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『キリトリセカイ』Vol.02(101~200)  作者: 百字八重(ももじやえ)


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144 / 彼女のおなら


「ねぇ、ドローンって、お値段、いくらくらいするのかしら」

彼女がいきなり、そんなことを聞いてきた。


「スマホがあるんだから自分で調べれば?」と言いたくなるのをこらえて、「さぁ。知らないなぁ」と答える僕。


しばらくして、彼女が再び僕に質問してきた。

「ねぇ、イマドキのペットって、お高いのかしら」


「なんで金の話ばかりなんだよ」と突っ込みたくなるのをこらえて、僕は「さぁ、知らないねぇ」と答える。


すると彼女は、

「ねぇ、少しは会話を盛り上げようっていう気は起こらないの?」

と苛立たし気に言ってきた。

「なんだよ。イライラしてんのはこっちだよ」と言いたくなるのをこらえて、僕は「ごめん、じゃあ、ドローンの話題に戻ろうか」と振ってみる。

すると「戻りすぎだから」と彼女。

なんだと。ひとがせっかく話題を盛り上げようと配慮してやったのに。


「ねぇ、私たち、そろそろ結婚しない?」

と、彼女が唐突に切り出してきた。

そうきたか。

どうする、僕。

答えに窮して、僕は沈黙する。

「じゃあ、いっそのこと、別れる?」

イラついた口調で、彼女は啖呵を切ってきた。

待て、待て。

なんでそうなるんだ。


「結婚、したくないわけ?」

まずい。

彼女のイライラが最高潮に達している。

何か返事をしなければ。

「したくないわけじゃないけど、今?」

と、僕はなけなしの勇気をふりしぼって言葉を継いだ。

「え、なにそれ」と彼女。

まずい、地雷を踏んだか。


てか、めんどくさい女。


「別れようか」

僕は自分でも驚くほどの快活さで、そんな言葉を口にしていた。

だって、考えてもみろ。

結婚する前からこの調子だぞ。

こんなめんどうな女と一生一緒にいるなんて、なんの罰ゲームだ。

僕は意を決した。

「じゃあ、そういうことで」


あっけにとられている彼女と冷めたコーヒーを残したまま、僕はカフェをあとにした。

ああ、このときの解放感といったら!


そんな夢を見て目が覚めた。

目の前には、五十になるくたびれた彼女。

結局、僕らは結婚した。

今となってはいい思い出だけれど、あのときの僕の態度で、彼女は僕の大切さを思い知ったという。

すっぴんでシワの入った彼女の寝顔をのぞきこむ。

あの頃は気を遣いまくっていた僕も、今では彼女と口喧嘩をするに至っている。

思えば遠くまで来たものだ。

まだまだ、これからも一緒によろしくね。

心の声が聞こえたかのように、彼女はひとつ、大きなおならをして僕を笑わせた。







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