143 / 痛みとアンコ
背中が痛む。
肩甲骨と肩甲骨の間、背骨の上の広範囲にわたって、痛む。
40代の時からだから、かれこれ20年のつきあいになる。
40代は、それまでがむしゃらに駆け抜けてきた10代、20代、30代とは違って、一気に体にガタがくる。
職場の先輩に聞いてはいたものの、果たして、まさに自分がその歳になり、まさか本当に体のあちこちが痛くなるとは思わなかった。
最初は、筋肉痛かと思った。
しかし筋肉痛は数日から数週間で治るが、私の痛みは治らなかった。
まさかそれが20年も続くなんて、誰も思わない。
私は加齢を甘くみていたとしか、言いようがない。
くそ。
それに、60代になり、急激に歯も悪くなってきた。
「悪くなってきた」と言うよりは、抜けてきた。
物理的に。
歯医者に行くと、「加齢ですね」のひとことで済まされた。
以来、外に出るときは入れ歯をして出かけるようになってしまった。
入れ歯なんて、もっと高齢の人がつけるものだと思っていた私は、少なからずショックを受けた。
50歳前後で閉経を迎え、女性ホルモンも男性ホルモンも急激に低下し、主に精神面で苦労したが、独り身だった私は誰にも相談せずに終えた。
近くに相談する人があれば、やれ病院に行けだの、やれどこどこの漢方がいいだのと話に花が咲いたろうが、残念ながらそういうことを話せる友達は皆無であったため、私はこういうものかといった具合に更年期を終えたのだった。
大騒ぎすることがなかったので、それ自体は、わりと幸運だったように思っている。
なんの話だ。
そうだ、痛みについての話だった。
そんなわけで、40代から現在に至るまで、さまざまな痛みとつきあってきたのだけれど、人生で一番痛かったことは、30代の時に飼っていたペットを亡くしたことだった。
若く、そのぶん感性もみずみずしかった私は、非常に傷つき、激しく混乱し、おおいに泣いた。
時間薬とはよく言ったもので、今となってはいい思い出となってしまっているが、当時は本当につらかった。
再びペットを飼うことなくこの歳まできたが、体の痛みを感じるたびに、
ああ、わたし、まだ生きてるよ、アンコ。
と、語りかけずにはおれない。
いつかそちらに行くまでは、きっとたくましく生ききってみせますからね、といつも付け加えて今日も米を炊いている。




