俺は一人で街の入口へと向かう。外に出れば当然魔物は出てくるし、ダンジョンに入ればアンデッドにも襲われる。それでも、行こう。


「じゃあな、フィオ、セレス」


 俺は、一人で街を出た。


「まったく、仕方がないわね」


「本当に、無茶ばかりする男だ」


 一人で街を出たつもりだった。


「な、なんでいるんだよ」


「どうせ、行くと思ったわよ」


「クオンはそういう奴だ」


 二人とも、準備は万全だった。俺が飛び出してしまうことが分かってたのか。恥ずかしい。

 でも、心強い。


「本当に、行くつもりなのね」


「......ああ」


「だったら一つ、約束して」


「何だ?」


「無理だと分かったら必ず逃げること」


「......分かったよ」


「ちょっと間が気になるけど、その時は引きずってでも逃げるからね」


「ごめん、ありがとう」


「いいわよ、仲間なんだから」



 こうして俺たちは三人で街を出た。

 俺は、いい仲間を持った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 道中は魔物を倒しながら、フィオの案内で俺たちは進む。

 夜が明ける頃には、周囲の景色もだいぶ変わっていた。

 木々は枯れ、草もほとんど生えていない。なんというか、見るからに嫌な場所だ。


「……近いわ」


 フィオがそう言った。

 少し進むと、大きな岩山が見えてくる。

 その麓には、巨大な洞窟の入り口。


「あれが……嘆きの巣窟か」


 その名前に相応しく、入り口からして不気味だ。

 中は真っ暗で、冷たい空気がここまで流れてきているような気さえする。


「待って」


 フィオが足を止めた。


「誰かいる」


 洞窟の入り口付近に、何人か人が倒れている。


「おい!」


 俺たちは急いで駆け寄った。

 四人、全員冒険者のようだ。

 鎧はボロボロで、武器も欠けている。一人なんか腕からかなり血を流していた。こいつら、応急手当すらしてないのか。


「大丈夫か!?」


「……生きてる」


 セレスがしゃがんで確認する。

 すると、一人の男がゆっくり顔を上げた。


「……お前ら、何しに来た」


「紅蓮の盃か?」


 俺が聞くと、男は少し驚いた顔をした。


「……そうだ」


 こいつらがCランクパーティー、紅蓮の盃。

 昨日エリシアと一緒にここへ来た連中だ。


「エリシアは!?」


「……」


 男は黙った。嫌な予感がする。


「一緒じゃないのか?」


「……あの嬢ちゃんは、まだ中だ」


「は?」


「止めたんだよ!」


 男が悔しそうに地面を殴った。


「俺たちは奥まで進んだ! 最初は行けると思ったんだ。雑魚のアンデッドくらいなら、何匹出てこようが敵じゃなかった!」


 男は自分の壊れた剣を見る。


「でも……途中からおかしくなった」


「何が?」


「強さだよ。進めば進むほど、出てくる奴らの強さが跳ね上がっていった。数も減らねえ。倒しても、倒しても……」


 その声が震えていた。


「俺たちは命からがら逃げた」


 こいつらですら、か。

 見れば分かる。装備も、雰囲気も、そこらの冒険者とは違う。


「紅蓮の盃はCランクだけど、実力だけならAランク級って噂よ」


 フィオが小声で言った。


「Aランク……」


 それがこの有様か。


「エリシアにも戻れって言ったんだ」


 男が続ける。


「でも、あいつは……『私は行きます』って」


「……あの馬鹿」


 思わず声が漏れた。

 本当に行ったのかよ。


「お前らもやめとけ」


 男が俺を睨む。


「悪いことは言わねえ。ここはCランクだのAランクだの、そういう話じゃねえ」


 男は洞窟の奥を見る。


「ここは本当に、Sランクだ」


 俺もその暗闇を見る。

 怖い。そりゃ怖いさ、でも。


「……それでも行く」


「クオン」


「ここまで来て帰れるかよ」


 フィオを見る。

 フィオは小さくため息をついて、剣の柄に手を置いた。


「言うと思った」


 セレスも杖を構える。


「目的は攻略ではない」


「ああ」


 Sランクダンジョンを攻略しに来たわけじゃない。

 俺たちがやることは、一つだけだ。


「エリシアを連れて帰るぞ」



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