127 / 腐る者たち
「え!信じらんない!絶対許せないんですけど!」
女3人集まって、喫茶店のコーナー席で雑談に花を咲かせていると、隣の席からそんな声が響いてきた。
「なになに?なんなの?うるさいわね」
向かい席の友人が眉を寄せてこちらに耳を近づけてくる。
私は3人を代表して、分厚い椅子ごしに、隣の席をうかがう。
「え!ラヴィ×アクィナスじゃダメなわけ!?なんでそんなにアルージェ×ラヴィ推しなの!?」
先ほどの声の主は、周囲をはばかることもなくなおも続けている。
「え、逆になんでラヴィ×アクィナス推しなのかこっちが聞きたいんですけど!」
そんな声も聞こえてきた。
「なになに?何の話?」
私の友人たちは、隣の席の女性たちが何の話で盛り上がっているのか、皆目見当がつかないようだ。
そうだろう、そうだろう。
健全に生きてきた彼女たちのようなタイプには、一生かかっても理解できない趣味だろう。
しかし私には理解できてしまう。
私は、自分の部屋の一角にある推しの「祭壇」を思い浮かべていた。
「祭壇」とはなんぞやと思った方のために説明すると、我々、推し活(アニメの登場人物や実際のアイドルを追いかける活動)にいそしむ者の多くは、推しに関するグッズを集める傾向にある。
そして、集めたグッズを、まるで古代の遺跡にように飾り立てる習性があるのだ。
界隈ではそれを「祭壇」と呼ぶ。
SNSで調べてみると、実に多彩な「祭壇」の画像がヒットすることだろう。
なかには、どれだけの金をつぎこんだのだろうと、あっけに取られるほど豪華な「祭壇」も存在する。
私はそれらを閲覧しては、会うことは無くとも通じ合えている同好の士に思いを馳せうっとりするのだが、もちろん、目の前の友人たちにそのような話をしたことはない。
彼女たちは、幼い頃は少女漫画を読み、やがてそれを卒業し、普通に芸能人を好きになったり化粧をしたり恋愛をしたりして大人になり、結婚し、子供を産み育てている至極「まっとうな」人たちなのだ。
たまたまジムのヨガクラスで一緒になった40代独身の私とは、住む世界が違う。
私は隣の席でなおも続く界隈談義に耳をダンボにしながらも、目の前の友人たちに「そういえばヨガの先生、今日なんか雰囲気違ったよね」などと話題をふったりする。
世を忍ぶ仮の姿を演じるべく。
ちなみに私は教師×生徒(ナマモノはNG)推しであるが、それは墓場まで持っていく私だけの秘密である。




