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『キリトリセカイ』Vol.02(101~200)  作者: 百字八重のブログ


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22/26

122 / 兄貴のF


二つ年上の兄貴が、このまえの誕生日に、親に買ってもらってギターを始めた。


それからというもの、兄貴の部屋からはへたくそなギターの音がする。

はじめは意味不明なじゃかじゃかと乱暴に弦を鳴らす音が響いた。

かと思えば、途端に静かになり今度は耳に心地の良い調和のとれた音がする。

しかしあまりにもうるさいので、俺は宿題に集中できなくて、ベッドに横になって漫画を読み始める。

漫画を読んでいる間も、兄貴のへたくそな演奏はいつまでも続いた。


そんな日々が続いたある日のこと、俺は兄貴のいない時間帯を見計らって、兄貴の部屋にこっそりとしのびんだ。

目当ては、あのギターである。

家の中に誰もいない気配を確認してから、そっとそのボディに触れる。

持ち上げてみるとめちゃくちゃ重い。

あらかじめYoutubeで確認しておいたように、俺はプロのミュージシャンを真似てギターを構えた。

まるでギターを抱っこしているかのような形になったが、まぁいい。

俺は試しにコードのCとやらを弾いてみた。

ポロンと、耳に心地よい音が響く。

すごい。

俺は静かに感動した。

と同時に、ワクワクする気持ちを抑えきれなくなった。


それからというもの、俺は兄貴がいない時間帯を見計らって、毎日のようにギターを弾くようになった。

ところが、ある日のこと、いつものようにギターを練習していたら、ドアの隙間から兄貴が顔をのぞかせた。

「お前、何してんの」

怒られると思った。

しかし兄貴は、「お前、うまいじゃん。ギター」と言って、「F弾ける?」と言ってきた。

俺は緊張しながら、Fを弾いてみた。

すると兄貴は、「すげー!お前、才能あるわ!俺F弾けねえもん」と言った。

そして、「そのギター、お前にやるよ。俺、飽きちゃったしな」と言って笑った。


「それが、ギターを弾いていて思い出す、俺と兄貴の思い出です」

某市のコンサートホールで客を前に話して聞かせる今の俺は、今年で三十五になる。

兄貴は大人になって美容師になった。

いつもは町の美容院で働いているが、ひとたび俺の巡業となると、一緒についてきてくれ、フルメイクからヘアセットまでひととおり手がけてくれる。

ステージ上から、俺はいつものように脇に控えている兄に手を振る。

そこには、どこか誇らしげな兄貴が、照れるように笑っている姿がある。







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