140 / いつまでもこんな日が
仕事を終えて家に帰ると美紀が洗濯物を取り込んでいるところだった。
「ただいま」
僕はリビングのソファの足元に鞄を置きながら声をかける。
「おかえりー」
両手いっぱいに洗濯物を抱えた美紀が、サンダルを脱いでベランダからあがってくる。
僕は美紀の手から洗濯物を受け取り、室内の物干しにそれらを掛ける。
「ごはん、どうする?」
美紀がたずねる。
「僕、スーパーで総菜買ってきた。朝、美紀が言ってたカツがあったから」
「じゃあレトルトカレーでカツカレーにしようか」
「いいね、そうしよう」
僕たちの食卓は、いつも、こんなふうに決まる。
工場勤務の僕と、製薬会社勤務の美紀は、僕が言うのもなんだが、非常に質の良いコンビネーションを組んでいる。
何か決める際にはまず言い出しっぺがいくつか候補を出し、次いで相手がそれを評価しつつ更なる案を出す。
そうしてブラッシュアップしていくなかで、行き違いがあればすり合わせをするし、自論を引っ込めることもあれば、口論をせず白熱した議論を展開することもある。
本当に、美紀は僕にとって人生のパートナーであると言える。
美紀と結婚してから、僕は感情のささくれがかなり減った。
結婚するまで僕は植物にまったく関心を持っていなかった。
僕の関心事と言えば、大体が無機物だった。
結婚を機に、美紀の提案で観葉植物を育てることにしたのだが、これも美紀の提案で、水やりは僕の担当になった。
毎日毎日、水をやっているうちに、僕はおのずから植物に関心と愛着を抱くようになった。
それは食卓にのぼる食材にも及び、それまで、やはり関心のなかった、人参やじゃがいも、玉ねぎにほうれん草といったものにまで興味を抱くようになったのだった。
そして、それらを料理していただく、ということに、ある種の神聖さを、いつのころからか抱くようにもなった。
そんなスピリチュアルなこと、昔は大嫌いだったのに。
僕も歳をとったということだろうか。
そんな言い訳をしながら、今日も僕は食卓につく。
「いただきます」
と手を合わせ、美紀といっしょに。
美紀と一緒に、食べ物をいただく。
窓際では、観葉植物がすくすく育っている。
カツカレーはことのほか、うまい。
いつまでもこんな日々が続けばいい、と思った。




