145 / 女の鎖
「娘が成長するにつれて、母親は娘に対して対抗意識を持つようになる」
と、どこかの本で読んだ。
いや、動画でそのような論説を聞いたのだっけ。
まぁいい。
今はそんなこと、どうでもよく。
思えば、私がまだ学生だった頃、うちの母親は私が化粧などを覚えていくにつれ、目をつりあげて嫌味を連発したものだった。
あれは中学1年生の頃のことだった。
私が友人の美咲ちゃんに影響を受けて、はじめて、真っ赤なマニュキアを両手の爪に塗ったときのこと。
それはそれは特別な体験だった。
しかし、それを見つけた母は、
「なにしてるの!そんなことやめなさい!すぐに落としなさい!」
と目くじらを立てて怒ったのだった。
なんで?
素敵なお洒落をしてみただけなのに。
私は、突如ふっかけられた母の理不尽にかなりイラっとした。
しかし家の中では母が絶対。
私は、おもしろくないと思いながら、しぶしぶ除光液でマニュキアを落としたのだった。
翌日、私は学校で美咲ちゃんや他の仲のいい友達に、
「うち、親におこられてさ」
と愚痴ってまわった。
すると美咲ちゃんは、
「へー、理解のない親だねえ」
と訳知り顔で言うのだった。
私は、なぜかその時の美咲ちゃんが、非常に憎たらしく感じられた。
以来、私は大学に入って実家を出るまで、お洒落というものに無縁でいた。
しかし大学に入って一人暮らしを始めてからは、まるでそれまで溜まっていたうっぷんを一気にぜんぶ晴らすように、バイトをしたお金を全部お洒落につぎ込むようになったのだった。
そんななかでも、あるとき10万円もする革のボストンバッグを現金一括で購入した。
それはそれは、特別な体験となった。
若い頃は、そんな馬鹿な金の使い方もしたりして、いろいろ実地で学ぶのである。
近頃、妙に化粧っけが目についてきた高校生の娘を間近に見ながら、
「そんなに化粧して、変な男の人にストーカーでもされたらどうすんの」とか、「誰もあんたなんか見てないんだから、馬鹿なことはやめておきなさい」
などと苦言を呈する私である。
自己分析するに、心からの心配が2割、若さへの羨望と嫉妬が8割、といったところか。
もう戻らぬ時を、娘を通して見せつけられる。
夫は、そんな私を、いつも「まぁまぁ」といってなだめるのだが、男には一生分からない感覚なのかもしれないな、と思ったりしている。




