142 / みちみちて笑み
「あたし、あんたのママじゃないから」
という捨て台詞ならぬ、捨てメッセージをラインに残して、美羽は去っていった。
半年前のことである。
小学4年生の沙也加はそんな俺を、「ふられてやんの」という言葉で一蹴した。
誰に似たのだ。
飼い犬のマメタだけが俺の味方だ。
しかし、なんだというのだ。
毎日毎日、家事もすべてこなして、娘の弁当まで作って、マメタの散歩も出来るだけして、仕事も休まず励んでいる俺だ。
誰かに甘えたっていいじゃないか。
娘が成人するまで、家族の面倒を見てくれる優しい女性を求めたって、罰は当たらないだろうに。
俺が何をしたと言うのだ。
くそ。
それに、正直なところ、俺だって誰かに甘えたい。
あたたかな体温を感じながら眠りにつきたい夜がある。
これから寒くなっていく季節、そんな夜も確実に増えてゆく。
くそ。
どこかにいい女性はいないものか。
というわけで、たまらず既婚の女友達に相談したら、以下のような言葉が返ってきた。
「衣食住と性生活の世話をする代わりに養ってもらえるならオーケーを出す女性もいるんじゃないの。知らないけど」
ずいぶんとドライな回答だが、実際のところ、女性側の頭の中で、そのようなソロバンがはじかれているのだと知り、反射的に拒絶反応が起こった。
違うのだ。
俺が求めているのは、お互いに支え合え、癒し合える、魂のパートナーなのだ。
そう力説してみると、
「でも、求めてるのは家事・育児・性生活の相手でしょ。実際。いいんじゃないの?イマドキ主婦になりたい女性は沢山いるし」
と思いやりのかけらもない言葉が返ってくる。
違うのだ。
俺が求めているのは、互いを唯一のパートナーと認め合える――。
なんだか空しくなってきた。
そんな疲れきった俺の顔を見て、「パパ、疲れてるね」と沙也加が言う。
そうなんだよ、パパ、疲れてるんだよ。
だから、神様、どうか俺に素敵な女性を。
マメタが餌をねだりにやって来た。
俺はマメタの皿を取り出して、ふと、マメタも独身だな、と思い至る。
というか、マメタ、去勢してるな。
なんだか、男と一匹、そして娘が一人の空間に、人知れぬ滑稽味が満ちているような気がして、俺はひとり苦笑いを漏らした。




