5 善意の仮面
「ごめんね。コモドドラゴンはテッパンネタなの。お父さんがコモドドラゴンを飼っていたというのはウソ」
「ウソ?!」
三日後にはアイシャは撤回した。
「叔父さんが保護活動していたから、遊びに行ったときに実物を見たことはあるし、触ったこともあるけどね」
「いや、それもすげーよ!」
クラスは分断した。アイシャを無視する派とアイシャと親しむ派に。それはそれは、くっきりと分かれた。
アイシャを中心とした集団はクラス外にまで広がっていった。英語が得意なアイシャに勉強を教えてもらったり、逆にアイシャが不得意とする物理や化学を教えたがる男子も多かった。
「あれさ、媚びてるんだよ!」
ハンバーグの肉片を吹き飛ばす勢いで、真帆は言った。
アイシャたちを避けて、真帆と千夏は食堂に移動していた。真帆の弁当はいつも美味しそうなおかずがたっぷりと入っている。
千夏は購買のパンを齧る。ママが朝早く家を出るので朝食もパンが多い。だから夕飯が楽しみになるのだ。
「物理や化学が不得意なんて嘘。ああやって男子が得意な科目を教えてもらってるんだよ。男子は自分より劣っている女子をかわいいと思うでしょ。男子に優越感を持たせて気分よくさせてるんだよ。キャバ嬢と一緒。テレンテクダだよ」
手練手管という言葉を噛みそうになりながら、真帆は主張する。
「でも、だとしたら、アイシャに不得意な科目、ないんじゃないかな。なんでもできて羨ましい……かも」
千夏たちの通う高校は偏差値があまり高くない。だからアイシャを賢いと認めるのはしゃくに触るのだろうけど、偏見からくる差別を見せられるほうが千夏には居心地が悪い。真帆が醜く見えてしまう。アイシャが劣等生だったとしても、それを理由にバカにするだろうし。
「おれがガツンと言ってこようか」
隣のテーブルでこっそり聞き耳を立てていたらしい山田が真帆に擦り寄る。
「山田クンがガツンと? どうやって?」
「ちょっとネットで調べたんだ。あいつも可哀想なやつかもしんない。ちょっとわからせてやろうかなって」
「へえ。見てるから頑張って」
真帆に後押しされた山田は照れくさそうに笑った。
教室に戻ると、ずんずんとアイシャのグループに近寄っていく。そして周囲を押し退けるようにしてアイシャの眼前に立った。
「おい、アイシャ。おまえがかぶってるの、ジルバブってんだろ」
アイシャは笑顔で応えた。
「インドネシアではそうよ。総称としてヒジャブでもかまわないけど。どうして知ってるの?」
「もっとアイシャのこと知りたいと思って、ネットで調べたんだ」
アイシャを取り囲むグループはほっとしたようだった。
そばにあった椅子を引いてどかりと腰掛けた山田は、アイシャとグループの全員の顔を見やって、溜息をついた。
「だけどひでえよなあ。イスラム教って男尊女卑じゃん。子供が産まれたときの振る舞いのご馳走で、男児だったら羊二頭なのに、女児だったら一頭だけって、歓迎されないんだな、女は」
グループ全員の視線が一斉にアイシャに移る。
だがアイシャはだまっている。




