135 / ホーム
孫にこっそりお小遣いをあげていることが、その母親である嫁の里香にばれたようである。
というのも、夕食の席で、息子の圭太に「母さん、翔馬に小遣いやるのはやめてくれないか」と言われたからだった。
おおかた、里香が圭太に告げ口したのだろう。
かわいくない、嫁。
言いたいことがあるなら、私に直接言えばいいのに。
私だって、鬼ではないのだから、ちゃんと言ってくれれば返事だってするのに。
まぁ、そうは言っても、孫に小遣いをやるのを辞めるつもりはないのだが。
この歳になって思うのは、人間、いつまでも健康ではいられない、ということだ。
私の場合は、50歳を過ぎたあたりから身体の節々が痛み始め、今では24時間痛みと闘っている。
特別、病気ということではないのだが、とにかく関節が痛かったり、ちょっとしたことで筋肉痛になったりするのだ。
自分がこんなふうになるとは、思いもよらなかった。
胃腸の調子だって、若い頃と同じというわけにはいかない。
トンカツや焼き肉といった油っこいものは食べられなくなったし、なんなら寿司や刺身も厳しいくらいだ。
ごはんと味噌汁、それに漬物が少しあれば十分で、それでは栄養が偏ってしまうから、仕方なくサプリメントを摂取している。
年金生活となり、夫に先立たれた後は好きにさせてもらっているけれど、ごくたまにとてつもない寂しさにおそわれる。
友達とお茶をしているとき、習い事のお花をしているとき、夕飯の席で――。
なんてことはない瞬間に、ふいに寂しさが訪れるのだ。
先日だって、里香に「お義母さん、夕飯はもう食べたでしょう」と言われて、とてつもない寂しさに襲われた。
世の中が、私を置いて猛スピードで遠ざかってゆくような、そんな気が、した。
みんな、待って。
そう叫びたくなる。
けれど幸いにも、私の脳は、そんな寂しさをも忘れてしまうほどに鈍くなっているようあだ。
今夜は、圭太から「話がある。夕食の席で」と言われている。
私にも、ついに老人ホームへ入るときがやってきたのかもしれない。
この家で邪魔者として扱われるよりかは、老人ホームの方がましだろうか。
それとも、老人ホームに入って、寂しさでたまらなくなるだろうか。
ぼんやりとした頭で、かんがえる。
里香にご飯を運んでもらいながら。




