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『キリトリセカイ』Vol.02(101~200)  作者: 百字八重(ももじやえ)


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139 / ダイレクトメッセージ


今朝も夫を会社へ、息子を幼稚園へ、義母をデイサービスへと送り出し、一通り家事を終え、二階の自室でひとりノートパソコンを開く。


いつものように、SNSを一巡していると、ふと、とあるサービスのダイレクトメッセージに新着の印がついていることに気がついた。


誰だろう。

フォロワーさんかしら。

宣伝?

詐欺とかだったら嫌だな。


しかし、一瞬で脳裏をめぐったそれらの候補はすべて裏切られる形となった。


【お久しぶりです。何年ぶりでしょうか。エノモト コウジです。覚えていらっしゃいますか。お元気でしょうか。よろしければ、今度お茶でもいかがですか。お返事、お待ちしております】


メッセージの相手は、「エノモト コウジ」。


その文字列の響きに、一気に胸の奥が熱くなった。

それと同時に当時の情景が次々と思い出され、口に慣れた「コウちゃん」という呼び名さえつるつると浮かんできた。


「わっ。めっちゃ懐かし!コウちゃんだ」


思わず、そんな言葉が口から漏れていた。


榎本浩二、通称コウちゃんは、私の三番目の彼氏であった。

大学2年生という、最も遊びがいのある自由な時期に出会い、それから2年間つきあった。

卒業と同時に結婚するものだと思っていたが、コウちゃんが転勤で遠方へ引っ越してしまったのを機に半ば喧嘩別れし、それから徐々に疎遠になり、互いに結婚してからは完全に音信不通になってしまったのだった。


「えーっ、なっつかし!」


自然と、同じ言葉が口をついて出る。


でも――。


私は今の生活が好きである。

夫の顔、息子の顔、義母の顔が浮かんでくる。


だから――


私はマウスに乗せている人差し指に機械的に力を入れた。

ポップアップ画面が開き、「kou_0302をブロックしますか?」というメッセージが表示される。


バイバイ、コウちゃん。


甘酸っぱい青春の思い出の一つに静かに幕を下ろして、私はお昼ご飯の買い出しをするために階下へと向かった。







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