4 転校生
翌日、クラスに転校生がやってきた。
制服を着ているが頭にヒジャブを巻いている。外国人の女子。昨日会った子だと一目でわかった。
教室がざわめいた。
真帆を見たが視線はあわなかった。真帆の意識は転校生に集中しているようだ。嫌な予感がした。
先生の話では、父親がインドネシア人で母親が日本人だそうだ。
「アイシャといいます。よろしくお願いします」
休み時間になるとくっきりと勢力が分かれた。アイシャと仲良くしたい派、アイシャを無視する派。真帆が後者なので必然的にわたしも後者になる。
「なんかさ、教室臭くない?」
無視ならまだよかった。露骨にいじめようとする男子が現れた。
数人が笑声をあげたことに気をよくした男子はさらに調子に乗った。
「豚肉食えないってマジ? 人生損してない?」
「え、カツ丼の味知らないなんて生きてる意味なくね?」
同調者まで出てきて、教室がどっとわく。
「ちょっとやめなさいよ」
アイシャと仲良くなりたい派のリーダーはクラスの委員長だ。
「差別してるって自覚ある? すごく醜いこと言ってるって」
「なんだよ、優等生ぶりやがって。ニッポンの文化を教えてやってるだけだ」
「アイシャは両親の仕事の都合で日本とインドネシアを行ったり来たりしているから、今さらあんたたちに教えてもらう必要はないんだけど。ねえ、アイシャ」
アイシャはこっくりと頷いて、ゆっくりと男子を見据えて言った。
「コモドドラゴン、知ってる?」
「……は?」
いじめっ子が言葉を失っている間に、瞳を輝かせた別の男子が身を乗り出した。
「そういやインドネシアにいるんだっけ。実物見たことあるの?」
アイシャはにっこりと笑った。
「お父さん、子供のころ、コモドドラゴンを飼っていた」
「す、すげー!」
羨望の歓声があがる。
「今は法律で飼えないけど。幼体から飼うとけっこう馴れるんだって。知ってる? 幼体のときは共食いする習性があって、木の上によじ登って仲間から逃げるの。木登りよ。すごく器用なの」
「口の中雑菌だらけって本当? 噛まれたら死ぬって」
「運が悪いと死ぬかもね。噛まれたら必ず死ぬわけじゃない。ここ五十年くらいで五人しか犠牲になってなかったと思う。日本の熊のほうが怖くない?」
「でも熊は哺乳類だもん。トカゲで最大だろ、コモドは」
「全長三メートルくらいじゃないかしら。嗅覚がすぐれていて四キロ先の動物の死骸を嗅ぎ分けられるみたい」
「うわ、すげえ。見てみたいなあ」
男子のまなざしが憧憬に染まる。
「日本の動物園にもいるって聞いたけど」
「え、どこどこ」
餌をねだる池の鯉みたいにアイシャの周りに群がりはじめた。
委員長と優等生グループはやれやれといった調子で肩をすくめた。ひとり、山田という男子だけが不愉快そうに鼻を鳴らして教室を出て行った。




