136 / 勇者のため息
クソである。
今度の学園祭のクラスの出し物が「女装&男装カフェ」に決まった。
友達たちは今からはしゃいでいるし、クラスの女子もキャーキャーと盛り上がっている。
そんな中、俺はひとり内心でげんなりしている。
俺には二人の兄姉がいる。
二人とも成人していて、二人そろってオタクだ。
長男のヨシノブはガンプラ(ガンダムのプラモデル)を作るのを趣味にしていて、稼いだ金のほとんどをそれにつぎ込んでいると聞く。
長女のミオは、いわゆる腐女子である。これについては説明する必要もないだろう。
そんな兄と姉の下で育った俺が、オタクにならないわけがない。
俺はもれなくディープなアニメオタクに育った。
話はそれで終わらない。
世の中に、コミケというものがある。
夏と冬に東京で開催される、同人の祭りだ。
そこでは同人誌が販売されたり、コスプレイヤーがコスプレをしたりする。
毎回、それらを目当てに海外からも含め、大勢の参加者が会場を埋めるのだ。
兄と姉は常連で、俺はそんな奴らにそそのかされて、昨年の冬、人生初の女装をさせられて無理やり参加させられた。
元々顔立ちの整っている俺は、そこでカメラを抱えた参加者にもみくちゃにされ、握手まで求められたのだった。
その参加者の拡散能力が高かったこともあり、以来、SNSでの俺は若手女装コスプレイヤーとしてそれなりに有名になってしまっているのだ。
この事実を、クラスの誰も、知らない。
しかし、今回、クラスの出し物が「男装&女装カフェ」に決まったことで、女装をした俺がかわいいことがクラスのみんなにばれてしまう可能性が高い。
このご時世だ、写真を撮る奴は絶対いるだろうし、それをSNSにあげる奴もいるだろう。
そうなるとSNS上の俺のファンがそれを見つけるかもしれない。
それが広まって、クラスの誰かにばれるかもしれない。
そうなると、どうなる?
クラスの連中が盛り上がっている中で、俺は何食わぬ顔で思考を回転させる。
俺が人気者になってしまうではないか。
そうなると嫉妬する男子も出てくるだろう。
俺は、それが嫌なのだ。
面倒事は避けたいのだ。
しかし、俺の中の中二病が叫んでいる。
選ばれし光の勇者よ、今こそ立ち上がれ、そして赤き口紅を塗りつけかつらをまとい背負いし後光で世界を照らすのだ、と。
フッ、兄貴や姉貴のことを、笑えないな。
俺は大きなため息をつき、伏し目がちに片手で髪の毛をかきあげた。




